挿入話 事務所
短いです。1000字ありません。
だって挿入話ですから。
お世辞にも広いとは言えない部屋の中には、そこそこ大きめの机が五つ並んでいる。しかしその内二つは未だに持ち主が現れていない。
ならばなぜ置いてあるのか、それはこの部屋の主以外知らない。
その主も、この部屋をここ三ヶ月ほど留守にしている。
机の並ぶ横には接客用のテーブルとソファが並んでいる。
黒いソファは鈍く光沢をもっていて、無駄に高級感を漂わせている。黒っぽい木製のテーブルも同様の状態だ。
一人の女性がそのソファの上で仰向けになっていた。
濃いブラウンの髪はまっすぐ腰の下まで伸ばされているが、横になっているためあちこちに広がり放題になっている。また、その服装はなぜか灰色の作業用つなぎになっていて、寝そべっているソファの雰囲気と全く合っていない。
「はー、疲れたー…デスクワークはもううんざりだよ」
溜息と同時に女性が独り言を呟いた。そして空中で足をぶらぶらさせ始めたが、それにも飽きたのか唐突にぱたりと落ちた。
「だらしないですよ」
「…あ、おかえりー」
ソファのすぐ横に、別の女性が立っていた。
髪はややウェーブした銀色で、後ろでまとめて首筋まであるポニーテールにしている。
こちらはフレンチベージュのシャツにグレーのタックスカートを身にまとい、それなりに場の雰囲気には合っている。
「だって一日中書類整理とかさ、行動派の私には絶対向いてないんだよ」
銀髪の女性に気力のない小言が飛来する。
「しょうがないじゃないですか、アーミルさんがいないんですから」
「…ていうか、代わりにやって?」
「私も忙しいんですけど…あ、そういえばアーミルさんから手紙が来てましたよ。明日の昼ごろ港に着くそうです」
銀髪の女性は思い出したようにシャツのポケットから封筒を取り出した。
封は切られているので、銀髪の女性がすでに読んだようだ。
「あー…帰ってくるのか」
「みたいです」
「…また去年みたいなことになってるかなぁ」
「さぁ…」
二人はお互いに苦笑いを見せあう。嬉しいには嬉しいが素直に喜べない、そんな表情だ。
妙な笑い声が二人分部屋に響く。
「そっか、帰ってくるんだぁ…あはは…」
「ふふ…」
ほんの一瞬、時間が止まった。
「代わって!」
「すみません!」
体を起こした時には、銀髪の女性はすさまじい勢いで部屋を飛び出していた。