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Chain65 そしていつもの日常へと戻り


 俺がこうして寂しいと思う時も君は傍に居てくれた。何も聞かずにただ傍に居る……それが君の優しさだから。そんな君だから、これからもずっと傍に居ると思っていたんだ……



 翌朝、床で豪快に寝ている渉と俺のベッドで眠る君を置いて、俺は登校したのだけれど……


 「やっぱり……休めば良かったなぁ」

 二日酔いでガンガンする頭を押さえながら、俺は自分の席に座っているとクラスメイトの女の子たちが寄ってきては

 「宇佐美クーン、どうしたの?」

 「体調悪いの〜?」

 口々に声を掛けてくる。朝からその甲高い声で話しかけられると、頭に響いて目も瞑りたくなる。しかし、それを我慢して俺は彼女達に笑みを見せると

 「うん、ちょっとしんどいかな〜。何なら癒してくれる?」

 「きゃあああぁぁぁっ!」

 適当に並べただけの言葉なのに、それでも歓声をあげて騒ぐ彼女たちはそのまま舞い上がったままどこかへ行ってしまった。

 そんな彼女たちの後姿を見届けた後、俺は再び頭を押さえてため息をつくと

 「あ〜、やっぱり休めば良かった」

 自宅で寝ている渉と君が羨ましく思うが、それでも俺が痛む頭を我慢して登校しているのは仕事で休みがちになってヤバイ登校日数を少しでも稼ぐため。それと……


 「おっ、綾子センセイだ〜!」

 窓際に居た男子生徒が下を見て言った言葉に、思わず過剰反応してしまう。

 「やっぱり、綺麗だよな〜」

 「彼氏いるんだろうな〜」

 そんな彼らの会話は、聞くつもりが無くても自然と耳の中へと入ってくる。

 そうか……綾子サン来てるんだ。そりゃそうだよな、教師なのだから恋人と別れたからって学校を休む訳にはいかない。だから俺も登校しないわけにはいかないのだ。

 「あっ、気付いた! 綾子センセイおはよ〜!」

 気付いて手を振っているのか、彼らは綾子サンに手を振って挨拶している。いつもなら、すぐに降りて行ってさりげなく挨拶していたけれど、今はこうして俺は椅子に座ったまま呆然としている。


 それから何時間か授業を受けていたが、二日酔いと昨日の事による頭痛が治まる事無くそれどころか気分も悪くなってきた。

 「おい、宇佐美。何だか顔色が悪いぞ」

 「えっ?」

 英語の授業中、担任でもある鳴神センセイがボーっとしていた俺の傍までやって来て顔を覗き込んでいた。あぁ、そういえば体もだるいな……

 「ほら、保健室行って休んで来い」

 保健室? それは無理に決まっているだろ。今一番避けたい場所なのに……そんな俺の心情など解るわけ無く、センセイは俺の腕を掴んで引き上げた。

 「いや、大丈夫だっ……」


 グラッ


 「宇佐美っ!」

 目の前が真っ暗になったと思えば、センセイの俺を呼ぶ声が最後に聞こえるとそのまま俺は意識を失くしてしまった。


 ――――


 「……っん」


 うっすらと目を開けると、その先に映ったのは見覚えのある天井。そして自分が横たわっているのは、覚えのある感触。何度も何度もここで……

 「気が付いた?」

 ビクッ

 カーテンを開ける音と一緒に聞こえて来た声に思わず過敏に反応して顔を上げると、そこには心配そうに俺に視線を向ける綾子サンの姿があった。

 綾子サンはこちらに入ってくると再びカーテンを閉めるので密室になる。そして俺の方へやって来て傍にある椅子に座ると、俺の額に手を当てて

 「うん、熱は無いようね」

 そう言って綾子サンは俺の顔色も確認していた。

 「授業中に倒れて、鳴神先生に運ばれてきたのよ」

 あぁ、そうだ。確か意識を無くして倒れたんだっけか……。それで俺は仕方なく此処へ来る羽目になったんだな。

 「ごめん、世話を掛けました」

 「あっ、コラ! まだ寝てなさい!」

 ベッドから抜け出ようとした俺を、綾子サンは慌てて制した。そしてそのまま俺を無理矢理ベッドに押し倒すと、上から布団を掛けてくる。

 「もう大丈夫だって……」

 「ダメよ、まだそんなに顔色も良くなっていないのだから。それに……」

 それに? 綾子サンは少し表情を暗くさせると

 「それに、そうなったのは私の所為でもあるのでしょう?」

 「なっ……」

 誰の所為だって? 彼女は俺のこの状態も自分の所為にしているのか? 俺は驚いて初めて綾子サンの顔をまともに見たが、よく見ると彼女の顔色もそんなに良くは無かったし瞳も微かに腫れていた。

 昨夜……泣きはらしたのだろうか、目元はとても痛々しく感じた。

 「違う、違うよ。昨日は、あれから渉と夏海が家に来ててそれで遅くまで飲んでいたから……って、しまった。先生の前でこんな事言うなんて。いや、そうじゃなくて……」

 元カノとはいえ教師の前で飲酒したなんて、何を言っているんだこの口は。いや、もう何を言っているのか分からないくらい俺自身もパニくっていた。ただ、綾子サンの所為じゃないと言いたいだけなのに……


 「クスッ」


 えっ? パニくっていた俺だが、確かに聞こえた笑い声。ゆっくりと綾子サンの方を見ると、口に手を軽く当てて笑っている綾子サンがいた。……て言うか、笑っている?

 「えっ? どうしたの?」

 「フフッ、ごめんなさい。一生懸命言っているのに、何だかそれがおかしくなっちゃって」

 クスクスと笑っている綾子サンの笑顔……あぁ、これを俺はずっと見たかったんだ。綾子サンは俺の方を見ると

 「私ね、今日学校に貴方が来ているって分かって安心した。もしかしたら私の所為で休んでしまうんじゃないかって心配していたの」

 「そんな事しないよ。綾子サンだってこうして学校に来てるんだから」

 慌てて言う俺に、綾子サンは再び笑みを浮かべる。

 「私ならもう大丈夫よ。昨日の今日だけど、昨夜のうちにふっ切れてきたから」

 そう言っても完全に忘れた訳じゃないけれどね……そう少し寂しげに笑う綾子サン。ふっ切れたという彼女の言葉は信じてもいいのだろうか、また無理をしてはいないだろうか。

 綾子サンは俺の両手を握ると

 「今まで本当にありがとう。沖縄で出会った頃から昨日までの事、私いい思い出にするから……だから琉依クンも、もう私の事なんか気にしないでちゃんと前を見てね」

 「綾子サン……」

 そんな彼女の手が離れた瞬間、俺は綾子サンの腕を掴んで自分の方へ引き寄せると

 「俺こそありがとう。こんな形で終わったけれど、俺本当に綾子サンの事大好きだから」

 綾子サンを抱き締めながら言うと、俺の背に手を回して

 「私も大好きよ。嫌いになる訳無いじゃない」

 ポンポンと俺の背を叩くと、ゆっくりと離れる。そしてその場から立ち上がると


 「それじゃあ、もう少し休んでなさいね。“宇佐美クン”」

 「は〜い、“川島先生”」


 お互いを呼ぶ名が変わった時、それは完全に俺たちの関係が終わったという事の証だった……




 綾子サン編はこれで完全に終わりました。これからとうとう琉依が本格的に狂い始めていきます。

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