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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第二章 寂しいとつらい◆
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13ページ

 フレイヴとカムラが彼の祖母の家に来たその日の夜だった。彼女はどうも眠れないらしい。もらった部屋でぼんやりと月夜を眺めていた。そこで思うことは、フレイヴが本の状態の自分に書いた『寂しい』という言葉。気持ちはわからなくもない。寂しいという感情、当然の胸中の思いだろう。もちろん、カムラだって寂しいという感情になったことだってある。いや、今もだ。自分の友達の存在。彼らは世界の実権を握っていた黒の王国を亡ぼすことができただろうか。彼らはこの世界に黒の王国がないことを知れば、喜々とするだろうか。友人たちが気がかりだった。自分がいなくても世界の事実を捻じ曲げた者――クラッシャーと戦えたのか。勝てたのか。もう信じるしかない。そうやって月を見上げていたときだった。


「眠れないのかしら?」


 少し心配そうにフレイヴの祖母が声をかけてきた。その言葉に「ええ」と苦笑を浮かべる。


「ここ最近、色々とあり過ぎましてね」


 クラッシャーに殺されて、目を覚ませば自分が知っている世界とは違う世界にいた。自身の頭が混乱しているかと思えば、謎のバケモノであるナズーの存在を知った。初めて知ることが多い。これは現実なのか、それとも夢なのか。どちらとも取れそうだが、とフレイヴのことを思っていると――。


「眠れないのならば、下でお茶でもいかがかしら。気持ちが和らぐかもよ」


「そうっスか。それじゃ、お言葉に甘えて。あっ、フレイヴは?」


 二人並んで下の部屋の方へと向かう。彼女たちが肩を並べて歩きつつ、フレイヴの祖母は「寝たわ」と答えた。


「さっきまで、私とお話をしていたからね」


「寂しがっていましたからね」


「そりゃあね。両親がナズーになるなんて、ね。フレイヴの気持ちは痛いほどわかるわ。だって、あの子の父親は私がお腹を痛めて生んだ子どもですもの」


 そうだった。フレイヴからしてみれば両親であるが、その祖母からしてみれば自分の血肉を分け与えた子どもがバケモノになってしまったのだ。どちらも、どちら。心は痛いに決まっている。


「来年は立派な兵隊さんになるにしても、所詮は子ども。考えて……いや、考えることなんてないでしょうね。私だってそうなるとは思っていなかったから」


 下の部屋に着き、すでに沸かしていたお湯をポットに入れ替えた。あらかじめ入れられていたお茶の葉がお湯によって爽やかなにおいを引き立ててくる。フレイヴの祖母に「はい」と渡されたお茶入りのカップ。


「あなたも寂しい気持ちはあるでしょうに」


「え?」


「だって、フレイヴは明らかに寂しそうな顔を見せていたけれども、あなたは毅然とした態度でいる。無理、しなくてもいいからね」


 無理しなくてもいい。その言葉にカムラは思わず目に涙を溜めた。これまでにおいて、温かい言葉をくれた者なんてあの友人たち以外はいなかったようなものなのから。


「ありがとう、ございます」


 改めて思う。フレイヴもそうだが、彼の両親や祖母は本当にいい人なんだ、と。こんないい人たちが悲しい目に合うなんて。これもクラッシャーのせいだ。あいつが世界を書き変えたりしなければ。あんなバケモノが存在する世界にはならなかったはず。今、あいつはどこにいるんだろうか?

 ここに光などない。あるはずがない。受け入れたくないからなのだろうか。光がないせいで、周りの状況がどうなっているのかもわからない。ただし、こんな真っ暗闇でわかるのは音だけ。ずっと聞こえてくるのだ。ガリガリガリガリガリと。何の音であるかは見えないからわからない。時折、乾いた音も聞こえてくる。よくよく耳を澄ましてみると、ブツブツブツブツブツという音も聞こえていた。


 その音は――。


「終わらせなくちゃ」

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