(俺が) 生きていくために必要なもの
さて、異世界の冒険を始めようじゃないか。まず手始めに…、どうしようかな。あ、一度さっきのゴブリン(仮)とエンカウントした所に戻ってみよう。
ゴブリン(仮)がガッチャガッチャやってたのが何なのか確認したいぜ。
もしかしたら何かあるかもだし。
人だとしてもお亡くなりになってたらもう中身は光になってるよな。多分。
落とし物と言うか遺品と言うかの所有権がどうなってるのか知らないけど、緊急時だから許してもらおう。
と言うか許してもらえないと、俺が死ぬ。何か武器防具がないと死ぬ。ナイフ1本じゃ心許ないし、背に腹は変えられられんのじゃ。
確か、エンカウント場所は、あー行ってこー行ってこっち行ってあっち。
ウィザー○リィとボーイスカウトで鍛えたマッピング能力がこんなところで役に立つとは。人生何があるかわからないもんだな。
ていうかここウィズウィズし過ぎだろ。マジダンジョン。真っ暗闇すぎてリアルダンジョン過ぎる。暗闇魂とか悪魔魂みたいな即死系トラップがないことを切実に祈るね。
しかし、僕っ娘系神様も言ってたけど、魔物というか不思議生物が普通にいるんだな。
きっと魔物を殺したり魔物に殺されたりも日常茶飯事な世界なんだろうな。
さっきみたいなゴブリン(仮)とかたくさん出てきて人と魔物が血で血を洗う戦いとかやってんだろうな。
わぁファンタジー。まぁファンタジー。やぁファンタジー。
でももう何か順応しかけてる俺。やったね。ゲーム脳万歳。
そういや、魔力のある体になったとかどうとからしいが、魔法とか撃てるようになるのかな。楽しみだな。レベルとか上げるのかな。
どうやって覚おぼえるのかな。広範囲系攻撃魔法とか憧れるよね。
消し飛べー!とか言いながらメテオ的な魔法撃ちたい。
うん、完全なゲーム脳だな。仕方ない。俺はこういう人間だからな。仕方ない仕方ない。
よし行くぞオプションさん。30になってもゲーム脳万歳な俺の行く先を明るく照らしてくれ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく暗闇の中を歩いていると、闇の中にぼんやりと輝く何かがあるのに気付いた。
オプションさんじゃないよ。オレンジ色じゃない。別の何かだ。紫色だ。あらやだ禍々しい。
来るときにはゴブリン(仮)に追われてたから気が付かなかったんだな。
あれだけ焦ってたら気付くもんも気付かないよな。仕方ない仕方ない。
近付いてみると、何だか怪しげな装飾の施されたごつい門が現れた。何よ。地獄の門だとでも言うのか。いや、それっぽいけど。
門の真ん中にある、台座らしき場所で紫色の炎が燃えている。
何だろう、凄く、禍々しいです。
心なしか足が震えてくるぜ。何だろう、凄く、おっかないです。
どこぞのニュータイプさんがたなら圧倒的なプレッシャーでガクブルするほどだ。
これ以上近づかない方がいいって俺のセブンセンシズが言ってる。これ以上はヤバイ。この門の近くにいるだけでもヤバイ。
早くここから離れないと、俺の心がヤバイ気がする。
離れよう離れよう。これは俺みたいな一般ピーポーが触れて良いものじゃないだろう。
どこぞの勇者様が最強の装備と仲間を連れてくるレベルのプレッシャーだ。ラストダンジョンだ。ラストダンジョン。
やだー。こんなラストダンジョンの風格漂う場所に放り出されるなんて聞いてないわ~。いや、僕っ娘系神様はどこに飛ぶかわからないって言ってたけど~。
それにしてもレベル1のペーペーを投入していい場所じゃないはずだ。
とにかく撤退。撤退でござる。オプションさん、早くここから撤退するのだ。
そしてここのことは忘れよう。
のんびりゆっくり暮らす分には、こんな禍々しい場所に用はない。こんな勇者フラグはいらんのだ。
そう、こんなもんは偉い勇者様に任せておけば良いのだ。
よし!忘れたぞ!こんな門は見なかった!俺はこんな場所には来なかった!
任せたぞ!見知らぬ勇者様!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
禍々しい門から離れてしばらく、エンカウント場所に無事到着。
さすがウィズとボーイスカウトで鍛えたマッピング能力だ。
エンカウント場所には、あれから多少時間がたってはいたが、まだランタンの火がチラチラ燃えている。
ランタンを立て直して、こぼれていた火をうまく移して火をつけ直す。これで灯りは確保だ。
灯りを確保してからガッチャガッチャの原因と思われる場所を観察する。
ガッチャガッチャの原因と思われる場所には、見た感じいくつか道具類も残っている。やっぱり装備品が消えるのは時間がかかるのかもしれない。
ゴブリン(仮)がガッチャガッチャやっていた物も残っている。
布の服と何かの革で作られている胸当てと靴とベルト。
そしてガッチャガッチャと言う音の原因、70~80㎝程の剣っぽい物だ。
服や胸当ての中身はやはりない。あったら即回れ右したけどな!さすがに人の死体を漁るのはキツいよな!
