Chain75 確実に蝕んでいく嫉妬
俺の歪んだ愛情……
君の心を手に入れる事が出来なくても、傍に居る事は許して……
どんなに目を逸らしていても、俺の心の底にある嫉妬はどんどん開花していく……
あれから、君は何事も無かったかのように俺に接している。俺が君にした事も無かったかのように……
「来たよ〜」
と、家に来ては以前と同じ様に関係を持ったり。本当はあの男に罪悪感を抱いているくせに、俺の為にと我慢しているに違いない。そんな君の気持ちに気付いているくせに、俺はそんな君を解放してあげる事ができないんだ。解放なんかしてしまったら、もう何をしてしまうか分からないから。
そんな関係を続けてから数ヶ月経った一月……
「ねぇ、聞いてる?」
考え事をしていた俺の額を、君は持っていたペンで軽く突いた。そういえば、進路について君と図書館で相談していたんだっけ。
「二人とも聖南学院に行ける学力は十分にあるだって! どうする? もちろん受けるよね?」
これまでと変わらない屈託の無い笑顔で話す君。何か引っかかる気持ちもあるが、その時の俺は本当に嬉しかった。あんな事があったのに、それでも俺は君の傍にいる事を許されていたのだから。
「そうですね、何なら賭けてみようか? お互い聖南学院一本で勝負する?」
「わおっ。これは気を引き締めて頑張らないといけないな〜」
聖南学院大学はこの辺では一番の大学であり、一宮高校からでも合格できる生徒数はそう多くは無かった。しかし、先日受けた模試の結果では俺も君も一応合格範囲内には入っていた。
適当に志望校の中に入れたが、高校で終わりじゃない……大学でもさらに四年間君を見守れる事が出来るんだ。そう思うと、自然と笑みが零れてくる。
「渉や梓も聖南学院を受けるって聞いたよ」
「マジで? いいじゃん!」
俺も安心したよ。例え違う学部を受験するとしても、近くに君とは違う別の人間にいて欲しかったから。そうじゃないと、俺はまた枷が外れてしまって何をするか分からないからね。
日に日に俺の心の中では暗い嫉妬という闇が蝕んでいく……。君の傍にいても、君と何度寝ても俺は君の向こうにいるあの男を見てしまうから。君にとって俺は、あの男の影のような物でしか無い。俺と君とではお互いを想う心が違いすぎるんだ。
それでも俺は君の傍から離れられないんだ。お祖父様に君を守ると約束したというのもあるけれど、離れてしまったら本当に終わってしまうから。
今の俺は、君が離れてしまったら本当にどうしたらいいか解らなくなっていた。こんな気持ちは、綾子サンと付き合っていた時には感じる事が無かったのに……
綾子サンの時は俺が彼女を悲しませていたけれど、今度は俺が苦しくなっている。けれど、それでも俺は今の状態を止める事など出来ないのだ。
―――――
「そうか〜。お前もなっちゃんも聖南を受けるのか〜」
久しぶりに“NRN”に立ち寄って兄貴から出された夕食を食べる。今夜は君が高月と出かけるからと、帰宅するのが遅いからこうして俺は兄貴の店に来ていた。
「でも、聖南は結構レベルが高いからな〜余裕かましてないでちゃんと勉強しろよ?」
そう言っている兄貴も実は聖南学院の大学生だった。同じ一宮高校の特進科をトップの成績で入学して、そのまま三年間トップを維持したまま聖南学院大学の国際学部へと進学した。
まぁ、そこでもトップの成績を保持する彼だからこそこうして店を開く事も出来るのだな。
そして、俺も君も兄貴と同じ国際学部へ受験する予定だ。まぁ、もともと俺はせっかく積み重ねてきた英語力を生かしたいと思っていたから国際学部が有名な大学ならどこでもいいと思っていた。
そんなところへ君から聖南学院を一緒に受けようと誘われたので、俺も承諾した。
「あ〜あ、結局俺は兄貴の後を追いかけてるようなモンだよな」
「おーおー、どこまででも追いかけてきなさい。トイレ以外なら」
笑いながら店の準備をする兄貴は、目の前に居る我が弟の変化に気付いているのだろうか? 自分の弟が大切な幼馴染みを犯しては今でも束縛しているという事を、きっと思いもしないだろうな。
いつの時か俺が君を見捨てて綾子サンを選んだ時、兄貴に殴られた時から俺が君を大切にしていると思い込んでいるのだろう。
そんな残酷な事など……思いつくはず無い……
兄貴の店を出て家へ向かう。今日は家に帰っても君は居ない。誰も居ない家に居ると、今頃君はあの男と一緒に居るのか……キスして、その腕に抱かれているのかとどす黒い嫉妬が蝕んでくる。
「お帰り〜」
そんな俺の予想を裏切るように、君は俺の部屋でいつものように待っていた。驚く俺の表情を見て、君は笑顔を見せると
「賢一がね、あまり遅くなると家の人が心配するからって。家の人なんか、とうの昔にアメリカに行っているっていうのにね〜」
それでも紳士的な人〜っと惚気ながら話す君。それはあの男は俺なんかとは根本的から違うんだと言いたげな感じとも取れる。
そんな惚気ている君を俺はすぐに抱き締める。明らかに君のものではない、恐らくあの男の香りが鼻を擽る。
俺ではない、他の男に抱かれた跡を消すように俺はそのまま君を抱いた。かつてセフレ契約をしていた頃のように優しいモノではなく、完全に嫉妬に駆られて貪る様なモノだった。