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28 部下? 実験体?

 殺到する山賊たちの合間から、ブラウリオ目がけて燃え盛る火の玉が飛んでくる。

 轟音と激しい熱気を伴って。

 背後から飛んでくるにもかかわらず、前衛の山賊は焦りもとまどいもなかった。


 その様から、山賊たちが戦いなれていることを察知するブラウリオ。

 でなければ、同士討ちの危険を恐れずにはいられないだろう。


 ブラウリオは慌てず、左手に持った漆黒の盾で火の玉を受け止めて防ぐ。

 漆黒の盾は熱気などを全て遮断する。

 ブラウリオへと殺到する山賊たちは、それでも動転しなかった。

 完全に防がれても、火の玉による攻撃は役目を果たしているがゆえに。


(ここで、同時に攻撃してくるはずだ!)

 盾で火の玉を防げたが、お陰でブラウリオの視界は大きく遮断される。

 それが山賊たちの狙いだ。

 しかし、ブラウリオは気配察知でカバーして、山賊たちの目論見を上回る。


 ブラウリオの読みが的中し、左右から刃が殺到する。

 右の刃は剣で受け流し、左から来る刃は盾をスライドさせて受け止めた。

 その曲芸じみた動きを見て、ブラウリオに斬りつけた山賊二人は目を見張る。


 ブラウリオを狙うのはその二人だけではない。

 もう二人が迂回して、ブラウリオを四人で取り囲もうとした。

 いくらブラウリオが強くとも、そうなるとさすがに厳しくなる。


 後衛のナツキはブラウリオを取り囲もうとした両サイドの二人に、闇の雲を飛ばす。

 闇の雲に覆われた二人は麻痺してしまい、その場にうずくまった。


 すかさず、ブラウリオも反撃に転じる。

 右手に持った剣を用いてではない。

 左手にある盾を使ってだ。


 ブラウリオは右手の敵を剣でいなしながら、左側の敵を盾でなぎはらって強打する。

 デスナイトであるブラウリオの剛力に抗しきれず、左側の敵は吹き飛ばされて意識を失う。

 これで残る山賊は一三人。


 山賊の一人がロングボウの弦をふりしぼって、ナツキに矢を放つ。

 明らかな失策だった。

 ナツキがクロスボウの矢をシールドで防いだのを見ていれば、狙いをブラウリオに変えていただろう。


 ナツキはその矢を無視して、その山賊に黒雲を飛ばして麻痺させ無力化する。

 強弓であったが、ナツキに届かずして矢は落ちる。


 新たな敵がブラウリオの左側に現れて戦斧の一撃を食らわせるも、難なく盾で防いだ。

 その間に、右手側にいた敵をブラウリオは剣でなぎ倒す。

 ナツキも黒雲で、もう二人を無力化する。

 ついに残りの山賊は十人をきって残り九人。


 全く歯が立たず、ここまで一方的に蹴散らされると、山賊達の表情に動揺の色がくっきり現れる。

 後ろで指揮しているのが、山賊の頭領で左目が切り傷で潰れた男だ。

 動揺する様子を見てとった頭領が、活気付けようと声を張り上げる。


「うろたえるな! まずは前の男に攻撃を集中させてしとめろ!」


 その声を聞いて、ゆれていた山賊達の目つきが静まる。

 ブラウリオの右側から、新たな山賊が到来する。

 それにあわせて、魔術使いが新たな火の玉をブラウリオに放ち、別の賊がダガーを投げつける。


 左から斧、右から長剣、さらに火の玉、ダガーまでブラウリオに襲いかかる。

 それで怖気づくのではなく、ブラウリオはにやりと笑った。


 ブラウリオは剣に闇の闘気をまとわせ、右へとなぎ払って闘気を放つ。

 この一連の動作で火の玉は闘気で相殺し、斬りかかってくる長剣を剣で受ける。

 左側から叩きつけられる戦斧は盾を用いて防ぎ、力ずくで左へと追いやって、ダガーをかわす。


 他にもクロスボウを用いて、ブラウリオを狙撃しようとする山賊が二人いた。

 さすがにこの攻撃が為されていれば、ブラウリオも回避できなかっただろう。

 しかし、その二人にはナツキが放った黒雲がまとわりつき、麻痺してしまう。


 ブラウリオは同じパターンの攻撃を、これ以上させるつもりはなかった。

 左手にいた戦斧を持った山賊に盾を投げつけて、剣を両手で持つ。

