Chain00 ロンドンにて……4
涙を見せるのは……俺の前では意味の無い事なんだよ?
『嫌いにならないで』
『他の人の所へ行かないで……』
――――――
「……夢か……」
目を微かに開けてそう呟く俺の部屋のカーテンからは朝日の光が零れていた。
いつもと起きる時間は同じなのに、何だか身体がだるくて起き上がる気力すら無い。だるい……と言うよりも、何だか熱い……
もしかして、これは……
『風邪ですね』
『やっぱり?』
しばらくしても起きない俺の様子を見に来たリカルドの一言に、俺は苦笑いを見せながら答える。すると、リカルドはクローゼットから俺のシャツを取り出すと、俺に向けて投げてよこす。
『汗で気持ち悪いだろ? 早く着替えて寝てろ』
『リカルドが優しいなんて気持ち悪い……』
身体は弱っても口はまだ丈夫な俺の文句に、リカルドは傍にあったタオルを投げつけるとそのまま部屋を後にした。
彼の事だ、おそらく俺が口にしやすい物でも作ってくれるのだろう。なんだかんだ言って、兄貴みたいな面もあるからな。
タオルで身体を拭いてから、シャツを着て再びベッドに潜る。身体中が熱でだるい中、目を瞑ると浮かんでくるのはさっきの言葉……
『嫌いにならないで』
『他の人の所へ行かないで……』
かつて俺が愛した女性の、俺の腕を掴んで必死に懇願したあの言葉。付き合い始めた時はクールな大人の女性でいつも俺を引っ張っていたのに、時が経つにつれ俺の所為でそこまで変えてしまった。
二度と忘れる事の出来ない、あの絶望を感じた瞳……俺の中では今でもそれが鮮明に残っている。
「あの時は、本当に俺も未熟だったよな……って、今でもそんなに変わらないか?」
シーツに包まってブツブツと呟いていると、再び瞼が重くなってくる。
そして、再び俺の意識は過去へと遡っていくのだった……