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Chain86 君の醜い思惑と俺の心


 様々な出来事が起きた高校を抜け出して、君と一から出発をしようと決めていたのに……

 どうして、君はそんな俺をも否定するのか……




 「琉依! どうした、しっかりしろ!」

 「琉依!」

 朦朧とする意識の中、俺は何とかそれを失わないよう保っていた。そんな俺に必死になって呼びかける渉と梓。

 その時、蓮子がどんな視線を君にぶつけていたのかも知らずに、俺は未だについていた膝を上げる事が出来なかった。

 「琉依!」

 「だ、大丈夫。心配するな、ちょっと眩暈を起こしただけだよ」

 心配そうに見ている梓に、俺はいつもとは違う口調で答える。しかし、誰もそんな変化に気付く事無く俺を支えていた。


 ふと前を見ると、少し離れた先には相変わらず君があの男と談笑していた。

 俺の異変に気付かないほど、君は彼に夢中になっている……幼い頃から一緒に居たのに、こんなにも距離を感じたのは初めてかもしれない。

 そう思うと、再び俺の中で何かが駆け巡り息苦しくなる。

 「か……はっ……」

 どうしても上手く出来ない呼吸に焦ったのか、俺の額からは汗がじわっと出ていた。

 「琉依! 救急車呼ぶか?」

 俺と同じく焦り始めた渉たちは、口々に“救急車”の言葉を発し始める。そんな言葉を微かに聞き取った俺は、渉の腕を掴んでそれを拒む。

 そして、渉の耳元に顔を近づけると

 「頼む……兄貴を呼んでくれ。そ……そして、夏海には気付かれないよう……俺をどこかに運んで……」

 ゆっくりとそう告げると、渉は頷いて俺の片腕を自分の肩に回してゆっくりと立ち上がった。そして、君に気付かれないよう正門を出ては傍にある角で俺を座らせて携帯で兄貴を呼び出す。

 「あっ、ナオト? 俺、渉! えっ? いや、今そんな事言ってる場合じゃなくて……」

 兄貴に連絡している間、俺の傍には梓と蓮子が様子を見てくれているが、ここからでも見える正門を見ても君の姿は現れない。

 いつの間にか消えている俺に気付く事無く、未だにあの男と一緒に笑い合っているのか……


 そんなにも、アイツに夢中になっているのか……?


 「今すぐ、来てくれるって」

 連絡し終わった渉が俺の元に駆け寄って来てはそう告げる。安心した表情を見せる俺だったが、その額からはまだ汗が流れていた。

 そんな時、俺は渉の袖を掴む。そして

 「渉、この事は……」


 ――――――


 ん……


 「琉依!」

 ゆっくりと目を開けると、真っ先に飛び込んできたのはそう呼びかける兄貴の姿だった。そして、そんな兄貴の上には見覚えのある天井。

 あぁ、やっと落ち着ける場所に帰ってくることが出来たのか。見慣れた天井を見て俺は心の中でホッと安心する事が出来た。

 「入学式早々、体調を崩すなんてどうしたんだ? 昨日はちゃんと寝てたよな?」

 あくまで俺の体調に異変が起きているのかと心配する兄貴は、そう問いかける。しかし、昨日の事などまったく関係ない俺の不調……決してその原因を言う訳にはいかない。

 「渉が救急車を呼ばないでやってくれって言ってたけど、病院に行かなくていいのか?」

 「あ、あぁ。大した事じゃないからいいよ。原因は解っているから」

 原因は……未だに残る君の笑顔が離れなかった。

 あの時、俺は自分の決断を心底恨んだ。自分の意思よりも君の傍に居たいという願望を選んでしまったあの時の俺……その罰が今、こうして当たったのだ。


 “聖南学院に行くよね?”


 あの言葉は俺だけのものではなかった……

 君はただ、俺に見せ付けたかっただけなのだ。

 愛する人と一緒の大学で一緒に過ごしているところを、束縛しようとする俺に見せ付けては俺を拒もうとしていたのだ……


 「どうして、気付けなかったのかなぁ」

 「琉依?」

 思わず情けなく呟いた俺を、兄貴は心配そうな表情を浮かべては覗き込んできた。

 幼い頃からの苦い人付き合いのお陰で、人を疑うって事は早くから覚えていたはずなのに……

 大切な君だから、そんな感情を抱かなかったのか? 君は俺を陥れるような事をしないと……

 自分が頼んだ事なら俺は絶対断らないと、君は解っていたんだね。

 そして……


 そんな事をされても、俺が君を責めたりなどしないって事も


 君は勘違いしているのだね……


 「それじゃあ、俺は部屋にいるから。何かあったら呼べよ?」

 俺の頭に手を軽く置いてそう言うと、兄貴は部屋を後にした。

 ベッドの中で天井を見上げたままの俺の脳裏には、あの男に笑顔を見せる君がいた。純粋にあの男を愛する君の笑顔……


 「……傷付けばいいのに」


 思わず出た本音。俺の事をそうやって陥れる君なんて、めちゃくちゃに傷付いてしまえばいい……


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