 それで大きく体勢を崩した山賊を両手で持った剣で打ちつけ、気絶させる。


 そのまま、前に出て右手にいた敵と前にいた敵をなぎ払って打ち倒した。

 これで残りは四人。


 ここに至って、二十代とおぼしき抜け目なさそうな青年は剣を投げる。


「降参だ! 手を出さないでくれ!」


「貴様っ!」


 片目の頭領が激高するも、

「勝ち目はねぇよ。お頭もわかってるんだろう」

 と、青年が言い返す。


 もう一人の山賊は背を向けて逃げたが、それを見つけたナツキは黒雲を飛ばす。

 逃げ足よりも迫りくる黒雲のがはるかに早く、山賊は逃げ切れずのみこまれる。

 雲がはれたときには、麻痺した山賊が一人転がっていた。


 残りの山賊は三十過ぎくらいの魔術使いに片目の頭領。

 魔術使いは杖を投げて、両手をあげる。

「ここまでだろう。抵抗しない。殺さないでくれ」


「チィッ!!」

 山賊の頭領は激しく舌打ちする。


「お前はまだ戦うのか?」


 ナツキの問いかけに対して、頭領は大剣を鞘から抜くことで答えにした。

 鞘を地面へ放り出し、頭領は両手でもって大剣を構える。

 気迫をほとばしらせ、つぶれている片目が迫力を際立たせていた。


「いいだろう。ブラウリオ、任せた」

「ありがとうございます!」


 ブラウリオの声には感謝と気迫が入り混じっていた。

 頭領は大剣を大上段で構え、ブラウリオは正眼に構える。

 互いにじりじりと近づき、間合いを確かめる。


(こいつは強いな。部下どもがなぎ倒されたわけだ。だが、俺は違う。先の先だ。頭をかち割ってやる!)

 頭領は間合いを慎重に詰めていく。

 少しずつ、じっくりと。


 豪放そうに見える顔立ちと大剣にそぐわない慎重さであった。

 しかし、その慎重さが彼を頭領にしていたのだ。


 頭領とブラウリオの戦いを、降伏した魔術使いや青年が見守っていた。

 ナツキも同じように見守っていたが、ブラウリオに吹き飛ばされていた男の一人が逃げようとして躊躇なく麻痺させる。

 それを見た青年は皮肉げな笑いを浮かべた。


 徐々に間合いが詰まってきて、いよいよブラウリオが頭領の間合いに入る。


「てぇぃっ!!」


 気合一閃、大上段からブラウリオの頭上目がけて、大剣が振り下ろされる。

 しかし、ブラウリオの突きはそれよりも早い。

 まさに電光石火だった。


 ブラウリオは大剣をかわし、突きを頭領の左肩にきめる。

 頭領の左肩から骨が砕ける激しい音がして、頭領はもんどりうって倒れた。


「どうです。ヴァレンス様!」

 ブラウリオは振り返って、さわやかな笑みを見せた。


「見事だった。しかし、殺してないのだろうな?」

「大丈夫ですよ、おそらく、多分」

 ナツキはブラウリオを通り過ぎて、倒れた頭領の下へ赴く。

 頭領はかろうじて受身をとるのに成功していたが、左肩はぐしゃぐしゃになり苦痛で顔をゆがませる。


「お互い、降伏してよかったな」

 青年が魔術使いに軽口を叩く。

 魔術使いは口をへの字に曲げて、返事をしなかった。


 ナツキが近づくと、頭領は戦士としての誇りを瞳に示しながら、立ち上がろうとする。

 しかし、ダメージは大きくどうにもならなかった。

 そんな頭領にナツキは治癒魔術をかけて、全快させる。

 激痛が消えうせ、あ然とする頭領。


「まだ戦いたければ、今度は私が相手になろう。どうする?」

 頭領を見下ろしながら、ナツキは問いかける。


「なら今度こそ……」

 頭領は唇を噛み締める。


「いや、負けだ。どうにでもしろ」

 頭領は脱力し、寝転んだまま空を見上げた。


「そうか。ならば、降伏したお前達三人とブラウリオは、麻痺して転がってる男やブラウリオに打ち倒された奴らをここに集めてくれ。まとめて治癒してから話がある」


 ナツキ、ブラウリオ、頭領、魔術使い、青年の五人が転がっている山賊を回収して集めていく。

 一箇所に集まった彼らを治癒魔術でナツキは全快させ、話し始める。


「最初に言っておく。ブラウリオ、逃げ出そうとした奴がいたら、今度は容赦なく斬り殺せ。お前の手であまるようなら、今度は麻痺の雲ではなく即死の雲を飛ばす。この言葉に二言はない」

