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ぼくが住んでいた悲しみの村は地図上から消されてしまった。その理由は新王国軍が、人が住めない土地だと認定したからだ。軍人以外立ち入り禁止だと決まったからである。そのせいで、二度と生まれ育った村に足を一歩も踏み入れることができなくなってしまったのだ。
町は村と違って、少しだけ賑やかであることをフレイヴは知っていた。もちろん、カムラだって知っている。覚えている。友人たちがいた町とは少し静かではあるが、雰囲気は似ているようだと話していた。
「店も色々あるみたいだ」
「本当だね。おばあちゃんの家はこっちだよ」
なんて町の中を案内していると、町の人たちとすれ違う度に慰めの言葉を受け取った。お気の毒に。大変だったね。怖かっただろう。ここは比較的安全だからね。わからないことは何でも訊くといい。ゆっくり心を休めなさい。どれも胸の奥が温まるような言葉。それにフレイヴは感謝した。こうして彼らが自分たちを受け入れてくれているからだ。それはカムラも同様だった。どうも二人は悲しみの村から逃げてきた生き残りとして見られているらしい。生き残りであるとは少しだけ違う彼女にとって、この歓迎と慰めの言葉は戸惑うようだ。実際に「ありがとうございます」と言ってはいるものの、顔は引きつっていた。「俺は違うんだけれどもな」とどこか言いたげ。それでも、逃げてきた村人ということにして嘘をつくしかないのか、訂正は一切しなかった。そんなカムラを見て、少しだけもやもやとした気分だった。だが、そのことについて口にする勇気はなかった。
そうして歓迎と慰めの言葉をもらいながら、二人はフレイヴの父親の実家――祖母の家へとやって来た。この家では祖母一人が住んでいる。彼にとっての祖父は数年前に他界しているからである。早速、呼び鈴を鳴らした。自身の祖母宅へと来ただけなのに。この家のことを知っているのに。彼女は自分が来るということを知っているはずなのに、緊張は拭えなかった。
すぐに身長の低い老婆――フレイヴの祖母が出てきた。彼女は「よく来たね」と優しそうな声音でカムラさえも歓迎してくれた。
「向こうからこっちまで大変だったでしょう? あなたも、ね。つらいかもしれないけど、これからよろしくね」
そう労いの言葉をかけてくるが、どうもフレイヴの祖母を含めたこの町の人たちはカムラのことを身寄りがない孤児だと思っているらしい。しかし、彼女にとってその勘違いすらも訂正しようとは思わないようだ。いや、こちらで通していた方がいいだろう。また村長みたいな存在がいても相手にしたくないのかもしれないから。それだからこそ、彼は口を挟めそうになかった。
「すみません、よろしくお願いします」
それでもカムラは見ず知らずの自分を受け入れてくれたことに感謝した。フレイヴの祖母自身も彼の両親と同じように人がいいようだった。
「はいはい。立ち話もなんだから、中でゆっくりお茶を飲みましょ。ちょっと中で待っていてね。お湯を沸かすから」
中へと案内された二人。部屋の中には編みかけの編み物、その毛糸玉に囲まれて気持ちよさそうに眠るネコの姿がいた。これを見て、フレイヴの祖母の暮らしぶりがわかるようである。彼女が淹れてくれたお茶は二人に刻まれた負の感情を少しだけ取り除いてくれるようだったという。




