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Bear  作者: 三毛猫
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おかえし

 6時30分の携帯が鳴り、いつもの朝を迎え、いつもの制服に着替え、いつもの時間に家を出て、自転車を漕いで学校に向かう。このライン作業みたい流れに今は何も考えず、そして何も感じなくなってきている。

 多分だけど、考えてないより、考えるのをやめた方が正しいと思う。なぜならばこの後に待ち受けるのは、大半の学生が嫌いな授業があるからだ。

 授業を受けていて「もっとこの授業を受けたい。」や「休み時間中は、この教科だけを考えていたい。」などを考えているのは、ごく一部で多くは違うと思う。まして、嫌いな教科や嫌いな先生の授業だと苦痛でしかない。

 そんな苦行をこれからやりに行くのに、明るい気分になれるわけがない。そして憂鬱になった人達は大抵「めんどくせ~」を言うと思う。

 なら何も考えずに1日を消費して、休日が来たら思う存分満喫する方が、人生を楽しめるコツだと思う。社会に出てもこの精神は大切に憶えておこう。

 くだらない事を考えながら自転車を漕いでいたら、後ろから何かが迫ってきた。

 恐怖を感じて後ろを振り返ると、そこにはお腹を空かした女豹が獲物を求めて、桜並木を疾走してきた。女豹の獲物は俺ではないと一舜そう願ったが、目線は俺だけを捕らえていて、タゲが変わる事はなかった。

 つーか朝から真顔でガチダッシュしてくるなよ!初めてサメのホラー映画を見た時みたいに、夜眠れなくなるだろうが・・・

 「昨日の・・・・・・チャリの奴!」

 逃げる隙もなく、声と同じタイミングで肩を掴まれた。

 「や、やぁ!今日もいい朝だね。ツボミツさん。」

 今日は何も悪い事してないし、だからもう釈放して下さい。

 肩で息をしながら「お・・おは、おはよう。」と体内の空気が無くなりそうな声で挨拶し、片手を膝の上について、はぁ~っはぁ~と呼吸を整いていた。

 一体、彼女はどこから追いかけて来たのだろう。

 蕾蜜が呼吸を整えるために、一度大きな深呼吸をしてこっちを向いた。

 「ほら、遅刻するよ。」

 優しい表情と声音の裏腹に、掴まれた手の方はしっかりと鷲掴みされたままだった。

 校門近くまで鷲掴みのまま連行されると、さすがに周りの生徒の目が痛いから「どちらまで一緒に行くの?」と聞くと、笑顔だけど殺気か怨念か解からないけど、とても良くないオーラを出して「教室まで♡」と言い、俺の精神的㏋を削り取って心と足元を凍らせた。

 まずいまずい、このまま教室にワンツーフィニシュは何としてでも避けたい。

 「自転車停めてくるから、先に昇降口で待っててよ。」

 多分、このチャンスが最大にして最後だと思ったが、「駐輪場まで一緒に行ってあげるよ。」と彼女の一言によりあっけなくチャンスを潰された。

 自転車を置いて昇降口まで連行された時、更なるピンチが俺を襲った。

 それは、2~3ヶ月に一度の風紀委員会による抜き打ち持ち物検査だった。

 いつもなら弁当しか入ってないカバンだが、今日は昨日買ったあのストラップが入っている。

 ストラップの事がバレないように、頭をフルで回しても解決策が見つからずに俺達の番がきた。俺に先行かれて逃げられないよう蕾蜜からカバンのチャックを開け、検査に入った。

 ・・・教科書に・・辞書と、って真面目ちゃんか!

