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傍若無人。傍若無ペンギン。




ダンジョンを抜けたら、そこにいたのはでかいペンギンでした。


何を言ってるか俺にもよくわからねぇが、超スピードとかそんなちゃちなもんじゃねぇって感じ。

いや、ほんとに何を言ってるかわからないな。


一回目を擦ってみて、まばたきまばたき。目の調子を整えろ。

うん、良好だ。

そしてもう一度目の前を確認してみる。


うん、でかいペンギンだ。


鳥類特有の何人か殺してるだろって感じの鋭い眼光。眼光と同じくらい鋭い嘴。ペンギン特有の平べったいが固そうな翼。そしてずんぐりむっくりな胴体と、胴体に比べると短い足。


どこからどう見てもペンギンだった。何てったってペンギンだ。

しかし、俺の知るペンギンとちょっと違ったのは、その出で立ちだった。


丸い頭にフィットするように作られた金属製の洋風兜、ずんぐりむっくりな胴体にも金属製の洋風な鎧、背中にはこれまた金属製の槍と思われる物を背負っている。


何て言うか、アレだ騎士的なアレだ。騎士って書いてナイトって読んじゃうアレだ。え?ペンギンナイト?どっかで聞いたような、うっ、頭が…っ。いや気のせいだな。


目の前のペンギンナイトから視線を外し、辺りに視線を巡らすと、どうやらここは切り立った岩壁の前の広場らしいことがわかった。


岩壁には俺が出てきたダンジョンの扉がどーん。岩壁の周りは鬱蒼と繁る森森森。凄く森です。

その森を扉の前だけ切り開いた形だろうか。その広場の片隅にはペンギンナイトの詰め所だろう木造の小屋がある。


きっとこの小屋でペンギンナイトが誰何する獲物を今か今かと昼夜問わず待ち受けているんだろう。きっと。

扉の真正面の広場の端からは1本の道がどこかへ向けてずーっと伸びていた。舗装はされていないがしっかりと整備されているようだ。

その道が行く先は森に隠れて見ることは出来ないが、森の向こうには岩山が連なっているように見えた。


なるほどなるほど。俺が出てきたダンジョンはこの岩壁の中にあんのね~。それで俺が扉からこんにちわと。そこにこのでかいペンギンさんがこんにちわして、俺と差し向かいってわけだ。


うん、よくわからん。


えー、何このでかいペンギンさん。マジで俺と同じ大きさなんだけど。目が怖い、目が怖いって。何なの?めっちゃ睨まれてる気がするのは何故?俺、悪いオッサンじゃないよ~良いオッサンだよ~。ぷるぷる。


「先程何やら扉を叩いたような大きな音が聞こえたが、貴様か?扉に何をした?」


うおぅ、若干意識が飛んでいた所にでかいペンギンナイトからお手紙、もとい誰何が届いた。というか日本語?ペンギンナイトが喋ってるペンギン語が日本語に聞こえる。

凄い。神様パワー凄い。マジでファンタジー。便利だぞ翻訳魔法。


いや、確かにでかい音はたてましたがね、扉を壊そうとかそんなつもりとかは毛頭更々これっぽっちも無くてですね。オプションさんが敏感だったって一言に尽きると言うか。

あ、そう言えばこのさ、「誰何」ってあるじゃん。俺さ、つい最近まで「だれなに」って読んでたのよね。そしたらさ「すいか」って読むんだって!すげぇよな。感動したわ。すいかとか読めないよな。日本語って難しいぜ。


「聞いているのか?」


「うおぁ、すんません。はい。聞いてます」


現実逃避気味の俺にペンギンナイトからの更なる問いかけ。俺に精神力にダメージ2を与えた!

やめて!俺の精神力は53万よ!蚊程も効かんわぁ!


「先程の扉を叩いたような音は貴様かと聞いている」


「あ、あぁ、はい。俺、です。と言うかオプションさんと言うか」


俺の背後にフワフワと漂うオプションさんにチラッと視線を向けながら言ってみる。

俺がやったんじゃないんです~。オプションさんがやったんです~。俺、悪くないんです~。いかん、これは友達無くす言い訳や。俺とオプションさんは一心同体だから喜びは2倍、悲しみは半分、罪も罰も半分こや!


「オプション…?そこのファミリアのことか?」


ん?ファミリア?ファミリアじゃなくて、オプションさんはオプションさんっすよ?

ファミリアって言うと、使い魔的な語感がするけど…。オプションさんはファミリアなん?


「ファミリアは主人の命令でしか動かんだろう。つまりは貴様が命令して扉に攻撃を加えたのだろう?どういうつもりか?」


あれ、何かちょっとご立腹なでかいペンギンナイト。雲行きが怪しいぞこれ。どうしよう。とりあえずどうにか誤魔化そう。


「いや、ちょっと扉の手前でつまずきまして、俺が扉にぶつからないようにオプションさんが扉と俺の隙間に滑り込んでくれたんですよ。それでその勢いのままドカーンとですね」


「…ふむ…」


く、苦しいか。ペンギンナイトの視線にはまだ鋭さを宿している。いや、元々視線と言うか目付きは鋭いか。

翼を嘴に当てながら考える様な仕草をするペンギンナイト。

もう一押ししないとダメか。


「あのですね」


「…む?その剣は…見覚えがあるぞ」


ふと腰にある剣に視線を向けるペンギンナイト。

やべ、他人のってバレたら何かヤバい気配がビンビンだ。盗人扱いか!投獄フラグがバリ3だ。回避ぃぃぃ!投獄フラグを回避せよ!面舵いっぱぁぁぁい!!


