チュートリアル1
ステータスの詳細までは確認が出来なかったが、恐らく初期ステータスであると想定するならば、柱間は職業勇者と言う肩書きだけの村人に過ぎなかった。
その事実に柱間は声を殺して泣いた。それはもう泣いた、気持ち悪いくらいにメソメソと。星野は若干引き気味に彼を宥める。
「頼むからもう泣くのは止めてさ。近くの村にまずは行こうよ。もしこれがゲームの中ならバンクにはお金あるかもだしさ」
「うぐっ、クスン、そうだな。最悪あれだけの金が引き継がれていれば生涯村から出る必要もないもんな」
柱間は星野に宥められ、ポジティブ思考に切り替えた柱間は、マネーの引き継ぎと言う最後の希望にかけ自分を奮い立たせた。
「よし、じゃあ星野行くぞ。勇者の俺に付いて来い!」
「うんうん、その意気その意気。お供しますよ。勇者様(笑)」
取りあえず2人は、この位置から遠くの方にかすかに見える村を目指して歩き出した。
歩く事15分、目の前に1匹のぷよぷよした緑色をした半透明のスライムが姿を現した。そのスライムを見て2人はゲームの中に転移させられた事を確信した。そして、このスライムはQMF上で最弱のモンスターである為、柱間がまずは戦ってみる事にした。
「さぁ来たまえ!俺の拳で粉砕してやるがな」
柱間は村人装備の為、武器の所持はしていないが、通常のステであれば装備無しのレベル1でも、充分倒せる相手であった。
スライムがジリジリと寄ってきたので、柱間はスライムに拳を叩きつけた。
「超絶スペシャル柱間ダイナミックパーンチ!」
しかし、スライムはダメージを受けていない様で、ゆっくりと柱間との距離を詰めて行く。
「あれ?初期モンスターはPKもあるからって、素手でも倒せる仕様だったはずなんだけど。ミス判定か?ならば柱間十連拳受けてみよ!あたたたたたた!」
柱間はスライムを連続で殴った。しかし、どうやら本当にスライムにダメージが通らないようで、更にスライムは柱間との距離を詰めよりタックルしてきた。
柱間はスライムの攻撃など避ける必要もないと真正面から受けると思いプロボクサーのストレートを受けたような痛みとともに意識を失った。
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柱間が目を覚ますと、ガバッと起き上がり周囲を見渡すと、そこにスライムの姿は無く星野がホッとした様子で横に座っていた。
「気が付いて良かった。大丈夫かい?」
「あぁ、星野が助けてくれたのか。それより俺の攻撃当たってたよな?」
「うん、当たってた。まさかと思うんだけど…」
星野はそこまで言うと唾を飲み込み黙り込んだ。柱間はそこまで言われて黙られると、逆に気になって仕方がなかった。星野は柱間に催促され、話を続けた。
「柱間君のステータスHPを除いて0なんだと思う」
「は?」
「だって、スライムって初期で倒せる仕様。つまり1でも倒せるって事はそれ以下って事じゃない?因みに僕も素手で攻撃したら一撃で倒せたよ」
柱間は驚愕した。スライムすら一撃で倒せない、言わば今この世界において最弱な存在であると言う事が決定したわけだ。
「ふざけんなよぉぉー!俺の努力返せよ!」
「まぁ落ち着いて、取りあえず今わかってる事は全部先に話すよ?」
声を荒げた柱間は取り乱してすまないと頭を下げ話を続けるよう手で指示をする。
「個人CPU性能とメモリー性能は初期ステータスだったよ。今の僕が高難易度魔法を繰り出すのには、何日単位で処理がかかるから現時点では初期魔法しか繰り出せない。初期でも発動に10秒はかかっちゃうんだけどね」
「ステータスが影響しない魔法コードはいいんだが俺コードかけないし、はい詰んだ」
「まぁそんなに悲観しないで、コードを僕の言う通りに書いてみてよ」
柱間は星野にそう言われ、魔法を記述する際にはマジックボードを開くのだがウインドウなどはない為、頭の中で『マジックボードオープン』と唱えると目の前に半透明のマジックボードが表示されたので星野にそれを伝えた。星野はそれを聞くとコードを口にし始めたので、柱間は慌てて星野の言う通り打ち込んでいく。
「……っと。OK?ちゃんと打てた?」
「多分、随分と長いコードだな。これは何が出来るの?」
星野は笑いながら次にスライムが出てきた時に実践してみようと提案した。