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Chain94 歪んだ愛情の果てに



 いつまでも無神経さを通す君なんて、いっその事消えてしまえばいい……あの時は、そう心から思っていた





 君を突き放した日から数日後


 「あれ? また夏海と別々で来たのか?」

 大学の駐車場に停めた車から降りてきた俺に、渉が声を掛けてきた。

 「あぁ、それが何か?」

 「ん? 別に〜」

 高月あいつと付き合っていても、大学へは君と一緒に通学していた。それが当たり前のようになっていたから、一人でこうしてやって来る俺に渉も何か感じたのだろうか。

 「ほら、夏海も彼氏がいるからさ。あまり俺と一緒に居る所を見られて誤解されるのも嫌だし?」

 そんな渉に、俺は適当な理由を作っては答える。

 「それよりさ〜……」

 俺が渉の肩に手を置いて話し始めた時、門のほうから一人でやって来た君と目が合った。

 「あっ……」

 何かを言おうとする君から視線を逸らして、俺はそのまま渉と話を続けようとする。しかし、その前に渉も君に気づいた。

 「おっ、夏海じゃん! おはよ〜」

 「おはよ」

 元気に挨拶する渉に対して、あれから数日経ってもまだどこか沈んでいる感じを見せる君。そんな君をよそに、俺は渉の肩を軽く叩くと

 「渉〜、俺やっぱり帰るわ」

 「何ぃっ? お前、今来たところだぞ!」

 「伊織の所へ行って来る〜」

 そう言って元来た道を帰っていく。後ろからは俺を呼ぶ渉の声が聞こえてくるが、それも無視して車に乗って大学を後にした。

 俺を見る君の怯えたような視線……それを見るたびに、まるで俺一人が悪者のように感じて苛立ちが消えない。


 ―――――


 「って、まさか伊織の家に行く訳にもいかないしねぇ」

 そう言って俺が車を停めたところは……

 “あの日”から毎年欠かさず来ていた海が見える丘の上に建てられた……お祖父様の家だった。

 車から降りてポケットから鍵を取り出すと、中へと入っていく。

 今はもう誰も住んでいないこの家だけど、毎年欠かさず来てはこまめに掃除もしているのでまるで人がいるような雰囲気を出していた。

 長い廊下を歩いて着いたリビングに入ると、壁には隙間無く貼られた幼い子供から大人までの男女の写真やポスターが視界に入る。

 それはもちろん君や俺、そして兄貴のものであった。

 俺や兄貴を孫である君と同じ様に可愛がってくれたお祖父様は、このように写真を飾っては眺めるのが好きだった。

 そんなお祖父様のために俺はお祖父様が亡くなった今でも、写真を撮ればこうして貼っていた。

 それが……この家を託してくれたお祖父様への俺なりの恩返しだった。


 そして、俺はお祖父様がよく座っていたソファに座ってその写真を見る。視線の先には、まだ歪んだ関係になる前の俺と君の屈託の無い笑顔が写された一枚の写真。それは、確か小学校の入学式のものだった。

 お互い手を繋いでブイサインを見せる二人……どうしてこのままの関係を俺たちは維持する事が出来なかったのだろう。


 君と兄貴は今でも幼い頃と同様、兄妹のような関係でいるのにどうして俺にはそれが出来なかったのか……

 この写真の時から今まで十二年間、たくさん傷付いて傷付けて……そして、それは周りの人々も巻き込んでいった。

 それでも俺はまだ足りないのか、こうして君を……俺自身を傷付けている。誰よりも愛している君を本当は泣かせたくないのに……この手で守りたいのに。


 それでも、俺の中では君を心底傷付けたいと思っている別の“俺”がいる。

 自分を愛さない君なんて、たくさん傷付いてボロボロになればいい……そうすれば君は今度こそ俺の元へ帰ってくる。

 そんな歪んだ感情を抱いているのだ……


 「お祖父様……」

 どうして貴方は俺にあの子を託したのですか……? 貴方が最も大切にしていたあの子を、どうして俺なんかに託したのですか?

 こんな結末になるという事を、貴方は予測できなかったのですか?

 もう、自分でもどうしたらいいのか解らない……このまま突き放してしまえば楽になれるかもしれない。しかし、心から君を欲している俺にはそれは叶わない事だった。


 座っていたソファからゆっくりと床に倒れこむ。冷たい床の上で倒れこんで天井を見上げる俺の頭の中は、もう何も考えられないくらい混乱して永遠に見つからないであろう出口を探していた。

 天井を見つめていた目は徐々に閉じていき、そのまま俺は意識を遠ざけていった。


 しかし、あての無い出口を彷徨う俺に、間もなく一つの出口が開かれようとしていた。それは、俺にとっても君にとっても最良の……結果となる。


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