「あぁ、これはその」


「朝方にダンジョンに入って行ったヒューマ族だな。鎧にも見覚えがある」


はぇ?剣と鎧?


「え?剣と鎧ですか?多分どこにでもある品だと思うんですが」


「確かに剣も鎧も高価なものではないが、剣の鞘の傷や鎧のシワなどを見れば一目瞭然だ。貴様の装備品は朝方に見た覚えがある。1人で手続きをして入って行っただろう」


ペンギンナイトの鑑定眼半端ねぇ!何、剣の鞘の傷とか!違いのわかる男過ぎるだろ!これじゃ中身が違うのバレバレじゃないですか!やだー!ピーンチ!俺ピーンチ!!投獄?投獄なの!?ヤバーい!!


「貴様らヒューマ族の顔は平たくてさっぱり見分けが付かぬからな。装備品で見分けることにしているのだ」


…はぇ?…顔の見分けがつかないんすか?


「あ、そうなんすか?」


「うむ。ヒューマ族は決定的に顔の起伏が足りん。嘴があれば一番良いが、無いしな。ウォルグ族のように鼻先と口が出ていればまだ見分けがつこうが、それすらもないヒューマ族はさっぱりダメだ」


まさかのペンギンナイトの鬼鑑定眼から一転、節穴眼への大どんでん返し。

あれか。人間が模様も大きさも全く同じのペンギンとか見分けつかねぇよ!って言うのと同じかな。

普通の一般ピーポーはその辺の鳩だってスズメだって見分けつかないしな。他種族の違いなんて知らんのです。偉い人にはそれがわからんのです。


「朝方にダンジョンに入って昼時にならぬ内に出てくるとは所詮脆弱なヒューマ族だな。転んだ所をファミリアに助けてもらうと言うのも情けない事この上無いが、その程度の冒険者なら害は無いだろう。帰って良いぞ」


ふんっと嘲りの笑いを浮かべながらくいっとアゴ、もとい嘴で広場の出口を指すペンギンナイト。

いや、笑ってんのかこれ?目付きの鋭さは変わってないが、デフォルトでこの鋭さなんだろう。かわいそうに。

もっとデフォルメされてたら女の子連中から黄色い悲鳴を浴びせかけられただろうに。

可愛らしさとは無縁のこの大きさじゃ恐怖の的じゃなかろうか。


そんなことよりも投獄フラグは何とか回避できた様子。

情けない事この上無いとか言われたけど、危機を回避するためなら甘んじて受けましょう。耐えましょう。

そんなそびえたつようなプライドを持ち合わせている訳でなし。

耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶのだ。


「じゃあ、あっしはこの辺で失礼しまして…」


ドロンさせていただきやす、とペンギンナイトの前からそそくさと退散するぜ。何かしらボロが出る前に退散じゃ。逃げるが勝ちじゃ。

異世界トラブルは命懸けだからな。避けられるイベントはさっさと逃げたほうが良いんじゃ。


「おい」


「ひゃい!」


突然の問いかけに飛び上がる小心者俺。

油断させてからの不意討ち。きたない。さすがペンギンナイトきたない。

精一杯の笑顔を浮かべながら振り返ればペンギンナイトは器用にも、翼を腕組みのように組んでこちらを眺めていらっしゃる。


「その不格好なファミリアは出しっぱなしなのか?」


不格好なファミリアだと?オプションさんのことかー!?

オプションさんディスってんのか?不格好とかマジ不遜だし。

洗練されたオプションさんのカッコ良さをわからないペンギンナイトの目は節穴確定だし。

俺の恩人、恩球?恩ファミリア?のオプションさんバカにするとかマジあり得ねぇし。

この節穴系ペンギンナイトにここはガツンと言ってやらにゃ!


「あ、はい。基本出しっぱなしです」


ガツンと言えない小心者俺。

すまぬ、オプションさんすまぬ。情けない親機ですまぬ。


「ふむ、ヒューマ族程度の魔力ではすぐに枯渇するはずだが…。よほど魔力に自信があるのだな」


げ、また何か怪しまれてる?ヤバイよヤバイよ。投獄フラグか?まさかの実験体フラグか?


「あ、えーと」


「まぁ、良い。ヒューマ族の魔力の量にさほど興味などない。さっさと立ち去れ」


まさかの自分で呼び止めておいてからのさっさと立ち去れコンボ。傍若無人極まれりだわ。傍若無ペンギン極まれりだわ。

覚えてろよペンギンナイト!オプションさんディスったのいつか後悔させてやっからな!


そう、いつか。きっと。多分。

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