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Chain58 近付きつつある何か



 ロンドンでの撮影を終えて帰国した俺を待っていたのは、綾子サンとそして君との通常の関係だった。





 

 ―――四月


 「ほら、やっぱりな! こうでないといけないよな〜」

 新学期、二年になった俺たちがクラス編成表を見ていた時に渉が得意気に話す。そんな渉の隣には梓も自分のクラスを確認していた。

 「梓ぁ〜! 今年も違うクラスになってしまったね!」

 「きゃあぁぁぁぁっ!」

 そんな渉を押しのけて梓に抱きつくと、新学期早々から梓の悲鳴が響き渡っていた。そして、お決まりで悲鳴をあげる梓を君が俺から引き離して渉が俺の頭を殴る。

 「お前な〜、もともと学科が違うからクラスが違うのも当たり前だろ?」

 確かにそうだけれど、だからと言ってそんなにも強く殴る事無いのに……。梓は梓で君の後ろに隠れて二次災害を避けているようだし。


 「それじゃあ、また後でね!」

 お互いそれぞれの教室へ行く為に廊下で別れるが、君と俺は同じ国際学科だから同じ校舎だから一緒に行くが……

 「それにしても、やっぱり同じになったねぇ」

 君の言うとおり、今年は俺と君は同じ八組になった。クラス編成表を見た時、少し驚きはしたがそれでも以前ほど嫌気とかは感じる事は無かった。

 「出席番号順だから、席はだいぶ離れているけどね」

 「いや、アンタは滅多な事が無い限り一番か二番くらいだし……私は後ろの方だよ」

 そう、俺は一年の時も二年でも出席番号は一番だった。「宇佐美」だから、まあ仕方が無いのだけれど……。

 「一番だと、横や後ろからの視線を感じるでしょ?」

 「そうなんですよ。もう女の子たちの視線が痛くて痛くて〜」

 嫌味っぽく言った君の一言にノリ気味に答えるが、そんな俺を君はフンッと鼻で笑っていた。

 「そんな事言って、川島センセイが居るくせに」

 「まぁ、そうだけどね」

 照れがちに笑う俺に、君は強めに肩を叩いては一緒に笑う。そして、今年は二人一緒に同じ教室に入るが……


 「宇佐美クン〜! おはよ〜!」

 「二年でも同じクラスになれて嬉しい!」


 初めて見る子や一年の時に同じクラスだった女の子に腕を引っ張られながら声を掛けられる。その強引さに愛想笑いも上手く出来ていない俺を、離れた君が笑いながら手を振っていた。


 ――――


 「高校入学した時は早々に留年の危機に遭っていたのでしょ? よかったわね、無事に二年になる事が出来て」

 始業式も終わり生徒もほとんどが帰宅している放課後、俺はやはり綾子サンのいる保健室へと移動していた。

 そこで綾子サンは、備品を整理しながら笑って話しかけてくる。

 「そうそう、仕事しているからね。きっと今年もまた課題がたくさん待っていると思うけれど……」

 そんな綾子サンの手伝いをしながら俺も答える。さすがに始業式終えてもここに居るのは不自然だから、俺は手伝いと言う口実を作って綾子サンとのひと時を過ごしていた。

 「って言うか、早速ショーが三つも控えているから……また休みがちになるだろうなぁ」

 「じゃあ、今年こそ留年決定ね」

 ファイルを俺の手に乗せて意地悪な笑みを見せる綾子サンに、俺は苦笑いを見せながら受け取ったファイルを片付けていく。

 留年か……それならもう一年、綾子サンと一緒にいられるからそれもいいかもしれないなぁ。そう考えながら少し笑みを見せると

 「ハイハイ、何を考えているかお見通しですよ」

 綾子サンはそんな俺の頭を書類の束で叩くと、今度はその書類をファイルに閉じるよう指示してきた。面倒な作業も、綾子サンと二人でいられるなら……そんな嬉しい表情を隠せないまま俺はこうして今日も彼女と過ごした。


 ―――――


 「ただいま〜って……ん!」


 夕方になって帰宅して玄関の扉を開けた途端、とてつもない焦げ臭い匂いが家中を充満させていた。そして、微かに見えるのはキッチンからの白い煙。

 「なっ、一体何事……って」

 急いでキッチンの方へ行くと、そこには白い煙をかなり発生させているフライパンと傍で呆然と座っている君の姿だった。何か考え事しているのか、自分の周りに起きていることに気付いていない。

 「夏海! 夏海!」

 「えっ? って……何、この匂い!」

 数回した俺の呼びかけでやっと我に返った君は、まだ状況を把握できずにとりあえずその一言を発する。そして、後ろにある変わり果てたフライパンを見た途端

 「やだ! ハンバーグ焼いていたんだ!」

 火を消して換気扇を回す俺の横に来て、フライパンを覗き込むきみだったが……

 「へぇ……コレ、ハンバーグなの?」

 フライパンの中には、ハンバーグとは言えない炭に近い物体が異臭を発しながら存在していた。そして、君は苦笑いを見せながら何度も俺に謝っている。


 ドジな君……でも、滅多に見せないこんな所を、この時の俺は何も不思議に思う事は無かった……



 こんにちは、山口です。この作品を読んで下さり、本当に有難うございます。今回からやっと高校二年生に入りました。この時が、琉依にとって忘れられない出来事がたくさん続く時です。

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