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本が少女に変わってしまった。この事実に開いた口が塞がらないフレイヴとゾイ。なぜにそうなってしまったかという解明もできそうにない。目の前にある状況に頭の中の情報を処理してくれそうな小人たちが働いてくれないから。
「なんで、人がねむっているの?」
その疑問はゾイだけには限らず。フレイヴもこの状況をどうしたらいいのかわからないのである。
「わからない」
どうしよう? どうする? と二人が互いでアイコンタクトを取っていると、目を閉じていた少女の瞼がゆっくりと開かれた。これにより、彼らは大きな驚きを見せる。フレイヴは尻もちをつき、ゾイに至っては腰を抜かして彼の服にしがみつく。それほどまでに彼女は幽霊ではないはずなのだが。
「ん、ぁ」
少女が完全に目を覚ましたとき、彼女の真っ黒な瞳はこちらを怪訝そうに見ているフレイヴを捉えた。
「あれ? 俺?」
何があったのか、と横にしていた体を起こそうとするのだが、目の前に欠けたガラスが飛び込んできそうになって「へぁっ!?」と変な声を出してしまう。
「あ、あぶねぇ」
後少しで割れたガラスで頭を切るところだった。これに少女は大きく息を吐くと、当たらないようにゆっくりと体を起こし上げる。そして、二人を見て、もう一度ため息をつくと、フレイヴたちに質問を投げてくるのである。
「訊きたいことがある。黒の王国はどうなった?」
意味がわからない。その一言が頭に思い浮かんでしまい、思わずそれを口にするのだった。
「意味がわからない」
フレイヴの答えに少女は片眉を上げた。その表情は何を言っているのだ、とでも言いたげ。だが、こちらも彼女は何を言っているのだ、と言いたい。彼女が口にした『黒の王国』なんてこの世に存在しないのだから。それだからこそ、彼は「ないよ」と答えるしかなかった。
「世界中探しても、黒の王国なんて存在しない。ねえ、ここでずっと寝ていたの?」
「ずっと? 俺が? ンなことない、ない。俺は黒の王国の軍長に殺されたんだ。そこから、そうだな。この世界の神様って言ったらわかるかな? そいつは俺をこの場所で復活させたんだと思う。それ以外考えられない……あぁ? 黒の王国はないだって? はぁ!?」
その口調が気になるのだが、少女は黒の王国が存在しないことに驚愕と歓喜の表情を見せた。そうして、握り拳を作って「よっしゃぁ!」と声を上げるのだった。未だ彼女の存在に困惑していた二人であったが、ここでゾイが「ねえ」と彼女に声をかける。
「なんで、男の人のことばでしゃべっているの?」
「は?」
ゾイに指摘されて初めて気付いたらしい。今の自分の姿を見て「えっ!?」と目を丸くする。
「ええっ!? お、俺、女になった!?」
どうも少女は元男らしい。