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Chain67 俺の心を歪ませる君の変化


 徐々に目立ってきた君の変化……




 「あっ……痛っ」

 「ほら、動かないでよ」


 そうは言っても、何か痛いのですが……。この人、こんなにも下手だったっけ?

 「……っつ、やっぱり痛いって」

 「お願い、動かないでちょうだい。アタシに任せて……ね?」

 ね? って、そんな事言われても……痛いのは痛いのですが。その痛みに耐え切れず思わず動いてしまった。すると……


 「動くなって言ってるだろうが! 何度言えばわかるんだよ!」


 このボケッ! そう叫ぶのは、久しぶりに俺の家にやって来た伊織。今日伊織がやって来たのは、自分がデザインして作った服を俺に着せるためだったが、どうもサイズが合っていなかったのでこうして直しているのだが……

 どうもさっきから針が刺さっているようで気になる。何かチクチク痛いから動くのに、それを伊織は制してくる。

 「やっぱり針が刺さっているって。だからちょっと見てよ」

 我慢が出来なくなってきた俺は、少しずつ体を捩じらせるが伊織は裾直し等に夢中になっていた。それでも小さな痛みに我慢できなくなった俺は、伊織の手を振り除けて服を脱ぎだす。

 「まあっ! 何て事をするの!」

 伊織の絶叫など無視して脱いだ服を投げつけると、俺は足を伊織に投げ出して

 「ホラ! ここ、やっぱり刺さってたじゃん」

 「あら……」

 微かに血が滲んでいた俺の足を指すと、伊織は少し驚いたような顔をしてじーっと眺めていた。

 「ごめんなさいねぇ。アタシったら、つい力が入りすぎちゃって」

 女の子みたいに可愛く謝ると、伊織は再び裾直しに取り掛かった。


 最近、ご両親からの反対がかなり酷くなってきた伊織は、自宅で服を作る事も容易にならなくなってきていた。自分の跡を継ぐようにと、学校から帰って来てはすぐに稽古が待っている。もちろん休日に至っては、一日中厳しい稽古が待っているらしい。

 そんな訳で、伊織は万が一の事を考えてしばらくは服作りも控えており、これまで作った服は俺の家で預かっていた。

 『だって、アタシが反抗した所為で親が服を捨てるかもしれないからね』

 恐らく、伊織のご両親もデザイナーを目指すと言う伊織の言葉を最初は冗談だと思っていたのだろう。しかし、それが本気ともなるとやはり焦っているのだろうか、だんだんと厳しくなっていた。

 「でも、この服はまだ中途半端だったからちゃんと最後まで作らないとね」

 八割方出来ている服を寂しそうな表情を見せながら、伊織は着々と作業を進めていた。

 「いつか……ご両親にも解ってもらえるといいな」

 「そうね。でもきっと、そんな時が来るのはだいぶ先の話でしょうけれど……」

 そう言いながら、限られた時間の中で伊織は服を完成へと近づけていった。



 「それが、この服なんだね〜」

 帰った伊織と入れ違いでやって来た君が、先ほど仕上がった新作の服を見ていた。仕上がりやデザインをK2にも見てもらいたいからと、伊織はそれも置いていった。まったく、K2が帰ってくるのはまだ先の話なのに。

 「そろそろ私の服も作って欲しいなぁ。いつも琉依ばかりだもん」

 テーブルに置いていたコーヒーを飲みながら、君は寛いでいた。伊織の服をクローゼットに戻すと、俺は君の隣に座る。

 「ねえ、そろそろ梓にしか言わなかった君の悩みを教えてくれる?」

 「何? まだ気にしているの?」

 気にしていると言うか、あれから君のボーっとする回数はさらに増えていたからなぁ。それに家に帰ってくる時間も以前に比べると遅くなっているし……。

 また、前みたいに何かあってからでは遅いのだから。今度こそ暁生さんたちに何て言ったらいいか分からないし。

 「なーつーみー?」

 何も言おうとしない君に痺れを切らして顔を覗き込むと、君はそんな俺の顔を見て笑みを浮かべると

 「だーめ、言わない。言ったら、琉依が寂しがるから」

 君の悩みの原因が俺を寂しがる事に繋がる? 何を訳のわからない事を言っているのか……唖然としながら君の頭を軽くポンポンと叩くと

 「いいから、言いなさい。どこか体調でも悪いの? それとも寂しいの?」

 思い当たる事を次々と尋ねてみるが、どれも君は首を横に振って否定している。それなら、一体何が……そう思っていたときだった。


 「……!」

 突然、君が俺の方を見たと思えばそのまま抱きついてくる。君のほうからこんな事をするなんて……やはり何かあるに違いないと思った俺はそんな君の背に腕を回すと

 「ほら、やっぱり何かあるんじゃないか。どうした?」

 そう聞いても君はただ俺から離れないで黙っていた。そして、ゆっくりと離れて俺の頬に手を当てるとそのまま唇を重ねてきた。

 「……っん」

 しばらくして君は唇を離すと、笑みを浮かべて

 「あと……何回かな?」

 「はっ?」

 あと何回……そんな意味不明な事だけを言ったまま、君は再び黙ってしまった。一体何があと何回なのか?

 「なつっ……」

 「また、今度言うから。それまで待ってて?」

 開きかけた俺の口をそっと指で押さえると、君はそう言って再びキスを降らせてくる。改まって言わなくてもいいのにと思ったが、俺はそれよりも今の心地よい感触に身を委ねる事にした。


 もし、その時に知っていたら……俺はもっと早くに君を放さなかったのに……



 久しぶりに伊織を登場させてみました。この辺りは暗くなる内容が増えるので、ちょっと明るくしてくれるキャラを投入……。

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