血の後とかも無いのもありがたいな。血糊のついた道具とかもキツい。
装備品に向けて手を合わせて拝む。
この人がどんな宗教かとかわからんが、気持ちの問題だよな。
すんません、使わせてもらいます。道具の方もここで朽ちるより、誰かに有効活用してもらえた方が喜ぶと思うんよ。
すんません、すんません。
しばらく拝んでから物色開始だ。
まず布の服は既に似たようなの着てるし、何ヵ所か穴が開いてるから放置。刺された場所が分かりやすすぎる。
胸当ては血とかついてないから、ちょっときついけど胸当てに付いているベルトを調節して何とか装備した。
20歳くらいの時は結構筋肉ついてたからな。サイズ合わないな。この人は小柄だったのかな。
靴はとてもありがたい。やっぱりちょっときついけど紐でうまく縛れば大丈夫そうだ。さっきみたいに木の破片を踏んでもダメージは少なそうだ。過信は禁物だけどな。何かのなめし革だし。
そして、メインディッシュの剣だ。
木の鞘に納まっているのを手に取ってみると、ずっしり重い。思ったより重いな、5㎏くらいあるぞ!?と思ったら木の鞘から金具が伸びていて、革のベルトに繋がって一緒になって持ち上がってた。
ベルトにもポーチみたいなのがくっついてたからその重さもあるよな。そりゃ重いわ。騙された。
ちょっと外れにくい金具を鞘から外して、剣を抜いてみる。
重さは、1~2㎏くらい?柄の部分には滑り止めの布が巻いてあって、握った感触は悪くない。
刃渡りは60㎝程、先端は鋭く尖り、刀身は両刃でこれまためっちゃ切れそう。
何だろうね。この辺の刃物はみんなめっちゃ切れそうだよね。鍛冶技術でも高いのかよ。怖いぜまったく。
よくよく考えると、このちょっと外れにくい金具がなかったらゴブリン(仮)のメインウェポンがナイフからこれにバージョンアップしてたわけだよな。
危なかった。こんなん振り回されたらファーストアタックでどっか切られてたかもしれん。
ありがとう金具。助かったよ金具。不束者だけどこれからよろしくな。
剣を鞘に戻してベルトのポーチを開けてみた。
中にはコルクで蓋をされた小瓶が4本と、乾燥した肉、ジャーキーみたいなやつが入った包み、そして見慣れない硬貨が何枚か入った小袋が収まっていた
。
硬貨は銀色っぽいのが3枚と小さな銀色っぽいのが5枚、茶色っぽいのが7枚と小さな茶色っぽいのが4枚。
オプションさんとランタンの灯りだと色が見えづらいので、だいぶ感覚だ。
多分この世界の通貨なんだろう。多いのか少ないのかはわからないけど、無いよりは絶対にましだろう。すんません、使わせてもらいます。
硬貨を小袋にしまい、小瓶を手に取ってみると、それぞれラベルが貼ってあり、変な文字が書いてある。
パッと見てよくわからなかったが、しばらくラベルを眺めていたら「回復薬」と読めるような気がしてきた。
僕っ娘系神様が翻訳魔法がどうとか言ってたけどこれまたファンタジーだな。
見たこともない字が眺めてるだけで読めるような気がしてくるなんて。凄いなファンタジー。凄いな翻訳魔法。
勉強いらずだな。英語の勉強の時に欲しかったわ。
他の3本の小瓶も眺めてみるとそれぞれ「回復薬」「解毒薬」「ランタンの燃料」と読み取れる気がしてきた。
気がしてきたってとこが曖昧だね。曖昧だとちょっと不安だね。
でも魔法で翻訳はされてるはずだから大丈夫だろ。
僕っ娘系神様を信用しよう。
ジャーキーみたいなやつは保存食の位置付けなんだろうな。
乾燥してるから長持ちしそうだもん。
でもこの量じゃそんな長く活動できないだろ。
いや、考え方を変えれば、もともとあんまり長く活動する気がなかった?
と言うかこの人かなり軽装だよな。
するってぇと?この人はちょっとだけこのダンジョンチックな建造物の中で活動しようとして、この軽装備でこの中に来て、さっきのゴブリン(仮)に不意を突かれてやられちまったと。そういうことかな?
なら、もしかしなくても、出口ってそんなに遠くないんじゃないか?
ジャーキーもまったく減ってる感じじゃなかったから、入ってきてそれほどたってなかったのでは?
ヤバイ。俺の行く先が明るくなってきた。オプションさんは元から明るいけど、不安しかなかったさっきに比べたら希望が見えた今、真っ暗闇のダンジョンが明るく感じるぜ!
あ、ランタンがあるからか。
オプションさんの時より光源が増えたからな。そりゃ明るくも感じますね。そうですね。
よっしゃ、使えそうな物はもらって行こう。
すいません。いただいていきます。俺が生きていくために必要なものなんです。すいません。
よし、ランタンも燃料を足せばまだ使えそうだ。
ナイフ、ランプかばーんにつーめーこーんーで~つめーこーんで。
カバンないけどね。ランタンは大きさ的にポーチに入らないけどね。