公爵令嬢の理想の結婚
前作「普通な?公爵令嬢と威厳系王子と愛玩系王子」を先にお読みにならないと良くわからないと思います。上の「ねえやと二人の王子」からお探しください。前作をお読みになり、続きを読んでみようかな?と思われた方、有難うございます。下記よりお願いします。
~☆~ブランノワール王国の簡単な説明~☆~
四季がある。
歴史が古い。
世界地図で例えれば大きさはドイツくらい。
各国の中継として栄えている。
首都及び主要都市は他国にも負けないほど立派。
一夫一妻制度。王族も同様。
現国王には二人の王子が居る。
前国王にも二人の王子が居て、ヒロインの父親は第二王子であり初代ブランルージュ公爵。
二世代までしか公爵位は継げない。現在の公爵はブランルージュのみ。
皆さま、我が国の事少しはご理解いただけましたでしょうか? こんにちは、フリュール・ブランルージュでございます。
私はお父様の一粒種ですので、継ぎたいといえば次期であり最後であるブランルージュ公爵になれなくもないのですが、その場合、次期国王の第一の臣下となります。
次期国王=リュシアン様の第一の臣下!!
背筋が常にピッとなる気の抜けない職種! …無理です。
というわけで私はどこぞの国に嫁ぐか、家格が下の貴族に嫁ぐかの二択になるわけですが、これでも私は公爵令嬢。
国の――ぶっちゃけシャルル様の利益になるところに嫁ぎたいので、どっか良さげな国の良さげなお方を鋭意努力し発掘中なのです。
私はまあフツーですけど、ブランノワールは豊かな国です。歴史も古く、公爵家の令嬢ですが王家の血も引いております。浪費家でもありませんし、ヒステリーも持ち合わせておりません。自分で言うのも何ですが、超優良物件だと思うんですよね。
そして私、とっても年配の方々に受けが良いのです。
ズバリ。引く手あまたというやつです。こういうこきは血筋に感謝いたします。
近年、平民貴族問わず夫婦仲が睦まじいことは良いこと、一種の徳であると言われており、既婚者の男性は他国に外遊に行く際、奥様を伴うことが多いのです。
そうなると、奥方様は訪問先の社交の場に顔を出したりなさいます。
我が国の社交界のトップの女性は王妃様でいらっしゃいます。これ当然。
ですが、王妃様は王妃様であるが故に社交だけやってればいいわけではありません。というわけで王妃様は社交の場を取りしきるようにどなたかを指名なさいます。
どなかた、と言いましたが、今現在、畏れ多くも私が指名されております。王族が少ないというのはそれだけ選択肢が無いということなのです。
ですが、私は意外にもこの社交の場において『仕切る』才能がそこそこあったようです。
大概皆さまは帰国なさると、心温まる礼状に、心づくしのプレゼント、そして推しメンの絵姿と釣り書なんかを添えてくださるのです!
***
ねえやと唯一一緒ではない僕の勉強といえば、剣術・体術の勉強だ。
ねえやも公爵令嬢として武術の勉強はしているけれど、僕とはかなり違う分野らしくて、『お互いにがんばりましょうね』と激励を受けて僕は訓練場へ行く。
そして出来立ての打ち身をいくつか貰って訓練が終了すると、僕はねえやと待ち合わせしている中庭の東屋に向かう。
ねえやは既にテーブルについていて、侍女とおしゃべりをしていた。僕はいけないと思いつつもちょっと立ち聞きをすることにした。
「この方をどう思って?」
「・・・・・・恐れながら、殿下方に比べると見劣りいたしますわ」
「ふふふ。そういうことで私は夫を決めないわよ?」
ねえやはいつもの蜂蜜みたいな笑い方ではなく、ちょっと悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
「私、こういう方を待っていたの―――」
夢見るようなねえやの言葉に僕はびっくりして中庭から飛び出してしまった。
***
私が夫に選ぶ条件は前にも述べさせていただきました。
国の、もといシャルル様の利益となるお方であること。
私は世界地図を広げて今までシャルル様と学んできた社会情勢を反芻する。近隣国に火種はない。あるのは・・・東。
そして、候補地を挙げる。
この国のいずれかで、出来れば王族、少なくとも軍への発言力の強い貴族がマスト。
そして待ちに待って―――ヒットした!
我が国に海はないけれど、川はある。幼いころ全然釣れずしょんぼりしていた時、リュシアン様がおっしゃいました。『釣りは忍耐を鍛えるのに役立つ』―――と。
だから私は待ちました。中々ヒットしないけれど、待っていればいつかは釣れる。そう、信じて。
そしてヒットしたのは、大物でした。東の中立国家の王太子殿下! 君に決めた!