「かしこまりました」


 刃を落とした剣をナツキに渡して、ブラウリオは漆黒の刃を取り出した。

 ブラウリオからすれば、山賊達などに同情するいわれは全くない。

 禍々しさを感じさせるその刃とブラウリオの冷たい視線を見て、山賊達は慄然とする。


 ナツキは刃を落とした剣を異空間にしまう。

 周囲の気配や魔力などを探って、異常がないことを確認してから、話を再開する。


「私の名はヴァレンス。大いなる神レナーツァ様に仕える神官だ」

 山賊たちがどよめきの声をあげる。


「質問があれば後で聞く。まずは黙れ」

 ナツキの声には抗いがたいものがあり、山賊達は静まり返った。


「私はレナーツァ様への信仰を取り戻すべく、様々な活動を行っている。その為には多くの部下が必要で、お前達を部下にしたい。普段は農業と魔術、武術の鍛錬をやってもらい、戦いになりそうであれば戦ってもらう。私の部下となるか死ぬか、好きなほうを選んでくれ。死にたいのであれば、苦しむことなく殺せるから安心するがいい」


 もちろん、ナツキの言葉を聞いて安心する者など一人もいなかった。

 山賊達のほとんどには不信感、とまどい、嫌悪といった考えが表情に浮き出ている。


「部下か死かを選ぶ前に質問があれば答えよう。質問がある者は手をあげてくれ」

 何人か手をあげるが、ナツキは降伏した魔術使いを指差す。


「まずはお前の問いにこたえよう」

「魔術の鍛錬というが、この中で魔術を使えるのは俺だけだ。他の奴らも魔術が使えるようになるのか?」

「それについて言い忘れていたな。お前達には魔力を含む食品をとってもらう。それで魔力が向上すれば、土魔術を習得してもらい、農業に生かしていく。その他の魔術も習得できるようならば、鍛錬してもらう」


 魔術使いは目を見開く。


「そんなことは初めて聞く。害はないのか? うまくいくのか?」

「害があるかどうか、うまくいくかどうかはお前達の体でわかる」

 その意味に気づいた者達は顔をしかめたり、ナツキをにらみつけたりする。


「……俺達の体で実験するのか?」

「そうだ。だが私も同じものを食べるし、身体に異常が出た者の実験は中断する。先ほどの戦いで私はお前達をある程度評価している。私は部下となった者を使いつぶすつもりはない。そんなつもりなら、お前達を実験体にするのも黙っているし、鍛錬などほどこさない。よく考えればわかるだろうが、魔術や武術が上達すればお前達一人一人の価値は上がる。そうなれば、使いつぶすのは惜しいだろう」

「その言葉を信じていいのだろうな?」

「嘘をつくつもりはない、といってもそれを証明できないだろう。繰り返しになるが、私はお前達を殺そうと思えばいつでも殺せる。実験体にするなどと自分に不利なことをあえて述べる必要もない。それでも、あえてそう述べた。それが私の示せる答えだ」

「……わかった。俺からはもう質問はない」

「そうか。なら、他に質問は?」


 手をあげたのは一人だけだった。

 降伏した青年だ。

 ナツキが青年を指名する。


「働きに応じて、報酬は増えますか?」

「もちろんだ。できる限り望むものを与えよう」

「金でも物でも女でも?」

 青年がふてぶてしい表情を作る。


「金と物はそれだけの稼ぎを出せば与えよう。私は物に対する執着心はない。欲しい者が働きに応じて取ればいい」

 ナツキは事務的に話し続ける。


「そして女だが、組織内部で無理やりものにするのは決して許さん。それを許せば組織が腐り、敗北につながる。レナーツァ様に敗北をもたらす要素は私が全て滅ぼす」


 ナツキの声は寒々としていて、ふてぶてしかった青年の表情が引き締まる。

 山賊達の雰囲気が粛然とする。


「もっとも、私の目から見て女性側の同意があるとなれば好きにすればいい。また、実績を積み増せば自由な行動を許そう。与えた報酬で娼館にいくなり、好きにすればいい。信賞必罰によって組織が成り立つ。成果を出せば、私はそれに報いよう。他に何か質問はあるか?」

