表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/185

Chain81 萩原蓮子という女


 蓮子との出会いは、俺にとって当初はいいものでは無かったんだ。




 「あらま……」


 単車を停めて見た先は、ちょうど渉の家から出てきた蓮子チャンの姿。

 そういえば隣同士と言ってたし、お互いがこうして家を行ったり来たりするのもおかしくは無いのだろう。

 蓮子チャンが自分の家に入ったのを確認して、俺はそのまま渉の家の中に単車を置いてインターホンを鳴らす。


 ガチャッ


 「あっ、今度はルイだ。今日は何か兄貴にお客さんが多いなぁ」

 「おっ。瑛、おはようさんって俺の事は琉依サマと呼べと言っているだろ!」

 ドアを開けて俺を中に通してくれる渉の弟であるアキラの頭を叩きながらそう言う。そして、俺は階段を昇って渉の部屋のドアを開けるが……

 「お前……何してんの?」

 その場で立ち尽くす俺の視線の先には、ベッドから落ちて顔面には枕が押し付けられている渉の姿があった。……って、これはもしかしなくても蓮子チャンの仕業?

 「お、おはよ〜琉依」

 「お前の幼馴染みって、結構ワイルドな起こし方をするんだね」

 惨めな格好でベッドから落ちている渉をよそに、俺はジャージが乗せられているソファに座る。そして、起き上がった渉が自分の向かいに座ったのを確認すると

 「渉〜。お前、昨夜蓮子チャンと一緒に帰らなかったでしょ?」

 「何で知ってるの!?」

 ……。否定したり、考えたりする事無く即答する渉に頭を押さえながらも俺は話を続ける。

 「何でって、昨夜ここまで彼女を送ったのは俺ですよ?」

 「んあ? それじゃあ、あれから蓮子が会っていたのはお前だったのか? あれ、違うわ……何言ってるんだ俺」

 未だ寝ぼけている渉は、自分が言ったことに対して一人で突っ込んだりしている。

 「渉〜。昨夜ね、蓮子チャンが一人で公園通りを歩いている所を俺が発見したのですよ」

 「はっ? お前も何でそこに居るんだよ。確か夏海と一緒に帰ったんじゃ……って、あぁアレですか?」

 そういったカンは鋭いのか、渉は何かを悟ったような顔をしては俺に尋ねる。そう、そのアレですよ……そう思いながら俺は苦笑いを渉に見せる。

 「それで? 蓮子は一人でまた泣いていたの?」

 あれ、知ってるの? 意外な渉の反応に、俺の方が驚かされていた。まぁ、幼馴染みだから当たり前なのかもしれないが。

 「まあ、そうだけど……」

 俺の返答に、渉は“やっぱり”といった表情を見せる。そして、しばらくして渉はその重い口を開き始めた。


 「蓮子はお前と同じ事をしているんだ……」

 同じ事というのは、俺が不特定多数の女性と関係を持っているという事か? って事は、彼女は不特定多数の男と関係を持っているわけだ。

 そうなると……あの時は、男と別れた後だったのか?

 「あいつが昔、信じていた人間に手酷く裏切られた事は話したよな?」

 「ああ」

 その話は屋上で聞いた事は覚えているが、詳しい事は聞いていないのでそれがどう関係があるのか分からないが……

 「その信じていた相手というのは、アイツの元カレと親友だったんだ」

 渉の言葉を聞いて大体の予想はつく。大方、その元カレと親友が蓮子チャンに内緒で付き合っていたか関係を持っていたかそんな事だろう。

 「あれからアイツは変わったんだ。それまではとても人懐っこくて素直なヤツだったのに……」

 正反対の人格になった訳だな……。そして渉によると、それ以来彼女は男への復讐を込めて数多の男性と関係を持つようになったそうだ。それも、妻子持ちや彼女持ちといった男性を特に狙って……

 「アイツは、そうする事で信頼関係を確かめようとしていたんだよ。けれど、それは尽く裏切られてしまうけれど」

 俺とは違って、関係を持つのに一応理由を持っているのだな。それにしても、何かあるなと思っていたけれど……

 「ふ……ん……」

 渉には悪いが、俺は初めて出会った時から彼女に対して何か感じるものがあった。それは恋愛の情とかじゃなくて、嫌な感じの方。

 四人で会った時の彼女の俺を見る目……あれは俺に対して何かしらの感情を抱いている目だった。決して自惚れでは無い、今まで関係を持ってきた女性と同じ目をしていたから十分感知できた。

 そして、ふと見てしまった君への視線に気付いた時の彼女の視線。


 さらに、昨日の今日で幼馴染みである渉の自宅に訪ねた彼女……様々な出来事を重ねていくうちに、俺の中ではある結論に繋がった。


 彼女は……いつか君に何かしらの危害を加えるかもしれない……


 「なあ、琉依。そんなヤツだけど、蓮子と仲良くしてやってくれるか?」

 まだ何も解っていない渉は俺の方を見てはそう尋ねてくる。そんな渉を見て俺は笑みを浮かべる。

 「そうだね……お前の大事な幼馴染みだからね」

 俺の返答に渉は安心したのか、笑みを返してくる。しかし、そんな渉とは反対に俺は別の事を思ってそう返事していた。


 親しくして、彼女が君に危害を加えないよう見ておかないといけないから……

 この時は、そんな予感が外れるよう思っていたのだけれど、それはしばらくしない内に砕かれる事となった……



 大好きな夏海の為ならば、カンも冴えるのでしょう……琉依のカンは見事に的中しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