この国は発言力が強く、近隣の血の気の強い紛争を、社会的制裁や輸出入の制限などで鎮静化してきた敏腕国だ。
次期国王であるこの王太子も中々頭の回転が良く冷静であるという。
さっそくお父様を丸め込んで、この国に突撃嫁入りです!
***
なんて思っておりました。
そんな私フリュールは背筋をピッとしてとあるお方の前に立っております。
国王陛下に王妃様、そのような方々の前ですらこんなに背筋を伸ばした記憶はなく、今後もこの方の前に立つ以上に背筋を伸ばす機会はないでしょう。
第一王子且つ威厳系王子、リュシアン様の前、なう。
背も高いし、姿勢も良いし、体格も良いし、もう威圧感がが凄い。
オーラの威厳と相まって、威厳&威圧。背筋が伸びすぎて反り返りそうです。
とはいえ、こちらも礼儀作法を生まれたころから叩き込まれた公爵令嬢。
貴婦人たるもの王子殿下の面前で反り返るとか不敬すぎる。
私は伸びた背筋をごまかすべく、片手は身体の前、もう片手は扇子で引きつりそうな口元を隠した。
「ブランルージュ公爵令嬢、久しいな。急な呼びだし、すまなかった」
「お声掛け頂きますれば、はせ参じるは当然のことでございます。謝罪など畏れ多いことです」
シャルル様に待ちぼうけくらいましてヒマしていましたんで、呼ばれたらすぐ来ますとも。
「フリュール」
まあ、リュシアン様が私のお名前を呼びました!
歳の近い従兄妹ではありますし、小さい頃は遊んだ記憶もあります。それにリュシアン様は人の顔と名前は忘れないらしいですし、私の名前を勿論ご存知でしょうけれど・・・・・・名を呼ばれたのは久しぶりです。
「貴女がクロード王国のジャン・ジャック殿の求婚を受け入れると聞いた。事実か?」
ビックリです。
さきほど中庭の脳内会議で決定したことをなぜリュシアン様がご存知なのでしょうか。まだお父様にも言っていないのに。
―――わかりましたわ。
「シャルル様ですわね」
「そうだ。―――貴女がジャン・ジャック殿とは顔を合わせたことがないと思ったが?」
「もちろん、拝したことはございません」
「では、どうして求婚を受けようとしている?」
「末端とはいえ、ブランノワールの王家の血を引く義務でございます」
***
「末端とはいえ、ブランノワールの王家の血を引く義務でございます」
どこが末端だ。
現国王の弟の娘。しかも唯一の姫だ。
伯爵出の我が母よりよほど高貴な血筋ではないか。
「ジャン・ジャック殿は御年48歳。亡き王妃との間に既に王子が二人いる。その王子ですら貴女より年上だ」
「存じております」
ふんわりとフリュールは答えた。
頭の回転は良いはずだが、真意はどこだ?
私はため息をつく。
フリュールに見合いの話は多い。その中でもこの話はかなり条件が悪いはずなのだが…。ジャン・ジャックのどこが気に入ったのだ?
「シャルルが泣いていた」
「では、このお話断りますわ」
………。
「シャルル様に泣かれるのは本意ではありません。このお話、お断りいたしますわ」
「・・・・・・そうか。シャルルも喜ぶだろう」
「はい、では御前失礼いたします」
優雅な礼を一つして、フリュールは部屋を出た。
彼女の残り香だろう、甘いミルクのような匂いが部屋に残った。
その夜、シャルルと共に食事を採っていると、シャルルからフリュールと同じ香りがした。
「変わった香水だな。令嬢方から香る花の香りではない。甘いミルクのような・・・」
「あ、多分ねえや・・・フリュールの香りです」
「確かに昼にフリュールに逢ったときと同じ香りだが、彼女が調合させたものか?」
「香水ではなくて・・・・・オイルとでも言うのでしょうか・・・? 女性の秘密だからと詳しくは教えてくれなかったのです」
「そうだな。女性の舞台裏を聴くのは紳士らしくない」
「フリュールもそう言ってました。この匂いは、さっき結婚しないって言ってくれたときに、嬉しくて抱き着いてしまったので、香りが移ってしまったのだと思います」
「・・・・・・・・」
ヒロイン「を」溺愛 させたいのですが、ヒロイン「が」溺愛 にしかなりませんでした。第一王子は書きにくいし、ヒロインは恋愛脳じゃないし、第二王子は本当に14歳かよ?ってくらい幼いし…(最後の兄との会話ではきちんと話せるアピールしましたが)。道のりは遠い気がします。