14 踏破の証
×××××××××××××××!!
断末魔の声を上げ、ディアボロスは沈んだ。
ディアボロスが倒れると、洞窟全体が激しく揺れた。
僕は目をきつく閉じて頭を低くして地にへばりつき、振動と風圧に体をもっていかれないよう必死に耐えた。
やがて地鳴りが止んだ。
僕はおそるおそる目を開けた。
ジュドーは大の字になって、荒い呼吸を繰り返している。
タロスは壁際に倒れたままだ。
アラクラはロッドにすがりつくようにして、座り込んでいる。
僕は大岩の影から這い出た。
何もしていない割に、体中が痛かった。
足に力が入らない…。
「エンジュ…踏破の証を…」
右手前方から声がした。
アラクラだ。
紫のローブはすっかり土埃で汚れてしまっている。
編み上げた髪もボサボサだ。
眉根を寄せて苦しそうな顔をしている。
「ディアボロスの後ろの祠に…それを手に取れば…終わります」
僕は必死に頷いた。
そうだ。
みんなボロボロだ。とても動けない。
僕しかいない。
アラクラは僕を頼ってくれたんだ。
ここで働かなければ、僕はクズの底辺だ。
僕がやらなきゃ。
それなのに。
分かっているのに。
怖がりの僕の足は、先程までの恐慌にすっかり怯えきって動かない。
腰が抜けてしまっている。
嘘でしょ。
こんなのイヤだ。
僕は必死に足を叩く。
ポンコツめ!
なんでだよ!
なんで動かないんだ!
目に涙が浮かぶ。
情けない。
知っていたけど、僕は本当にイケてない。
…
そうだ、腕は動く。
頑張りたい。
僕だって、今くらい、ちょっとくらい、頑張りたいんだ。
僕は必死に這い進んだ。
砂利や石や岩が邪魔でなかなか進めない。それでも僕は進んだ。
とろいけど…。
すぐに息が切れた。
苦しいしお腹も痛くなってきた。
足はやっぱり動かない。
擦り切れて体が痛い。
まだまだたどり着かない。気が遠くなる。
「エンジュ、手を…」
ささやきが耳に届いた。
至近距離だ。
必死すぎる僕は、近くに誰かが来ているのにさえ気付かなかった。
土に汚れてもなお美しい手が差し出されていた。
「アラクラ…」
「さあ…」
アラクラが、ここまで来てくれたのだ。
ロッドを杖代わりに。今にも倒れそうな顔色で。
自分の体を縦にするだけですごく大変だろうに、アラクラはそれでも手を伸ばす。
僕は胸がいっぱいになった。
アラクラの優しい茶色の瞳が、込み上げてくる涙でにじんで見えなくなる。
僕はアラクラの手を取った。
アラクラの手は冷たかった。
アラクラは小さく詠唱した。
それは短かった。
「私は…これで限界…」
アラクラはロッドに沿って崩れ落ちた。
僕の手の中からアラクラの手がすべり落ちて、僕は慌てた。
「アラクラ!」
声がひっくり返った。
アラクラの呼吸は穏やかだ。
どうやら気を失っただけのようだった。
僕は少しだけほっとした。
そして、自分の体の変化に気づいた。
足が動く!
そこから僕は涙を拭って、必死に走った。
タロスを横目に。
ジュドーとディアボロスを通り過ぎ。
ただ必死に祠を目指した。
今の僕にできることは、祠を開けて、踏破の証を手に取って、この儀式を終わらせることだ。
そうだよね、メビウス姉さん。
そうして僕は、祠の前に立った。
石造りの祠は、僕より少し小さいくらいの大きさだった。
のっぺりとしたシンプルな祠だ。
ためらっている場合ではない。
真ん中の観音開きの扉に僕は手をかけた。
それはすんなりと開いた。
中には手のひらサイズの石板がひとつ置かれていた。
見たこともない文様が刻まれていた。
深呼吸一つ。
僕は石板を手に取った。
瞬間。
石板が光を発し、洞窟を真っ白に染め上げたのだった。