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Chain85 新たな波乱の幕開け


 嬉しい事、悲しい事、息苦しいと感じた事に苛立った事……

 そして、かつて愛しいと思った貴女。

 高校生活と共に、バイバイ……





 そして、再び桜が舞う頃……


 「次、私の〜!」

 「ちょっと、次は私と撮るのだから〜!」


 そんな女の子たちが争う声が聞こえるのは、聖南学院大学の正門の前だった。

 そして、彼女たちが掴んでいるのは……

 「すいません〜。とっても嬉しいけど、ちょっと痛いなぁ……」

 彼女たちが痛いくらい掴んでいたのは、俺の腕。何故こんな事になったかと言うと……


 ―――――数分前


 「よし! それぞれ入学式も終えたな! これから皆でメシでも食いに行くか!」

 入学式を終えて俺たちは正門の前で待ち合わせをして、渉の音頭でこれからメシでも食べに行こうと門を出ようとした時だった。

 渉は、正門近くに居た同じ新入生の女の子数人を見かけると、何かを思いついたのか妖しい笑みを浮かべるがそれに気付かない俺。

 「おい、琉依」

 渉の呼びかけに、前を歩いていた俺は立ち止まる事無く振り返る。

 「ハイ、何ですか〜?」

 「門のところ、見てみろよ」

 渉の言葉どおり俺は門の方を見ると、そこには女の子が数人。それがどうしたのかと、怪訝そうな表情を渉に返す。すると渉はそんな俺の方にやって来ては、肩に手を置いて

 「あそこにいる女の子たち。お前の事を知っているのかなぁ……知らないだろうなぁ。そんな彼女たちでも、お前はオトす事が出来るかな?」

 出来るかな? 今日から新生活が始まるって言うのに、何が悲しくて初っ端からナンパをしなければならないのか……

 さすがの俺でもそれは気乗りしないと、渉に断ろうと決めるが……

 「いいから、行ってこーい! 大学でもその力を発揮して来い!」


 ドンッ!


 渉はそう叫ぶと豪快に俺を門のほうへと押し出す。そして、その勢いで正門の近くまで来た俺は目の前にいる彼女たちと目が合ってしまった。

 さて、どうしようかと思ったその時……


 「きゃあああぁぁぁっ!」

 「モデルのルイだ〜! えっ、もしかして同じ大学なの?」


 その叫び声を聞いた瞬間、俺は後ろで立っている渉の方を振り返っては睨みつける。そして、渉はそんな俺に対して笑顔で手を振っている。

 「ぁんの野郎……」

 極細声でそう呟くが、すぐに作り笑顔を彼女たちに向ける。

 「こんにちは。君たちも新入生なんだ、これからよろしくね」

 「はい〜!」

 とりあえず挨拶をすると、彼女たちは傍に居るのにもの凄い大きな声で返事をする。

 「それじゃあ……」


 ガシッ!


 そのまま笑顔でその場を去ろうとした時、スーツを掴まれたせいでその場で立ち止まってしまった。

 「ん?」

 振り返ると、掴んでいたのは一人だけではなくそこにいた女の子のほとんどの手が俺のスーツを掴んでいた。そんな彼女たちが見せるのは、何かを言いたげな表情……

 何だか嫌な予感……


 「あのっ、一緒に写真を撮っていただけないでしょうか?」


 ―――――


 そして、今に至る……

 代わる代わる女の子達が俺を引っ張っては一緒に写真を撮る。中にはさっき撮ったのでは……という子までいて、終わりが見えない。

 俺はそんな中、隙を見ては遠くで笑い転げている渉を睨みつける。いくら女の子が好きでも、こうして自分の意思ではない出来事にはホントウンザリしてくる。



 そして、それから解放された時……

 「いや〜、ご苦労ご苦労! お前のモテぶりは、充分分かりましたから!」

 満足そうな笑みを見せてはそう言う渉だが、たまに思い出しては笑っている。そんな渉を俺はさっきから何度も殴っているのだが、渉はそれを治しそうにもない。

 「琉依はモデルだから、ほとんどの女の子は知っているんだから〜」

 そう言って君もまた渉の頭を軽く叩いていた。そんな様子を笑顔を見せて見ている梓と蓮子。

 そう、俺も今朝初めて知ったのだが、蓮子もまた聖南学院へと進学していた。渉の話では彼女は香学館を受けると聞いていたのだけれど……もしかして、その動機は……

 「よし! 今度こそ、メシを食いに行こうか!」

 少しふらつきながら渉がそう言った時だった。


 「夏海!」


 ……えっ?

 背後から聞こえた聞き覚えのある男の声……

 呼ばれた君ではなく、俺がその場で立ち止まってしまう。そんな俺を不審に思う渉たち……そして、君は……

 「賢一!」

 振り返った君が見たのは、俺の思った通りパートナーである高月賢一の姿だった。そんな彼の元に、最高の笑みを見せながら走っていく君……

 そんなシーンは今まで何度か見てきたから別に大した事ではない。ただ、俺がこうして立ち尽くさなければならない理由は別にあった。

 俺達が向かっていたのは正門の方、そして高月が居たのはその正反対の場所。


 何故、お前が敷地内にいる……?


 正門を出ていないここは、まだ聖南学院大学の敷地内だ。無関係な者は此処に居ていい訳が無い。

 では……? では、彼が此処に居る理由は?

 俺の心臓が有り得ないくらい速さで動いている感じがしていた。


 まさか……この男も……


 「なんだ〜? もしかして、夏海の彼氏も同じ大学だったのか?」

 ドクンッ! 代わりに言った渉の言葉で、さらに俺の鼓動が速くなる。

 高月と一緒にいる君の笑顔を見る度に、俺は息苦しくなっていた。気分が悪くなる中、俺の脳裏に浮かんでいたのはかつての君の言葉。


 “どうしても、聖南学院に行きたいんだ”

 “このままだと、充分合格できるって!”

 “琉依も行くよね?”


 ルイモ イクヨネ?


 「あっ!」

 思わずそう叫んだ俺は、そのまま膝を地面についてしまった。

 「琉依?」

 俺の異変に気が付いたのか、渉が俺の元に駆け寄ってくる。

 それに続いて蓮子と梓もやってくるが、少し離れた所にいた君はそんな俺の異変など気付くはずも無い。


 だって君は今、目の前にいる愛しい人物に夢中になっているから……



 こんばんは、山口です。

 この作品を読んで下さりありがとうございます。今回から“聖南学院編”が始まりました。

 思いがけない賢一の登場、そして夏海の思惑にこれから琉依はどうするのか……

 これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

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