表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/185

Chain76 再び始まる一期一会


 俺の中に潜む嫉妬……


 それは確実に俺の心を蝕んでいく……





 そして、再び春が来る……


 「おめでとうございます! 見事二年連続同じクラス!」


 クラス編成表を目の前にして朝から大声で叫ぶ渉の拍手の前に、俺と君は唖然としながらも編成表を眺めていた。


 “一番 宇佐美琉依”

 “二十七番 槻岡夏海”


 この文字は確かに同じ紙の中で並んでいた。

 この現実を見ると、どうやら俺はまだ君の傍に居る事を許されていると実感できる。忌々しいあの男が卒業という形でやっと俺の目の前から消えたのだ。これで君は此処では俺のモノ……

 しかし、ふと隣を見た時の君の表情は、動揺を隠せないのかそのまま立ち尽くしていた。そんな君の心情を解っているのに、それでも俺の悪意は尽きる事を知らないのか君の傍へ近付く。そして……

 「また、俺たち同じクラスだね。これも俺たちの絆とも言えるのかな?」

 「や……めて。渉や梓に見られる!」

 声を掛けた後、君の首筋にキスを降らせると君はそう言って俺から離れる。そんなに気にしなくても、君の愛しい男はもう此処には居ないのに。

 今日からは此処でも君を俺だけのものになるのだから……

 「お〜い。琉依に夏海、何してるんだよ!」

 少し離れた所から梓と一緒にいる渉が声を掛けてくる。そんな渉の方を振り返ると、

 「ん? 夏海といちゃついていたのです〜」

 そう言って君の方に手を回す俺を見て渉は苦笑いを見せる。

 「コラコラ! 夏海には大学生の彼氏が居るんだから、お前も意地悪な事をするなよ〜!」

 そんな渉の言葉に俺は頷きながらも、頭の中ではそんな事無視していた。そんな俺に君はきつく睨むと、

 「渉と梓の前ではこんな事しないで。アンタとの事は遊びにもならない事なんだから」

 そう吐き捨てて梓の元へと走り去ってしまう。


 「あっ、宇佐美クンだ〜」

 「おはよう、ルイ! また同じクラスだよ〜」

 一人残された俺の元に、その話の内容からすると二年の時に同じクラスだった女の子が数人で声を掛けてきた。

 ボーっと立っていた俺の両腕に自分たちの腕を絡めると、そのまま引っ張って教室へと向かおうとする。

 「おっ、さすがは琉依! 朝から人気だな〜オイッ!」

 そんな俺を渉はのん気に笑いながら手を振って見送る。その傍では同じ様に笑っている梓と、決して俺の方を見ようとしない君……

 そんな君から目を逸らす事が出来ず、俺は君の姿が見えなくなるまでそのまま君の方へと視線を固めていた。


 こんなにも君の事を想っているのに、どうしてその気持ちが上手く伝わらないのだろう……

 こんなにも君の事を見ているのに、どうして君は俺の方を見てくれないのだろう……

 行き場の無いこの気持ちが、とても……辛い



 そして、夜は再びやって来る……


 今夜も聞こえてくるあの男の自動車音。いくらアイツが大学へ行っても、夜になるとこうして君の元へと会いに来るのだ。

 どんなに耳を塞いでも、俺の自宅の前をあの男の車が通っていく音は消えやしない。そして、少ししてから聞こえる君の笑い声。


 その数時間後には俺の腕の中にいるのに、それまでの数時間が俺にとっては苦痛としか思えなかった。

 君が愛しい男と一緒に居る間、どうして俺はここでじっと君の帰りを待っていなければならないのだろう……

 自分勝手だと思われてもいい……俺の傍には常に君がいて当たり前の事だと、俺の中では定着していた。

 俺が感じていた君との絆……けれど、君はアイツと新たな絆を作ろうとしているの?

 広く感じる部屋にたった一人で居るのは辛い……

 だから、俺は自然とその場を離れて夜の街へと繰り出すのだ。


 「あっ、あれモデルのルイじゃない?」

 「ホントだ! 声掛けてみる?」

 道行く中、見知らぬ女性に声を掛けられるものの、それを断りながら俺はあても無く歩き続ける。どこかへ寄る訳でもなく、ただ道があるならそこを歩くだけ。


 『琉依!』


 ふと君の俺を呼ぶ声が聞こえた気がして、来た方を振り返るがもちろんそこには君の姿は無い。それでも俺は、見知らぬ人間たちによって賑やかな道の中を必死になって君の姿を探す。

 もちろん、そんな事をしても君の姿などあるはずも無く、俺はただその場で立ち尽くしていた。


 会いたい……


 こんなにも切に思っているのに、君はあの男と会っている。

 自分の愚かな判断が起こした結果……それでも俺は自分を見てくれなくなった君を憎いとさえ感じていた。

 「ねえ」

 ふと、すぐ傍で自分に掛けてきたであろう声に振り返る。そこに居たのは、綾子サンよりもやや年上っぽい女性だった。時間と彼女の様子から声を掛けてきた動機は大体の予想がつく。

 それなのに、その時の俺は拒む事無くその場で彼女の相手をする事にした。

 「コンバンワ」

 笑顔で挨拶すると彼女はそれを“OK”のサインと感じたのか、俺の腕に触れ始めた。そんな彼女の腕を俺は自分の腕に絡ませると、そのまま歩き始める。


 君が居ない寂しさから、俺は再び情事の一期一会を始めていった……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