6 あれ、これって
選抜の3人は、同い年とは全然思えないくらいのオーラを放っていた。
即アグラの洞窟に向かうので、各々持参の鎧や剣を身に付け始めている。
選抜メンバーは、事前に噂になる名前を概ね外すことはない。
洞窟のモンスターに打ち勝つことのできるメンバーだ。
まず最初から相応の能力に恵まれている。
その上、奴らは裕福な家の子として生まれがちだ。家族が適切に装備を整えやがる。
タロスのとこは、確か父さんもじいさんも神殿に選ばれたはず。
出来レースってやつ?
虚弱で人望もなく、能力もなく、金もない、捨て子の僕は、完全にイレギュラーだ。
あー笑える。うける。
メラは、持参の装備が無駄になった。
無駄骨、だせえ。ざまみろ。
メビウス姉さん、僕のクソ思考レベルにどうか失望しないでね。
洞窟を歩きやすい軽量の鎧を身につけたジュドーの凛々しさ。
筋肉を鎧とするのか軽装で、大きな斧を携えたタロスの雄々しさ。
魔法の織り込まれた薄紫のローブをまとったアラクラの清らかさ。
うへえ。
へどが出る。
…
…
ていうか、近寄りがたい。
…
…
僕みたいな泥水がお似合いの人間以下が、並んで立つこともできない。
恥ずかし過ぎて震える。
正直、怖い。
あの位置に一緒に立って、どうすんのが正解?
ふさわしい立ち方から分かりませんけど。
手をどこに置いたらいい? 足はどうしてるのが普通? どういう顔するべき?
やべ。
弱虫の心臓がドキドキしてきた。
メビウス姉さーん…
いえ、呼んでません。
呼びかけているだけですから、まだ来ないでね。
いろいろ立て直そうと考えた。
そうだ、僕は今、神なのだ。
どストライクにかわいいアラクラに、いきなり告白されるイベントとか。
それいいね!
考えてみた。
考えてみたけど、みたけどー…
アラクラのあんまりなオーラに打たれて、そんなはずないだろ、という、僕の中の冷めたツッコミスイッチがオンになる。
ありえん。
あんなかわいい一軍の女の子に、僕が好かれるなど。
たくさんの人に囲まれて、微笑むアラクラ。
もうね、感覚的に染み付いた実感。
アラクラが僕を好きとか無理すぎる。
見ろよ。
イケメンジュドーとアラクラのお似合いっぷり。
ジュドーときたら、剣も魔法も俺に任せろ的勇者ど真ん中の男だ。
カチンとくる。
イラつく。
いいやもう。
さっそく僕はヤケを起こした。
なんか、僕の実感とか、今の流れとか、もはやどうでもいいから、かわいいアラクラに告白されることにした。
雑なストーリーだけど、とりあえずいろいろもうヤダ。
とにかく、今のいたたまれなさをどうにかするんだ。
…
…
アラクラが僕に告白。
ありえんわー
我ながら、ありえん。
どう考えても、意味不明。
アラクラ、眩し過ぎて、直視できない。
…
…
もういい!
告白しろ!
アラクラ!
僕に告白しろ!
願っちゃった!
僕は心臓をドキドキさせながら、両手を胸の前でギュッと組んだ。
…
…
な
な
何も起こらない…
なんで?
なんで?
チラッと見上げると、アラクラはジュドーと談笑中。
筋肉バカの戦士タロスまで加わっとる。
…
…
考えろ。
考えるんだ、僕よ。
なぜだ。
なぜ何も起こらない。
騙されたのか?
メビウス姉さんに、からかわれたのか。
いや、それならもっと徹底的にやるだろ。
こんな中途半端な。
アレコレ思索した妄想上手な僕は、ひとつの可能性にたどり着く。
メビウス姉さんは何と言った?
「お前の考えはすべて正解だ」
僕の考え。
そう。願いがかなうとは言われていない。
そうだ。僕の考えだ。僕の考えはすべて正解。
メビウス姉さんはそう言った。
昨日、僕は考えていた。
僕はメビウス姉さんを信じていて、僕が確実にアグラの洞窟の儀式に選ばれる、と確信していた。
もはや、そうなると知っていた域だ。
今はどうだ。
きらびやかな存在感を目の当たりにした僕は、アラクラが僕と恋人になるなど、不可能だと体感的に察知した。
あり得ないことだ。
だから僕は、アラクラに告白されたいと願った。
うん。僕は、選ばれし者たちを前にして、アラクラは僕に告白などしないと考えている。
それはもう、体の細胞の深いところからくる実感だ。
確信だ。
願いではだめなのだ。
そうだ。
僕が真に「そういうことだ」と考える時、その物事は「本当」になるのだ。
腑に落ちた。
落ちたら余計に意識する。
ちなみに、むしろ本気でそうとは考えられないことばかりが願いだ。
大体において、今僕がそうに違いないと思ってしまった時点で、僕の考えが正しいのならば、それは真実になるのだ。
ややこしいけど、そういうことでしょって確信しちゃったんだから、そうなるのだ。
本当は違ったかもしれないのに、正直、絶対そうだろって思ってしまった。
アウトでしょ。
…卑屈上等で生きてきた僕が、一体どうやってあと2日のうちに、授かった力を活かせるというのだ!
確信できるのは、残念な結果ばかり。「どうせ、こうなんだろ!」というクソな結末。
願うことは、「絶対そうはならないよねー」ってことばかり。
これって、おとぎ話の落とし穴?
結局、楽して得するとかねーよ、とか。
卑屈でずるい精神の持ち主は闇に落ちる、とか。
例の、そういうヤツですか?
メビウス姉さん、勘弁してよ…。