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Chain6 鳥籠から解放させてしまった



 今思うと、本当はその寝顔さえも愛しいと思っていたのかもしれない……






 初めてのショーから二年、俺は今年で最後となる小学生生活を送っていた。


 「えっ、伊織私立受けるの?」

 「そうなんだ。親がうるさくてさ〜」

 給食を食べながら隣の出来でもある伊織と話しをしていた俺は、伊織の進路にただ驚きを隠せなかった。中学校も一緒だと思っていたのに、俺は公立の中学で伊織は私立の中学と別々の進路に寂しさを覚えた。

 「でもまぁ、別に友達やめる訳じゃないからたまには遊びに来いよ!」

 「あぁ、ありがとう」

 伊織の明るく言うその言葉に、俺は何だか複雑な気持ちを隠して答えた。

 友達は別に伊織一人しかいない訳じゃなかった。むしろありがたい事に、俺にはたくさんの友人がいた。それなのに、俺の事をちゃんと分かってくれているだろうなと思えたのは伊織しかいなかった。そんな伊織と中学では今のように馬鹿みたいに遊べないと思うと、やはり寂しくもなる。

 「別にいいじゃん? 夏海は一緒の中学なんだろ?」

 「……あぁ」

 何がいいんだか。別にいい事なんて何一つある訳じゃないし……そう思いながら無愛想な返事を返した。

 年を重ねるに連れて、俺は退屈しのぎで始めたモデルの仕事が楽しくなっていくと共に仕事も増えてきていた。そしてその結果、俺は君と過ごす時間を徐々に失って行きその距離も遠くなっていた。

 いつの時には君を大切にしたいと感じ、そして君を守りたいとも思っていたあの感情も消えていき、今ではすっかり恋愛感情とは無縁の関係になっていた。それだけならまだマシだけど、もっとややこしい感情を抱き始めていた。それは……

 「る〜い! 昨日の“ノックス”録画した〜?」

 給食を食べ終えた君が俺と伊織のもとへとやって来ては、いつものように話しかけてくる。

 「……いや」

 「そっか、じゃあ仕方ないか〜」

 そう言って君は立ち上がると、そのまま他の友人の所へ行って同じ事を聞いている。そんな君を見てはため息をつく俺をおかしいと思ったのか、伊織は肩を叩いて声を掛けてくる。

 「お前、だんだん夏海への態度が悪くなってね?」

 伊織の言うことは正しかった。確かに俺は君への態度をワザと悪くさせていた。それは、君の事を何だか鬱陶しく思えて仕方が無かったから。君と俺の距離が昔よりも遠くなってしまった理由を、君は俺の仕事が忙しくなったからと思っているかもしれない。けれど、本当は違うんだ。本当は俺が君の事が鬱陶しくて、理由は分からないけれど何だかそう思ってしまったからそれで拒絶さえしてしまうようになったんだ。

 全然、君は悪くない。けれどそれでも俺は自分は悪くない、君の所為にして距離を置いたんだ。今でもそれは分からない、何故だか君の存在がこの時は鬱陶しかった。


 かつては大切に大切にして、まるで鳥籠の中の小鳥のように大切にしてきた君を俺は鳥籠から出して自由にしたんだ。自由にした小鳥には、もう何の愛着もわかない。ただ勝手に自由に飛び回るがいい……そう勝手に思っていた。



 「琉依? どうした、調子でも悪いのか?」

 学校帰りに寄ったスタジオでは“K2”ジュニアコレクションの新作撮影が行われており、新作を身に纏った俺を暁生さんが撮影していた。けれど、考え事をしていたのがばれたのか暁生さんにその事を指摘される。

 「ごめん、ちょっとボーっとしていた」

 「……よし、十分休憩!」

 そんな俺を撮る価値はないのか、暁生さんは休憩のコールを入れるとそのままタバコを吸う為外へと出て行った。俺はそんな暁生さんの後を追うように、スタジオを後にした。

 「ごめん、暁生さん。ちょっと考え事していた」

 タバコを吸う暁生さんの横でそう言うと、煙を吐き出した暁生さんは俺の頭に軽く手を置いた。

 「いいか、琉依。お前もプロなら、仕事中はどんなに悩んでいてもそれをレンズの前に曝け出すものではないんだ」

 「うん……」

 仕事をしている時は、友人の子供やガキ扱いは一切しない。この時ばかりは暁生さんは俺の事を対等に扱ってくる。それは俺にプロとしての自覚を養わせる為の暁生さんの思いだった。だから、悪いところも中途半端ではなく思い切り叱ってくる。

 「俺は遊びで撮っているんじゃないんだ。K2の作品を着るお前をどう撮ればその作品の良さが伝わるか、そう考えながら俺はお前にレンズを向けているんだ。それなのに、そのお前がそんな顔をしていたら、K2の作品に泥を塗るようなものだ」

 「……」

 暁生さんの厳しい言葉の一つ一つが俺の心を突き刺していく。悩み一つに構ってばかりいる場合じゃないんだ。いくら子供だからといって済む事ではない、この仕事は子供も大人も関係ない。暁生さんの言っていることはどれをとっても間違ってはいないのだ。

 「これまでの事を反省して、それから取り組む事だな」

 「ごめん、意識が足りてなかったみたい。しっかりやり直すよ」

 暁生さんの言葉でもう一度自分を見直した俺に、暁生さんはそんな俺の背中を軽く叩くとそのままスタジオへと一緒に戻った。


 その日の撮影は、何かをふっ切れた事によって成功を収めた。大丈夫、もうプロとしての意識を傾けたりはしない。その為には捨てなければいけない事だって……

 「もしもし、なっちゃん?」

 『琉依? どうしたの? 珍しいね、電話をかけてくるなんて』


 俺はもうプロとして仕事に専念しないといけないんだ……


 『琉依?』

 「もう、俺には構わないで……」


 捨てなければならない事……分かって?


 そして、籠の中は空っぽになってしまった……



 こんにちは、山口です。

 今回で一応“小学生”編は終わりです。伊織はこの時は普通の男の子と一緒で、まったくおねぇ言葉とは無縁でした! そして、そんな彼(彼女?)もここで一旦引っ込んで、次回からはあのメンバーが登場します!

 人一倍大人びた性格をした琉依の暗くなりつつある夏海との関係。これから楽しみにして頂けると嬉しいです。

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