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Chain64 そんな俺を解ってくれる君


 貴女に出会えて本当に良かったと俺は思っている。貴女と出会えた事で、俺は人を愛すると言う事を知ることが出来たから。貴女にはたくさん与えてもらったのに、俺が最終的に貴女に与えたのは……寂しさだけだった。

 こんな形で終わったけど、どうかその笑顔だけは忘れないで……





 「それじゃあ……」

 「うん……」


 お互い必要以上の言葉を発する事無く、俺は愛しい人の部屋を後にした。二人の間を遮断するドアが完全に閉まった直後

 「……っ」

 声を出しながら泣き崩れる綾子サンの微かな声がドア越しに聞こえて来た。本当ならそのドアを開けて抱き締めたいのに、もうそれも叶わなくなっていた。

 此処に来る事は二度と無い……そう思いながら俺はマンションの外まで思い足取りで進んでいく。


 愛しい人とこんな別れ方になるなんて思いもしなかった俺の心は、大きな穴が開いた感じがして虚しさだけがそこを通っていた。桜の時とは違って本気で愛した人だったから、悲しみは残るけれどそれでも俺はこれ以上彼女を傷つける訳にはいかなかった。


 ――――


 「……?」


 自宅に着いて玄関を開けると、そこには見慣れた靴が並んでいる。一体どうして……そう思いながら部屋に入ると

 「お帰り〜!」

 「やっと帰ってきたか!」

 ドアを開けた俺を待っていたのは、テーブルに酒やら軽食など並べて座っていた君と渉だった。

 「って、これは何事?」

 とりあえず基本的なことを君に尋ねると、君は渉の方を見て

 「さっきね、渉から言われたのですよ。琉依が落ち込んでいるから一緒に励まそうって事になったのです」

 「そう言う事です!」

 君が言った事に頷く渉。あぁそうか、あの時の俺の様子で渉にはもう今日の事が解っていたのだな。俺がもう……別れを決意していたという事を。

 さすが長い付き合いだけあって俺の事をよく知ってくれている。俺が渉の事を知っている以上に、渉は俺の事を解っている。だからこんな事もすぐに出来るのだ。

 「今日はナオトも帰らないとリサーチ済みだから、じゃんじゃん飲み明かそうぜ! 朝まで飲みまくるんだ!」

 「明日、学校……」

 「休む!」

 渉の提案に口を挟んだが、二人によってそれは却下された。そして強引にグラスを渡されると、すぐに渉から酒を勢い良く注がれる。

 「飲め! 飲んで前へ進むんだ!」

 たっぷりと注がれた酒を飲むように勧めると、渉は再び注ぐ準備をしている。グラスに向けられた視線を二人に移すと、二人は早く飲むよう促す。

 やっぱり俺には支えてくれている人がいるんだな……そう思って口元に笑みを浮かべると

 「ちぇっ、どうせなら梓に慰めて欲しかったな〜」

 「何だと! この野郎!」

 「どの口がそんな事を言うんだ!」

 全く思ってもいない事を零すと、二人は笑いながら俺に殴りかかるフリをしてくる。そんな二人を見ていると、自然と笑みも零れる。そして相変わらず飲むように促す二人の前で、注がれた酒を飲み干すと

 「渉、夏海……ありがと」

 そう呟いて二人を見たが、渉は頭を軽く掻くと

 「な、何を思ってもいない事を言うんだよ! 気持ち悪いじゃねぇか!」

 そう言って空になったグラスに再び酒を淹れてくる。そんな渉の隣では、君が穏やかな笑みを見せている。


 何も言わない君……でも、それが君の優しさという事くらい解っている。


 「よーし! 今夜はじゃんじゃん飲むぞ〜っ!」

 渉はそう言うと、自分のグラスにも酒をなみなみと淹れては次々と飲み干していった。


 ――――


 「……で、誰が朝まで飲むって?」


 呆れながら言う君と俺が見下ろす先には、酔いつぶれて眠っている渉の姿だった。空っぽになったビンを片手で抱いて足を広げて眠る渉は、まさに酔っ払いのオヤジと何ら変わりは無かった。

 「俺を酔わす前に、自分が潰れてるなんて自滅だよ」

 「やっぱりコイツはバカだったね」

 そう言いながら君は俺のベッドに乗せていたタオルケットを取ると、気持ち良さそうに寝ている渉に掛けてやる。

 「こんなバカだけど、アンタが帰った後にね私の所へ来てこの事を提案してくれたのもこの渉なんだよね」

 きっと俺が落ち込んで帰ってくるだろうからって……そう話しながら君はグラスに残っていた酒を飲んでいた。

 「夏海は何も聞かないね」

 必要以上の事を話さない君に、俺はそう呟く。ちゃんと別れられたのかとか、彼女はどう言っていたとか……そんな質問が来る事も結構覚悟していたのに、それでも君も渉も一言もそんな事を聞いては来なかった。

 「聞いて欲しかったの? そんな筈無いよね」

 君は苦笑いを見せては俺の隣へと場所を移動してきた。


 

 「綾子サン……泣いていたんだ……」

 「うん」

 「俺、最後まで彼女の事を泣かせてしまった……」

 この手で守って大切にしたい……そう思っているのに、どうしても俺は反対の事ばかりしてしまう。彼女の笑顔よりも今は、彼女の泣き顔の方が心から離れない。

 どんなに彼女の笑顔を思い出そうとしても、浮かんでくるのは無理に作った笑みだけ。

 「でも、琉依も泣いていたんだよね」

 「えっ?」

 俯いていた顔を上げると、君が優しい笑みを見せて俺を見ている。そして俺の頬に触れると

 「ほら、泣いている……」

 俺の頬から離れた君の指には、俺の涙が付いていた。いつの間にか流していた涙……君は俺を自分の方へ引き寄せると

 「琉依は本当に川島センセイを愛しているんだね」

 そう言って俺の頭を撫でていた。俺は君に体を預けて、流れる涙を堪える事無く流していた。


 俺を癒してくれる二人の人物……どうか彼女にもそんな人物が居てくれますように……



 親友である琉依を励ます夏海と渉ですが、未成年の飲酒はいけません!

 しかも、またここでバカキャラ3号(渉)が誕生しているし(汗)ちなみに1号はK2で2号はリカルドす。

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