Chain74 それでも君は去っていく
俺という籠から抜け出そうとする君……
そんな君を放したくない俺は今、この手を伸ばす……束縛したいという俺の欲望に任せて、今夜今までで最高の夜にしよう……
“お願い……やめて”
何度この言葉を聞いてきただろうか。今までなら、君の希望は聞いてきたけれどこればかりは叶えてあげる事は出来なかった。
抵抗をすればするほど、俺は君をめちゃくちゃにしたくなり何度も何度も君の心を引き裂いていった。そして、やがて抵抗する気力を無くして、泣いて許しを請う君の姿にも決して心が揺るぐ事もないまま。
ベッドで横たわる君をよそに、俺は傍に脱ぎ捨てていたシャツを拾って着始めた。ふと目をやると、乱れたベッドの上でどこを見ているか分からない君の瞳からはまだ涙が流れていた。
そんな姿を見ても俺の心の中には、罪悪感など生じていなかった。むしろこれで良かったと思っている。これで君はあいつじゃなくて、俺の元へ戻ってきてくれるから。他の男に抱かれたのに、今までと変わらずあいつと付き合えるほど君は器用じゃない。純粋な君だからこそ、あいつと付き合う前に俺との関係を解消したのだから。
「明日、迎えに来るから」
そう言って君の方を見ても、返事する事も無くただ涙を流していた。そんな君を置いて、俺は部屋を後にする。
ずっと一緒にいた幼馴染みに、こんな事をされるとは思いもしなかっただろう。ひどい奴だと思ってくれてもいい。我ながら自分勝手な奴だと思っているよ、ホント。今まではウザイとすら思っていた君が違う男のモノになった途端、傍に置いておきたいと思うようになったのだから。
「これで、本当に嫌われたかも……」
少し苦笑いしながら、君の家を出た。けれど、これで君がアイツと別れて俺の元に帰って来てくれるならそれでもいい。君が傍にいてくれるなら……
「別に、心はいらない……」
翌朝、少し早いが身支度をして家を出て君の家へと向かう為ドアを開けると、そこには君が立っていた。その瞳は、まだ少し赤く腫れていた。
「夏海から迎えに来てくれるなんて、珍しいね」
「……」
俺が話しかけても、君はただ無言のまま門へと歩いていく。君とこうして通学するのは久しぶりだった。
「彼は? 電話して断ったの?」
俺の問いに君はただ頷いていただけだった。話すのも嫌……か。でも、それでもいいか。そこまで俺は欲張らない、君が以前と同じように俺の傍にいればいいだけだから。
「おはよ〜って珍しいね、琉依と夏海が一緒に登校するなんて」
校門の近くで会った渉に声を掛けられた。いつも通りの俺とは違って、隣では暗い表情をしている君がいる。そんな君を隠すようにして、渉と話しながら校舎へと入っていった。
「じゃあ、帰りも一緒だからね」
教室の前に着いた時にそう言う俺に向かって鋭く睨んでくる君。それでもやはり俺は嬉しくなってしまうんだ。どれだけ抗う態度を見せても、君自身は俺の傍にいるのだから。そして、睨んでいても君の瞳の先に映っているのは俺なのだから。
「どうして、こんな事するの?」
やっと話してくれたかと思ったら、そんな愚問。言っても無駄だと思うのに、こんな俺の我が侭な行為などどうしたら理解できようか? 誰にも出来ないに決まっている。こんな事をしている俺自身でさえも理解できていないのに。
「そんな事、答える必要の無い事だよ」
冷たく突き放すと、そのまま自分の席へと歩き始める。これでいいんだ、中途半端よりも完璧に嫌われた方がいい。そうすれば、俺もまたもっと君を束縛する事が出来るから。傷付けて傷付けて、二度と周りなんて見られなくしてやる。
ところが……俺のシナリオは突然、意外な展開を迎えてしまった。
その夜、君は俺の部屋にやって来た。それも俺が呼び出したからだったが、部屋に入ってきた時の君の表情は学校にいた時の暗いものではなく、以前と同じ明るく愛らしいものだった。昨日の今日の事なのに、何故そんな事が出来るのか……そう思っているのを察したのか君は笑みを見せる。
「どうしたの? そんなに意外だった?」
「……別に」
嘘だ。思いきり動揺しているのに、それを隠すのに精一杯だった。そんな俺を見透かしているのか、君は鼻で笑っていた。
「昨日は驚いただけというか、ショックだった。私たちの関係を解消した矢先にあんな事するなんて。あんたの考えている事が分からなくなったの」
だから、幼馴染みに犯された事など理解しようとしなくてもいいのに。ただ、俺の傍にいるだけでいいのだから。
「アンタが何をしたいのか分からないけど、私は賢一と別れるつもりはないから。あんたがどれだけ私を抱いても、私の心は全て賢一だけのものだから」
何て言った? 別れない? 賢一のもの?
前向きともとれる意外な君の言葉に対して俺はただ呆然と立ち尽くしてしまった。いらない、いらないと思っていた君の心を、密かに欲していた俺の気持ちをいとも簡単に否定した君の一言は突き刺さったように痛い。どれだけ傷付けても君はアイツの元から離れるつもりは無いというのか。
「それでもいいなら……ほら、何度でも抱けば? いっそのこと関係を修復する?」
完全に立場が逆転した君は俺を見上げる。その瞳からは揺ぎ無い決意が込められている。そう、どれだけ求めても君は去っていくんだね。君のことだから、俺と寝ていても君はずっとアイツの事を考えているんだ。
「上等だよ……」
そう言って君の腕を掴んで乱暴に押し倒すと、そのまま君の上に覆いかぶさる。君がそう言うなら、もうこだわらない事にするよ。君が自分から戻って来るまで、こうして俺はじわじわと君の心を陵辱していこう……
けれど、こうする事で傍にいる事だけは許して……
毎日更新を目指していたのに、昨日は投稿出来なくてすいませんでした!