第3話 アイドルを探しましょう
次の日から、僕は出社したら資料室へ直接行くようにした。
まあ、行ってもすることはあまりないのだが。こうやって資料室を見渡すと、製品のない資料室は意外と広いものだと思う。この部屋にもいろいろと搬入しないといけないなと思いつつ、早速今日もアイドルのことについて考える。
だけど、いくら考えても何も思い浮かばない。暇だ。何かする事はないか?あ、そうだ、携帯を持って来よう。もっと雇用としたら同僚に連れ戻された。って、なんであいつがいるんだよ。仕方ないから昼まで何もしない。昼食を済ませたら、携帯を持って資料室へと向かった。
午後、昨日とまた同じ時間に、光が差し込んできた。
「うわっ」
僕は知らない間に手を前で覆って、光が見えないようにしていた。そして、その閃光が収まった時、目の前には、昨日の女性がいた。・・・なんで、また、彼女が・・・。
彼女、二宮さんはきょとんとした顔でこちらを見つめていた。やはり驚いているようだ。僕もだけど。
「こんにちは、また来ましたね」
「は、はあ」
「どうしたんですか?」
と、そんな僕に二宮さんが声をかける。どうした?う~ん。この自分の頭の中の状況を説明した方がいいのか?
「あ、あのー。う~ん、前からいろいろなことがありすぎて、頭の中が整理できなくて」
「それは私もですけど、突然目の前が明るくなって、気が付いたらここにいるんです。何なのでしょうか?」
「何なのでしょうか?」
ここは転移のことを、どう説明すればいいのか。
「僕も原因までよくわからないので、また調べておきます」
「調べて分かるものなんですか?」
「う~ん、可能な限りは」
「よろしくお願いします」
二宮さんは、納得したように頭を下げる。
「でも、やはり・・・原因は・・・転移?なのでしょうか?」
え!?なんで分かったんだよ!?
「二宮さん!?なんでわかったの?」
「そうなんですね。私は転移されてきた、と」
まさか、二宮さんが言い当てるとは思わなかった。
「一体、吉田さんは何をされてる方なんですか?」
「ここで自動車部品の製造をしてました。つい先日まで」
「つい先日までですか?」
「はい、今は、ここでアイドルのプロデュースをしています」
「アイドルの、プロデュースですか?」
「そうです。二宮さんは何をしてるんですか?」
「私ですか?私はセンマイコーヒーの事務です」
そこで、彼女を光が包み込みそのまま去っていった。二宮さんの滞在時間はやはり10分だった。それにしても彼女はあの有名チェーン喫茶店、センマイコーヒーの社員だったのか。
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二宮さんは次の日も同じ時刻にやってきた。彼女はまたは黒いレディースーツを着て現れた。似合う。
「こんにちは、今日もまた来ましたよ」
「こんにちは・・・」
落ち着いて挨拶する二宮さんに対し、僕の挨拶はよそよそしい。いや、これじゃだめだな。と思っていると、二宮さんが話を切り出してきた。
「吉田さん、昨日の話の続きなんですけど、アイドルのプロデュースって、何をされているのですか?」
「いや、まあ今はどういうアイドルを作ろうかとか、まあ最近やり始めたばかりだから、そういう提案から始めてます」
「どういう人を、どのようにしてアイドルを運営するかって事ですか?」
「まあそうですね」
僕は、間をおいて、内容を整理して次の話題へ移った。
「二宮さんは、アイドルについてどう思いますか?」
「私ですか?人前に出るイメージ、ですか?あ!もしかして、私をアイドルにするつもりですか?」
「参考にしたいまでですが、まあ嫌ですよね?」
「すみません、急に言われたので。迷惑なんかじゃありませんよ」
「僕は、アイドルをやれって言われてもその、アイドルになりたいっていう人を誰も知らないので」
女性と縁のない人がアイドルを作る、そしてそんな人がプロデューサーに抜擢されるのはなぜだろう。僕は未だにその人事の謎が解けずにいた。本当に、うちの会社はどうなっているのか?と。そんな時、二宮さんは意外な提案をする。
「じゃあ、探しませんか?アイドルができそうな人」
「分かりました。一緒に探しましょう」
「うふふ、ありがとうございます。お願いしますね」
そして、二宮さんが万遍の笑みを浮かべた。彼女のこの笑顔はとても素敵だ。と、そんな満足で満たされたとき、光が二宮さんの体を包み始めた。どうやらもう時間のようだ。
彼女は、去り際にこう言った。
「吉田さんも、探しておいてくださいね」
と。
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その日の帰り、一週間の終わり僕は松田さんに報告した。アイドルを探すことではなく、二宮さんが転移をしていた時間のことだ。
「彼女が召喚されてた時間は、やはり10分でした」
「そうか、相手が人間なら、相手のいる場の秩序もあるだろう」
と、松田さんは言い、後ろを向いた。
「まあ、今週は大変だったな、吉田君。週末はゆっくり休め」
と言って右手を上げた。そんな松田さんが無駄にかっこよく思えた。