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○○年△△月××日の星の綺麗な静かな夜よ。一人の女が神殿の前に赤子を置いていくわ。涙を流しながら、つらそうにその女性は子供を置いていく。でも、決してその人を止めてはだめ。未来が失われる。母子を永遠に引き離すのは悲しいことだけど、その赤子が世界を救う一端を担う。誰よりも強い聖なる力を操るわ。そうね、その子は、あぁ、…つらそうな顔をしている。でも大丈夫、自分で幸せを掴める子よ。大丈夫すべてうまくいくわ。これは勘だけどね。
聖ルイス神殿 先見の巫女
「ようこそ、セントルイス神殿へ。あなたをお待ちしておりました、勇者アリウス。わたくしは神官長を務めさせていただいております、コールと申します」
勇者と騎士が神殿に足を踏み入れると、待ち構えていたのは大勢の神官たちとその中央に立つ若い男だった。
「アリウスです、宜しくお願いします。…早速ですが、僕らが来たのは」
「わかっています」
男は静かに右手を上げた。その合図に10人の女性が勇者たちの前に現れた。どの女性もベールを身にまとい、顔も見えない。だが、彼女たちが現れたことにより聖堂の雰囲気が変わった。聖なる力が聖堂中に満ちるのを肌に感じた。
「我らセントルイス神殿は予言に従い、聖なる力の使い手として子供を育ててきました。もちろん貴方のために。幼いころより運命を定められし子供がこの中にいます。貴方ならおわかりでしょう?」
男の挑発するような言葉にも、勇者は動じることなく10人の女性を目で追うと、ゆっくりと足を進めた。
「すまない」
勇者のつぶやきは神官長にしか届かないほどの声だったが、神官長は目を丸くした。そして、迷うことなく歩く勇者の背中を見ると悲しそうに苦笑いを浮かべ目を伏せた。
勇者は一人の女性の前に立つ、ベールで隠された女性の表情は読めない。
「名前を教えていただけますか?」
「…フィーリアと申します」
「では、フィーリア様、どうか我らとともに魔王を倒すたびに出ていただけませんか。貴方の力が必要なのです」
「…フィーリア、とお呼びください」
女性はゆっくりとベールを外した。なめらかな輝きをまとう金糸の髪と磨かれ透き通った翡翠の瞳が彼女の美貌を引き立てる。彼女は柔らかい笑みを浮かべる。
「神の予言のもとに、貴方の力になり、ともに戦うことを誓います」
「あぁ、世界を救おう」