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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第二章 寂しいとつらい◆
15/263

15ページ

 死にたくない思い。死をたくさん実感してきたからこそ言える話。どうしてもクラッシャーに殺されるときが一番苦手だった。いつだって死に際に映るあの姿は顔なしがあったから。そいつに幾度となく殺された。そして、前回は後一歩のところで――。


「カムラ?」


――そうだ、フレイヴみたいな顔で……って、あれ?


 顔が怖いよ、と言われてカムラは我に戻った。どうやらフレイヴも町長に新しい服を買ってもらうことを止めたらしい。彼は「カムラが買わないなら、ぼくも買わないよ」と自分を尊重して断ったという。これに「買ってもらえばよかったのに」と苦笑を浮かべた。


「フレイヴは身一つで村から逃げてきたじゃん」


「それはカムラも一緒でしょ?」


 それは決して偽善的な優しさではない。誰もが知っている、本当の人としての優しさだ。まさしく、いい人。いい人だからこそ、フレイヴは『優しい』と言えるのではないだろうか。確信はないが、自分がクラッシャーを捜しにこの町を出ると言えば、手伝ってくれる可能性だってある。手伝って欲しいと懇願すれば、その願いを引き受けてくれるに違いないだろう。しかし、その優しさにすがったとしても、彼自身がクラッシャーに立ち向かえる人物とは到底思えない。『ただの優しい人』が英雄になり得るのか。どこにでもいそうな普通の少年ができることなのだろうか。


 数日ほど前の出来事を思い出す。炎に包まれていたフレイヴの生まれ育った故郷。そこを破壊せんとする真っ黒いバケモノ、ナズー。それに立ち向かわんとしていた武器を手に取った彼。こちらに十分伝わってきていた。誰もが思うであろうこと。俺、あたしが思うこと。いるのか、「死にたい」と本気で思うやつは。存在するのか、自分自身を可愛がらないやつは。


 フレイヴは、おそらく戦うことが嫌いだろう。だからこそわかる。確信が持てる。そんな人間なんて――。


【戦え】


 あの日の夜、フレイヴにそう言った。そうでもしなければ、彼があのバケモノにやられてしまうと思ったから。つまり、死にたくなければ戦えとカムラは言ったのだ。だが、実際は戦うということを放棄した。フレイヴの場合、死にたくもないし、戦いたくもないと思っていたのだろう。いや、その考えがいけないのではない。そんな考えを持つというのは悪いことでもないし、不自然でもないからだ。むしろ、戦うことを望むのは「おかしい」と思う世の中にしていかなければなのかもしれない。それでも一つだけ気になった。そのため、彼女は「ねえ、フレイヴ」と声をかけた。


「フレイヴはさ、もしも――」


 そこまで言ったときだった。町の向こうから聞こえてくる悲鳴。誰もがその叫びが上がっている方に注目していた。とてつもなく嫌な予感しかしなかった。

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