 横目で蕾蜜の検査を見ていて、ポーチと巾着袋がチラッと見えたが、それを風紀委員担当である担任は隠すようにし、カバンを彼女に返した。ここは俺も見なかった事にしよう。そうして俺の番がやってきた。

 「OK!はい、次!」

 「・・・・・・」

 「どーした?こっちはめんどーな事をやってるんだ。早く終わらしたいから協力してくれ。」

 「・・・・・・」

 「いい加減にしろよ。鈴音、怒るぞ。」

 早くも担任がピリピリしてきたから、渋々カバンを開け担任に渡した。

 「何かあっても後でしっかりと話しますので、この場では何も言わないでください。」

 この声が担任の耳まで届かなかった。

 「教科書はどうした?」

 「・・・教室に置き勉してます。」

 「・・・特にやましい物は無いじゃないか。てっきり、使う相手もいないのに興味本意で初めて買ったコンドームが入ってるか、フィギュア化した自称俺の嫁たる物が入ってると踏んだんだがな。」

 ほとんど入ってない俺のカバンを必要以上に捜索していたが、突然動きが止まった。そして顔だけを上げ、ニヤついた表情で俺を見てきた。

 「お前に、こんな趣味があるなんて知らなかったよ。」

 だから言うなって言ったでしょうがー。

 担任はクマのストラップを取り出し、またこちらを見てきたようだったが、言い訳を考えるのに必死で担任の目を見ることが出来ず下を向いていた。

 担任が何かを言おうした時に、真横からビックリするくらい大きな声で、「あーー!」と叫び声が聞こえた。

 声に反応して横を振り向くと、とある小学生探偵団が「犯人はお前だー!」のセリフにピッタリなポーズでクマのストラップに指をさしている。

 「もしかして!わざわざ買ってきてくれたの~?ちょー嬉しい。」

 別に蕾蜜のために買ってきてないけどな。だが、彼女の言葉にこの場を脱却する光が見えた。この光を確実なものにしなければ、反省文は免れない。

 「先生、このストラップは昨日、俺のせいで蕾蜜のストラップを壊してしまったので・・・・・・だからお詫びにこれを渡そうと思って持ってきたんですよ。」

 我ながら完璧だ。これでこのストラップは彼女の物になり、反省文はなくなる。さらに彼女は俺に付きまとう理由も無くなることで、彼女からも解放される。

 これで昨日までの事が全て白紙に戻り、平穏な日々を過ごせる。

 担任の手にあるストラップは蕾蜜に渡され、カバンは俺に戻ってきた。そして、担任がゲートの通行許可を言い、晴れて自由の身になれた。

 蕾蜜の方に顔を向けたが、クマのストラップにご執着でこっちを見ていない。このままフェードアウトするため静かに歩き出したが、足を止めるように聞いてはいけない言葉が聞こえてきた。

 「座席が隣同士なだけあって仲が良いね~。先生ね、鈴音と蕾蜜が話してるところを見たことが無かったから、少し感心しちゃったよ~。」

 担任はうむうむと言いながら頷いているが、感心しているのは貴女だけですよ。声が大きかったから、皆なんかこっちを見ているし、蕾蜜なんかは眼をガン開きにして、こっちを見ながらフリーズしているよ。

 この空気どうするの?もう蕾蜜に身元がバレたし、授業中絶対隣を気にしちゃうじゃん。もう先生のバカッ‼

 予鈴が鳴るまでの約1分間は、このフリーズしたままだった。

 蕾蜜と別々に教室に入ったが、やはり隣が気になる。彼女の存在ではなく、彼女のジト目で睨んでくる視線が気になる。

 「俺の顔に何か付いている?」

 「別に何も。」

 俺と蕾蜜の教室内での会話は、これ以上何も無かった。

 放課後になり、嫌な視線から逃れるために、早々に駐輪場に向かった。

 「ねぇ、ちょっといい?」

 思わぬ呼び止めに周囲を見回したが、ここには俺と蕾蜜の2人だけしかいなかった。だから、嫌々ながらも蕾蜜の方に顔を向けた。

 「クマ・・・ありがとう。このクマ、可愛くて好きなんだぁ~。」

 夕日色に赤く染まった頬と恥ずかしがりながらも言ったセリフに、不覚ながらドキッとしてしまった。

「そうかい。まぁ~、こっちもおっめ・・・ふぅー、またな。」

 お前の大事な物を汚してすまなかったな、と言いたかったが、噛んでしまい恥ずかしくなって言うのを諦めてお別れの言葉だけを言った。

 蕾蜜は胸の前で小さく手を振っていたが、恥かしさのあまり蕾蜜の方を見られず、自分の自転車を引っ張り出して急いで立ち去った。

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