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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第二章 寂しいとつらい◆
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16ページ

 何があったのか。こんなに静かで平和的な町に悲鳴が上がるなんて。町長は不安そうな声音で様子を見てくる、と二人をこの場に残して行ってしまった。


「どうしたんだろう?」


 悲鳴が気になって仕方がない。どこかそわそわとした様子で声がした方をちらちらと見ているではないか。眉根を寄せるフレイヴにカムラは「そうだね」と落ち着いているようだった。いや、落ち着いているのは上辺だけだろう。内心、気になるのは事実。


「大方、ひったくりとか?」


「それにしてはどこか違うと思うんだけど」


 フレイヴにとって、あの悲鳴は聞き覚えがあったのだ。声が誰かと一緒だったわけではないが、声から感じ取れる雰囲気がどこか知っているのである。どこで? 思い出そうにも、思い出したくないと思っている自分がいる。いや、思い出せ。でなければ、後悔することになるかもしれない。


 後悔という言葉に、閉ざしていた記憶の扉の鍵を開錠する。その扉がほんの僅か開かれた途端、隙間からするりと一つの記憶が現れた。そうなれば、芋づる方式につながった記憶もよみがえってくるはずだ。その記憶のせいで、胸騒ぎがした。きっと、さっきの悲鳴のもとに駆けつけたとしても間に合わないと言うほどに。それでもフレイヴは足を動かした。後ろからはカムラの「待って!?」という声が聞こえてくる。


「フレイヴ! どこへ!?」


 その制止の言葉に足を止めるだけだった。こちらを振り返ることなく――「助けに行かなきゃ」と口が動く。


「間に合わなくても、おばあちゃんだけは!」


 この言い分は、 “他人は捨てる” である。戦う気は一切ないようだ。いくら町の人たちからの厚意を受けたとしても、昨日今日の話だ。結果は他人扱い。それならば、自分が知っている経験上から身内だけを助けて逃げる。フレイヴはそれを選んだ。そして、その選択肢を選んだ彼を咎めることをカムラはできない。これはフレイヴ自身の人生だ。その道は当の本人が決めること。それがもしも、修羅の道になろうとも。彼女が指図することは許されないのである。


「わかった」


 カムラは大人しくフレイヴのやり方に従った。二人は悲鳴が上がった方向とは逆の方へ行こうとするのだが、彼らの眼前にはとんでもないものがそこにいた。戦いたくない相手が立ちはだかるのだ。


「ナズー!」


 フレイヴはまたお前か、という睨みを利かせていた。彼からはただならぬ怒りのオーラの表れが出ているようだ。お前のせいで――お前が存在するから、ぼくの幸せは? ぼくの平穏は? どうして、そうやって現れてくるんだ? 何もかもお前のせいで――ナズーが存在しているせいでぼくの人生はめちゃくちゃなんだよ!


 一方でカムラは戦おうとしないであろうフレイヴとナズーを交互に見て、苦笑いをするしかなかった。さて、これはどうすんの? と言いたげに。

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