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Chain5 手にした成功がきっかけで


 八歳で大人の社会へと飛び出した俺は、世の中の大人の醜い部分まで見る事となってしまった。

 それでも、俺は始めたばかりのモデルを辞める訳にはいかなかった……





 それから約一年後、俺は必死に行ったレッスンが実って無事にモデルとしてデビューする事が出来た。そして、その年に発表されたK2キッズコレクションのショーでも俺はモデルとして華々しく公式の場に出ることとなったのだ。


 “K2ジュニア、宇佐美琉依デビュー”と言う見出しで雑誌に取り上げられたりもしたが、それでも徐々に俺の事を一人のモデルとして認めてくれる大人も少しずつ現れ始めていた。たかが子供のショーで大人のものに比べると、注目度も低いがそれでも俺は将来の為にと一つ一つ細かいところまで必死に努めていた。

 そして、その頃から覚え始めた事もあった。それは……

 「やあっ! 宇佐美琉依君だね! 君の事はよく雑誌で拝見しているよ。さすがはあのK2の息子さんだね」

 舞台の裏で休んでいた俺に声を掛けてきたのは、名も知らない会社の社長さんだとか。きっとこの男も俺に取り入って、K2と契約を結ぼうとしているであろう馬鹿な大人の一人なんだな。

 「いやいや、君みたいな子が将来のモデルのトップに立つべき男なんだな」

 よくもまぁ、そんな思ってもいない事をペラペラと口にすることが出来るもんだなと感心してしまう。聞いてる俺としては本当ならば、今すぐにでもこの場から去ってしまい所なんだが……

 「ありがとうございます。父の名に恥じないよう、これからも努力は惜しまないつもりです。未熟者ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します」

 「あっ、そうかね? こちらこそよろしく頼むよ」

 深々と頭を下げては丁寧な挨拶をする俺に気を良くした単純な男は、こうして機嫌を良くしてはワハハと笑いながら俺の肩を叩く。これでいい、こうする事で単純な男共はご機嫌のままいなくなってしまうから。もし嫌味を返してしまうと、俺ではなくてK2の立場を悪くするだけだから。難しい大人の付き合いに、幼いながらも何とか上手く対処をしていたものだ。


 デビューとなったK2のショーは見事に成功して、無事に終える事が出来た。最後にデザイナーの登場の際、K2は俺ではなく別のモデルの子と手を繋いで登場した。俺は後ろで拍手をしながらK2の背中を見ながら歩いていた。

 そんなK2に、周囲の人間は驚いていたかもしれない。我が子のデビューなのに自分の子ではなく、別のモデルを連れているK2に対して疑問の言葉もかけられてはいたが俺はその時からそんな理由はちゃんと知っていた。

 それはK2自身がこのショーは息子のデビューの場ではなく、“K2キッズコレクション”のデビューのものだと認識しているから。そして、こういう公式の場までK2は俺を一番に扱うことはしない。きちんと俺よりも先輩のモデルを立てる事くらいはわきまえている。それがプロなのだから……。


 一応、舞台の上ではこうして立派に務めているのに、これが舞台から降りてしまうと大変なことになるんだ。



 「ルーイー! もう最高! かなり見惚れましたよ!」

 「ギャアッ!」

 仕事関係の打ち上げを終えた後に行われた宇佐美家と槻岡家だけの打ち上げの場で、K2はそう叫びながら俺に飛びついてきた。さっきまでのクールなK2なんか遠いところに行ってしまい、今ではこうして誰もが知っているいつも通りのバカなK2に戻っては俺を抱き締めてくる。

 こんな奴の事を少しでも考えていた俺がホント馬鹿らしくなってしまう。

 「ほお、これはなかなかの男前に写っているじゃないか」

 暁生さんが撮った写真を眺めては、お祖父様が褒めちぎってくる。俺の希望で、打ち上げはお祖父様の家で行われている。それはショーを観に来れなかったお祖父様と一緒に打ち上げを楽しみたかったから。

 「うん、これはそこに飾っておこうかの〜」

 そう言うと、お祖父様は大きめの写真を額に入れて暁生さんに渡して壁に飾ってもらっていた。これだけではない、お祖父様の家の壁や棚の上には君や俺、そして兄貴の写真も綺麗に額に入れて飾られていた。


 “ワシ一人の家だと寂しいからの、こうしておけば賑やかなものじゃ”


 いつの日かそう言ったお祖父様の言葉どおり、この家中はとても賑やかな雰囲気を出していた。自分の孫だけではなく、俺や兄貴までもこうして大事にしてくれるお祖父様。本当はショーにも来て欲しかったなぁ。

 「あれ? なっちゃん、もう寝たの?」

 「もうって、子供にとったらもう夜中なんだから当たり前よ」

 兄貴の言葉に、そう答える母さんの膝の上には君が心地良さそうに眠っていた。真琴さんは仕事の電話がかかりっぱなしで対応に追われているし、暁生さんはというとK2と飲んでいるしで君の寝床は母さんの膝の上となっていた。

 まだまだ甘えん坊だった君は、自分のベッドか誰かのぬくもりがないと眠れなかったっけ。そんな君の寝床争奪として、よくK2と暁生さんが争っていたような……。

 「可愛いなぁ、なっちゃんは。ね、琉依」

 「……そうだね」

 素っ気無い返事に苦笑いする兄貴は、シャワーを浴びたいとそのままバスルームへと去って行った。残された俺は、母さんに甘えて眠る君の寝顔をただじっと眺めていた。


 今思うと、本当はその寝顔さえも愛しいと思っていたのかもしれない……




 こんにちは! この作品を読んで頂きありがとうございます! 今のところは、まだK2やお祖父様のお陰でドロドロとしたシーンとは無縁になっているこの作品ですが、成長していくにつれその芽が見えてきます。


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