爪痕
戦いの爪痕が残る。
瓦礫と化した街並み。
水平線に沈む太陽に照らされたそこは世界の終わりみたいだった。
だが、世界は終わらない。
世界は続く。
世界の道はこれからも続く。そこに行き止まりはない。
これで人間が世界とともに道を歩めなくなっても自業自得だ。
これは自業自得の道。
かつての日々からは変わり果てた世界。
それは人が求めた世界。
私たちが望んだ世界はいつしか狂ってしまった。
求めた平和は、求めた救いは、求めた奇跡は。
いつしか混沌を、いつしか破壊を、いつしか必然を。
争いを求めて人々は歩き出した。
平和を謳うその口が罵声を浴びせる。
救いに差し伸べたその手で人を殺す。
奇跡を願う気持ちはいつしか勝利を望む祈りへ。
そうして誰もが死んでいった。
争いは終わって、爪痕と僅かな人が残された。
この爪痕を誰が消すというのだろう?
一筋の涙が流れる。
それは重力に引かれて落ちて、確かに地面にシミを作った。
それが僕がここにいる証明だった。
まだ僕たちの道は途切れていない。
世界とともに歩んでいける。
太陽はキラキラと廃墟を照らす。
海も、街も、兵器も分け隔てなくそれは黄昏の赤に染めていく。
そうして僕は目を閉じる。
悲しみに暮れる人を夜の闇が切り裂いていく。
赤に燃え上がった世界は青へと塗り替えられていく。
海に背を向ける。
それは決別。
殺し、奪い、滅んだ、狂った過去から。
悲しみ、憂い、沈んだ、暮れた現在から。
そして見つめる。
苦しみ、迷い、望む、昇る未来へ。
爪痕は確かに残っている。
消せない傷を残した。
それは強く僕を世界に縫い止めた。
この爪あとは誰が消すというのだろう?
その答えはもう既に出ていた。
振り返ることはあるだろう。
だが、立ち止まることはない。
夜は今も世界を青に染めていた。