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Chain92 それは突然やって来る


 夢のようなひと時は、あっという間に終わってしまうものだ……



 “sEVeN”の撮影を終えてからしばらくして、俺の元に送られてきた“sEVeN”のコレクションカタログ。

 その中には俺のページも設けられていて、ページを捲るたび胸が熱くなった。

 一冊のカタログの中には知っている外国人トップモデルもいて、そんな彼らともこうして同じ冊子に掲載されたと思うと更に心が舞い上がる感じがした。



 ―――――


 「そう、これがその写真なんだ」

 そう言って彼女が見ているのは、カタログに掲載されていたものと同じ時に撮ったポラだった。

 「素敵じゃない。だけど、カタログの方も見たかったわ」

 「ゴメンね。カタログはもう事務所に持って行っちゃったんだ」

 ベッドの中での会話の相手は、サロンのオーナーをしているという年上の女性。彼女は俺が撮影を終えた後、帰宅する途中に声を掛けてきた女性だった。

 あの時は心が舞い上がっていたため、女性の相手などするなんて勿体無いと思った俺がこうして別の日に会うと約束をしていた。

 しかし、そんな突然声を掛けてきた女性に、あの大切なカタログを見せる訳にはいかないと嘘をついてまで断ったのだが……

 「そう。でも、いいわ。だって、カタログの中じゃなくて実物のあなたが目の前にいるのだから」

 そう言ってはキスをしてくる彼女。それに応えるよう彼女の頭を手で支える。しばらくして離れたら、俺は傍に置いていた煙草に火を点ける。

 「あら? まだ未成年じゃなかったかしら?」

 少し意地悪な笑みを見せながら言う彼女に、俺は煙を吐き出すと

 「そう、来年で二十歳になるの。だけど、江梨子さんはそんな細かい事にこだわらないよね?」

 そう答える俺に彼女は相変わらず笑みを浮かべてみせる。そして、煙草を持っていた手に触れてくると煙草を俺の手から灰皿へと移す。

 「まだ、吸っているのに……」

 「そんな事より、もう一回……ね?」

 灰皿で煙を出す煙草を名残惜しそうに見ている俺の顔に手を触れてはそう告げる彼女。視線をそんな彼女へ移すと、口元に笑みを浮かべてはもう一度彼女の唇を塞ぐ。

 積極的な女性は嫌いじゃない……けれど、自分の楽しみを壊すような事をされるのは嫌い。しかし、俺はそのまま彼女を抱き締める。


 “あ〜っ、また煙草吸っている〜!”


 そんな君の声が聞こえたような気がしたから……

 繰り返すように聞こえてくるその声を消すように、目の前にいる彼女を抱いては忘れようとする。

 しかし……


 「琉依?」

 「……ごめん。俺、帰るわ」

 「えっ? ちょっ……」

 突然の言葉とベッドから出る俺に、彼女は慌てて俺の腕を掴む。

 「どうしたの? 今夜はもう少し一緒にいられないの?」

 もう少しって言っても、俺にしては結構長い時間ここで過ごした気がするのですが……

 そう思いながら強く掴む彼女の手を優しく解くと、そのまま服を着て単車の鍵を手にする。

 「そうなんだけど……ほら、もう夕飯の時間だからね」

 適当な理由にふて腐れる彼女。そんな彼女の頬に軽くキスをすると、俺はバイバイと手を振って彼女の部屋を後にする。


 いつもの情事の中で聞こえて来た君の言葉……

 どれだけ離れていても、俺の中で君の存在が大きくなっていると言う事を思い知らされた気がして……


 「ホント、ウザイ……」


 ―――――


 「ただいま〜」

 「あら、お帰り。ちょうど、ご飯が出来たところよ」

 玄関の扉を開けると、ちょうど母さんがキッチンから出てきていた。そして、そのままリビングへ行くとチェスをしているK2と兄貴。

 「早くしてよ〜。もう、次からマジで測るからね」

 「ちょっと、待て! お前が早いんだよ〜」

 まったく、チェスではいつも兄貴に勝てないくせに……そうやっていつも勝負を挑むんだから。

 「ほらほら、もうご飯にするわよ。あっ、琉依」

 「ん? なに〜?」

 返事をしては二人のやり取りなど無視して、鍋の中に入っていたおかずに伸ばしていた手を母さんに叩かれる。

 「上にいるなっちゃんを呼んで来て〜」

 「えっ!? ……来てるの?」

 母さんの言葉に表情を一変させて答えた俺の後ろからは、階段を降りる音からこちらに近付いてくる足音も聞こえる。

 「はいっ、アリサちゃん出来たよ〜」

 そう言って母さんに渡したのは何かのノートだった。

 「ありがとう〜なっちゃん。ちょうどご飯が出来たから食べましょう!」

 「は〜い!」

 まるで俺がいることなど構わないといった感じで母さんと話す君。って言うか、何故君がここにいるんだ?


 「マコちゃんのレシピをなっちゃんに聞いてたのよ」

 食事中、母さんがそう言って教えてくれる。確かに真琴さんの料理は美味いからなぁ。特に和食が得意だから、ロンドン(むこう)でも作りたいからと君に聞いたのだとか。

 「でも、母さんの料理も美味いじゃない」

 「フフ、ありがとう。でも、もう少しレパートリーも増やしたいですからね」

 そう言っては視線だけをK2に向ける。あぁ、ホント母さんはK2想いなんだから……。洋食よりも和食が好きなK2のために、ロンドン(むこう)でも色々作れるよう真琴さんのレシピを君から聞いた訳だ。


 「そうだよ〜。アリサちゃんが、教えてって言ったから此処でノートに写していたんだ〜」

 夕食を摂った後、部屋に戻った俺の後をついて来てはそう答える。別にここまで来なくてもいいのに……そう思いながらも、俺はそんな君を拒む事は出来なかった。

 そんな君をよそに、俺は先日届いたカタログを見ていたが君がそれを邪魔する。


 「……何?」

 「するんでしょ?」

 する……はっ、聞き分けのいい子になって。最初の方は自分から言うなんて全く有り得ない事だったのに、こうして自分から誘ってくるのはまた利口になったと言ってもいいのか?

 それとも、何かしらの変化でも起きたのか……

 「まあ、いいか……」

 そう呟いてはゆっくりと君の唇に自分の唇を重ねる。そして、そのままゆっくりと君の身体を倒していく。

 そして、手を君のシャツへと移した時だった……


 「なに……コレ……」


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