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Chain77 その笑顔が俺に向けられなくても


 キスして、抱き締めて……


 それが叶わないから俺はまた知らない女性たちと情事を重ねる……



 「琉依! こっちだ!」


 空港を出た俺を迎えたのは、一年半ぶりに再会した暁生さんだった。


 ――――


 一ヶ月前、俺は事務所で芳賀サンからアメリカで“べライラル・デ・コワ”の新店がオープンしたので、そのパーティーに参加するよう言われていた。

 このブランド名を聞くと、俺はすぐにアイツが連想されるからすぐにテンションが下がる。

 確認してみると、やはりアイツも来ると言われたし気分も乗らなかったが、今回は撮影ではなくただのパーティーなので気楽に参加する事にした。


 そこで、アメリカにいる暁生さんに連絡するとやはり君も一緒に連れてくるように言われたが……

 「私は行かないから」

 そう冷たく俺の誘いを断った。

 理由は簡単……ロンドンでの出来事を繰り返さないようにする為だろう。あの時は君には彼が居なかったから俺とあんな事が出来たのだろうけれど、今回はもう君にはあの男が居るからそういった事には触れたくも無いのだろう。

 けれど、それはずるいね。異国の地だからといって君は俺に彼女が居ても普通に俺に抱かれていたくせに、いざ自分の事となると完全にガードを固めてしまう。

 そんな我が侭を俺が許す訳無いでしょ……


 ―――――


 そして、暁生さんがいる駐車場まで行った俺の後ろには君が立っていた。

 「なっちゃん!」

 「パパっ」

 同じく久しぶりに見た我が娘に、暁生さんは嬉しさのあまり周りを気にする事無く抱き締めていた。そんな暁生さんに抱き付く君も、一人の可愛い女の子だった。


 「二人とも元気そうだな! 安心したよ」

 「元気、元気!」

 運転する暁生さんの隣で君は楽しそうに笑顔を見せながら話しているが、暁生さんと対面するまではずっと不機嫌な態度を見せていた。

 俺が無理矢理ここに連れてきたから、そんな態度を取られても仕方がないのだけれど……でも、本当に嫌ならもっと抵抗したはず。

 「暁生さん、アイツはもう来ているの?」

 「ああ。昨日やって来たよ。マコと一緒に観光でもしているんじゃないかな」

 あっ……やっぱり来ているんだ。


 『おおっ! ルイにナツミ、久しぶりだね!』

 『……』

 暁生さんの家に入った瞬間、俺の視界に映ったのはアイツことリカルド=テイラー。リカルドは俺の姿を見るなり、そう叫んでは強烈なハグをしてきた。

 『ヤ・メ・ロ!』

 必死に抵抗してリカルドから離れると、すぐに家の中へと入って行く。そんな俺が去った所では今度は君がリカルドにハグされていた。


 初めてやって来た暁生さんの家は、仕事が忙しい暁生さんがゆっくり休めるようにと落ち着いた雰囲気に包まれていて、真琴さんの気配りが全てに行き届いていた。

 どことなく懐かしい感じ……ああ、此処はお祖父様の家の雰囲気と似ているのだ。

 俺が居心地がいいと思った……まだ自分に素直でいられたあの時に過ごしたお祖父様の家に。

 「どう? アンタなら気付くと思ったけど、似ているでしょ?」

 「真琴さん」

 ふと懐かしさに溺れていた俺の後ろから声を掛けてきたのは、暁生さんと同じく久しぶりに会った真琴さんだった。

 真琴さんは優しく微笑むと、俺の肩に手を置いて辺りを見回しながら

 「暁生がね、お祖父様の家と同じ様な感じにしたかったのですって。ほら、日本にいた時はいつでもお祖父様の家にも行けたけど、ここにいたらそれも叶わないでしょ?」

 俺と同じくらい……いや、それ以上に暁生さんもお祖父様のあの家が好きだったのだ。この家を見ていたらそれがよく解る。

 「ママっ」

 「なっちゃん、久しぶりね」

 ふとその時、リカルドと一緒に君がリビングにやって来ては真琴さんに飛びついていた。リカルドはそんな君から離れると、俺を部屋へと案内する。

 『此処がルイの部屋ですよ〜』

 そう言われて通された部屋は……って

 『ち、ちょっとこの部屋ってまさか……』

 『うん! 見たとおりデスヨ』

 デスヨって……。思わずめまいを覚えた俺が見たものは、既に誰かが使用しているといった部屋の中。ベッドが二つあって、その片方には見覚えのある荷物が乱雑に置かれていてクローゼットにも見覚えのある服が数着……


 『暁生さん! なんでこんなにも部屋があるのに、俺とリカルドが一つの部屋を使わないといけないんだよ!』

 部屋を飛び出して暁生さんたちがいるリビングへと飛び込んでそう尋ねる。この広い家にはたくさんのゲストルームがあるのに、どうして俺が一つの部屋でリカルドと仲良く寝ないといけないのか……。

 『リックがね、琉依と一緒の部屋で過ごしたいと言ってきたんだよ』

 ……俺は過ごしたくない。

 一人でゆっくりと過ごしたいと思っていたのに、どうしてよりにもよってこんな喧しいリカルドと数日間一つ屋根の下で過ごさないといけないのか。


 『まあまあ! 俺と友情を育もうではないか!』

 友よ! そう言われて俺は再び問題多々の部屋へと引きずられていく。そんな時、ふと見えた君はご両親と久しぶりに会えたからか、とてもいい笑顔を見せていた。


 それが例え俺に向けられていなくても、君のその笑顔が見れただけでいい……



 こんばんは、山口です。この作品を読んで下さり、ありがとうございます。今回から三話ほど“アメリカ編”を展開していきたいと思います。

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