Chain7 別々に歩み始めた新生活で
あの時の俺は、今よりももっと不器用だった。だから、君との距離をさらに広げてしまったのかもしれない……
桜が満開の春――
「ほら〜、琉依になっちゃん! ちゃんと並んで!」
中学校の入学式。俺と君の両親はわざわざ休みを取ってこうして揃って参加していた。そして、校門の前で俺と君を並ばせては写真を撮ろうとする暁生さん。
手を繋いで仲良く笑顔ではい、チーズ! 昔の俺と君ならそうしていたかもしれないけれど、今の俺たちにはそれはもう叶わない事だよ。
―――
「もう、俺に構わないで……」
『えっ? どうしたの?』
わかるよ、そんな返事しか出来ないのも。もし俺が逆の立場なら同じ様な返事しか出来ていなかったと思う。
『ねぇ、何かあったの? 構うなってどういう事?』
「……悪い」
『ちょっ……琉……』
ピッ
その電話を切る音と共に、俺と君の関係も崩れてしまった……
―――
「ほら! 早く撮らないと、お前たち入学式から遅刻するよ〜」
そんな事情も知らない両親たちは何かと俺たちをせかしてくる。さて、どうしたものか……そう思っていた時だった。
「もう、ちゃんと撮ってよ!」
「……!」
俺の手を握る君の手。いつの間にか近くで並んでいる君の横顔は以前の笑顔だった。そして暁生さんのリクエストに応えては、ピースとポーズをとっていた。
「なっちゃん、いい感じ! ほら、琉依も!」
暁生さんの催促で我に返った俺を、君は両親たちには気付かれないよう足でつついてくる。そんな君に対して、俺はその手を握り返すと
「オトコマエに撮って下さい! はい、ピース!」
開いている右手でピースサインを作って前に突き出しては、暁生さんのカメラに向かって笑顔を見せる。それを確認した君もまたカメラの方へと向き直って笑顔を見せていた。
「OK! やれば出来るじゃないの! ほら、さっさと教室に行ってきな!」
K2はそう言って俺たちを送り出した。一度両親たちに振り向いて手を振ると、それから俺たちは再び距離を置き始めた。
別々にクラス編成表を見て別々に教室へと向かった俺たちだったのに、偶然というのは残酷と言うか俺が入った教室には君の姿があった。
「同じクラスなんだ……」
「ホント、偶然だね〜」
俺の言葉に明るく答える君だったけれど、一度も俺の顔を見ることは無かった。無理も無い、こうなる事を招いたのは俺の方なんだから。
「あの、なつ……」
「お〜! ここか、今日から始まる中学校生活を送る教室は!」
俺が言いかけたのと同時に、教室へ入ってきた男子生徒が大きな第一声を放っていた。そんな彼に既にいたクラスメートは笑っていて、ふと気付くと君もまた呆気に取られながらも笑っていた。そんな君に気付いた彼はこちらへ近付いてくると、君の手をとって握手をし出した。
「一番近くにいた人とまずは仲良くする! これが俺が決めていた事だ!」
そう言いながら君の手を握りながらブンブンと振る彼に、君もまた笑顔で握り返していた。
「それは、友達を作るのにいい事だわ。私は槻岡夏海、よろしくね」
「夏海ちゃんか、俺は一ノ瀬渉。よろしく!」
お互い自己紹介をして握っていた手を離すと、今度は俺の手を握ってくる彼は同じように挨拶してきた。
「一ノ瀬渉。よろしくな!」
「……あ、あぁ。俺は宇佐美琉依、よろしく」
笑いながら明るく挨拶してきた少年、それが俺達と渉との出会いの始まりだった。
『それでは新入生代表、宇佐美琉依』
「はい」
教頭に呼ばれて椅子から立ち上がると、そのまま壇上へと上がって新入生代表として挨拶を述べる。入学式の数日前に学校側から連絡があったと思えば、こんな面倒な事を依頼された。
こんな事をしたら後々面倒なのに、それでも一応引き受けてしまった俺はこうして新入生と教師など大勢の前で文を読み上げていく。
ふと、視線を自分のクラスの方へと移すと、君は俺の方など見ないでずっと俯いてばかりいた。そんな君から再び前方に視線を戻すと、挨拶を終えて一礼をする。
「新入生代表って、お前凄いなぁ」
入学式を終えて教室に戻った俺を渉はまじまじと見ながら声を掛けてきた。“一ノ瀬”と“宇佐美”なので、出席番号も前後と並んでいた為自然と俺と渉は話をするようになっていた。
「そんな事ないよ。すっげぇ緊張したし!」
笑いながら答える俺に、渉は嘘つけと頭を軽く叩いてくる。
伊織と別々の中学になって寂しいと思っていたが、渉のお陰でなんとか上手くやっていけそうな気がしていた。
「ところでさ、さっき一緒に居た槻岡さん? 彼女とは友達とか?」
渉の質問に、俺は少し首を横に振ると
「ただの幼馴染みだよ……」
そう、ただの幼馴染み。せっかくお互い新たな学生生活を送るのだから、もうお互いの心配などするのは止めて自由に生きよう。
君も俺を心配する必要はないし、俺も君の事をどうこう構うつもりも無い。その方がかえっていいのかもしれない。これまで俺たちは一緒に居すぎたんだ……。だから、周りのことがちゃんと見えてなかったのかもしれない。
これで……お互い自由になれる。
けれど、そんな俺の想いが後に君を傷つけてしまうきっかけに繋がってしまうなんて、この時の俺は思いもしなかったんだ。
渉です。初登場からバカまっしぐらです! 少し二人の関係が危うくなっているので、少し明るいバカを投入してみました。