「いえ、ありません。そして、俺シェラクはヴァレンス様の部下になります。何でも申し付けて下さい。忠誠を尽くし、きっと役立ってみせます!」


 シェラクの宣言を聞いて、山賊の何人かがつい声をあげる。


(目端のきく奴が他にいなくて、一番乗りで部下になれたな。最初が重要だ。これで少しでも心証が上がったはずだ)

 シェラクは内心でそう計算する。


「その決断に感謝しよう。シェラクか、名前は覚えたぞ」

「ありがとうございます、ヴァレンス様!」


(ようやく俺にも運が向いてきた。このヴァレンスって奴は半端ない強さだ。部下だろうあのガキですらあの強さなんだからな。この組織はきっと大きくなるし、そうなれば俺がやれることも増えてくる。なんとしてものしあがってやるぜ)

 貧しい村を飛び出して、山賊に堕ちていた二一才の青年シェラクは野望を胸に抱く。


 ナツキは他の質問がないか聞くが、誰も手をあげなかった。


「ならば、部下になるか死ぬか選んでもらうとしよう。まずはお前からだ」

 ナツキは片目の頭領を指差した。

 山賊達が固唾を呑んで、頭領に注目する。


「…………」

「どうした? 決断できないのか?」

「誰が脅されて部下になるものかよ」

「……それがお前の返事か?」

 ナツキの声は冷然としていた。


「いや、違う。かっこつけてそう答えたかったがな。だけど、俺はまだ四二年しか生きちゃいねぇ。考えれば考えるほど、生に未練がある。だから、俺はお前の部下になる。生き延びるために何でもしてやるよ」

 頭領は複雑な表情を浮かべていた。


「その選択に私は感謝しよう。お前がこの中で一番強いからな」

「ヘッ、あれだけぼこぼこにされたんだ。全然うれしくねぇよ」

「それは残念だ。では、お前の右手を出してくれ。私から注ぎ込む魔力を拒絶するな」

「ハハン、あの神の名前だし、やはりそういうことか。まぁ、好きにしてくれ」


 片目の頭領は右手を出し、ナツキも右手を出して握手し、魔力を注ぎ込む。

 注がれた魔力を頭領が受け入れて、ナツキの新たな眷族となった。


「お前の名前は?」

「バギートだ。よろしくな、ご主人様」

 バギートは無精ひげに覆われた口元を緩める。


「名前はバギートか。部下になった祝いを出すとしよう。じっとしていてくれ」

 ナツキは右手を潰れたバギートの左目に当てる。

 治癒魔術を発動させ、右手を離すとバギートの左目は完治していた。


「見えるようになったか?」

「……嘘だろ!?」

「事実だ。少しは嬉しいか?」

「当たり前だろ!! 見え方が全然違うぞ!!」

「ならば、レナーツァ様に感謝するがいい。全ては慈悲深き神力によるものだ」

「ああ、わかった。光の神殿だと、とんでもない大金を積まないと治してもらえないからな」


 バギートはあちこちに視線を合わせて、目の様子を確かめていく。

 元部下達から「お頭、よかった!」「すげぇ!!」といった歓声があがる。


「では次だな、お前だ」

 ナツキは魔術使いを指差す。


「なぜ最初に目を治せることを言わなかった?」

 魔術使いが憮然として質問する。


「すっかり、言い忘れていたな」

「そんな訳がない。といいたいところだが、主君となる方を追及しても意味があるまい」

「ならば、部下になってくれるというのか」

「ああ、私は魔術の腕が伸び悩んでいた。こんな環境ではどうしようもないと自分を説得していた。しかし、今以上に魔術の腕が上がる機会があるのならば、喜んで部下になろう」

 魔術使いは自嘲する。


「それになんのかんのいって、私もまだ死にたくないのだよ」

「お前が二番目に強い。部下となってくれて感謝しよう。名前は?」 

「コンラッドだ」

「よし、覚えた。右手を出せ」


 ナツキはバギートと同じように、コンラッドを新たな眷族とした。

 バギート、コンラッドの様子を見ていた山賊達にもはや迷いはなかった。

 全員がナツキの眷族となる。


 一番若くて一八才、年上でも四〇代だ。

 恬淡として死を選べるほど年老いた者はいなかった。

 それに、バギートの片目を治したのがきいていた。


 ナツキは他にも手足の古傷などを治癒していく。

 全てはレナーツァにいただいた御力によるものとして。

 古傷を治された者達は心から感謝する。

 ナツキの眷族として、一八人の男が加わった。

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