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ここは落ち着いた雰囲気の町だった。フレイヴとカムラは町長を始めとした町の人たちに町中を案内してもらっていた。彼が住んでいた村と比べると、ここには当然お店があった。農産品を扱う店だったり、服屋だったり。あまり店で買い物をしたことがないのか、目を輝かせていた。その傍らで彼女は物珍しそうには見ていない。むしろ、知っている。当たり前の光景としてどこか冷めた目で見ているのだった。
「へぇ、見ているだけでも楽しいなぁ」
「都市部とは違って、そこまで高い店はないからね」
高くてもこれくらい、と町長は服屋のショーウィンドウに飾られた婦人服の値段を見せる。これにフレイヴは目玉が飛び出しそうなほど丸くするのだった。一方でカムラは興味なさげに見るだけ。それだからこそ、彼女は「へぇ」と適当に彼と同様に感嘆を漏らすのだった。そんな反応に町長は「服に興味がないのかい?」と訊ねてきた。
「きみは女の子だから、おしゃれとか気になるんじゃないのかな?」
今現在はな、とカムラが心の中で毒付く。忘れがちなのかもしれないが、彼女は元男である。たとえ、今の姿が女性であったとしても、そんな流行だとかおしゃれには興味を持たないだろう。持つとするならば、もう少し女性としての自覚を持ったときなのかもしれない。まだ女性になって日は経っていないから。女性になったことはあるにしても、その感覚を取り戻すのにも時間はかかるだろうが。だから、とショーウィンドウに映る自身を見た。顔立ちから見て女性、あるいは少女と判断できる。服装はどことなく中性的のよう。それもそのはず。カムラは隣に立って男性用の服を物色しているフレイヴを見た。実は彼らの服装は似通っている。そもそも、彼女は何も持たずして(ただし、フレイヴが発見したときの棺の中では完全な男性の服を着て)いたのだ。一応は彼の服を借りて事なきを得ている状態なのであった。
「カムラも何か買う?」
「え?」
ぼんやりとしていると、フレイヴはそう訊いてきた。彼は気にかけてくれたのだろう。その気持ちは嬉しいが、残念なことにカムラは一文なしである。そのため、彼女は断るのだった。
「いいよ、あたしは」
「一つくらい買っても損はしないと思うけど」
「そうそう。これは私の奢りだから構わないさ」
なんて町長もそうやって促してくるではないか。これにカムラは戸惑いを見せた。嬉しい話ではある。こうして人に優しくしてもらえるなんて。しかも、人々が恐れるナズーに襲われて地図上から消失した村から来た得体の知れない人物だというのに。ああ、そうだ。きちんとお金を貯めて、本当におしゃれをしたくなったときに買った方がいいのかもしれない。彼女はそれを心の中で決めるのだった。
「でも、お、あたしはいいです」
元より自分はクラッシャーを倒さなければならない使命がある。それを全うしなくてはならないのだ。使命を放棄するなんてできやしない。こうして生きるというすばらしさを実感しているから。
――そう、俺は……あたしは死にたくないから。




