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Chain56 聖なる夜は君と共に



 たまに送るメールで、貴女の心に住む不安は取り除く事は出来ましたか?





 『それじゃあ、お疲れ様!』


 ロンドンに来て数日経ち、明日にはクリスマスも控えていた。そんな今日も撮影を終えて、自宅まで向かっていた訳だが……

 『やっぱり、親にプレゼントくらい買った方がいいのかな……』

 毎年クリスマスになると、何となくの理由から両親にクリスマスプレゼントを買っていた。それは一緒に過ごさなくてもしてきたから、一緒に過ごす今年はやはり用意した方がいいよな。

 そう思いながら俺は、目に付いた店から順々とプレゼント選びを始める。


 『……って事は、やはり買った方がいいのかな……』


 君にも。この間の俺の誕生日も君は祝ってくれたから、やはり買うべきだよな。別に家族でも彼女でも無いからその必要は無いのだけれど、これもまた何となくの理由で俺は君へのプレゼントも選び始めた。


 ――――


 「乾杯!」


 クリスマスの夜、自宅で俺たちはグラスを当てていた。そしてK2と母さんは傍に置いていた二つの包みを俺と君に差し出した。

 「メリークリスマス! 琉依になっちゃん」

 笑顔で言う母さんに俺は笑みを返して包みを開けると、中には腕時計が入っていた。このデザインからして、きっと母さんが選んだに違いない。K2は自分のブランド以外になると、思わず疑いたくなるようなセンスの持ち主だからな……。

 君の方を見ると、“べライラル・デ・コワ”のバッグだった。それを嬉しそうに持ってはK2や母さんに見せていた。

 「ありがと〜! でも、私からもあるのです!」

 「あ、俺も」

 君に便乗するように言うと、それぞれK2と母さんに用意したプレゼントを渡す。母さんは笑顔で、K2は……涙を流しながら包みを開ける。

 「まあっ! 琉依からは靴で、なっちゃんからは服だわ」

 「俺はね〜、ルイからは腕時計でなっちゃんからは財布ですよ!」

 二人の感激する声に、俺はもちろん君も嬉しそうに見ていた。そして、それから俺たちは食事を始めては会話をしながら楽しいひと時を過ごした。



 「あ〜、お腹いっぱいだね」

 「待ってて、今コーヒー入れるから」

 食事を終えてしばらくしてもこの満腹感が収まらない俺は、ソファに座って君が入れるコーヒーを待っていた。

 K2と母さんはと言うと、聖なる夜だからと言って夫婦水入らずでいい歳をしてデートに繰り出してしまった。

 「はい、お待たせしました〜」

 コーヒーを差し出すと、君は俺の隣りに座ってはコーヒーに口をつけていた。二人だけの家、テレビも音楽も流れていないこの部屋はとても静かで時計の秒針の音だけが響いていた。

 「あっ、そうだ!」

 そんな静けさを破った君は、そう言って立ち上がると部屋に戻っていった。……と思えば再びこちらへやって来て、手にしていた物を俺に渡す。

 「……?」

 「いいから、開けて!」

 怪訝に思っていた俺に君はそう言って促してくる。言われたとおり開けると、ペンダントが入っていた。

 「あっ……」

 思わず声を漏らした俺に、君はそれを取ると俺の首に掛けてくれる。そして笑みを見せると、

 「うん、やっぱり似合うね」

 そう言う君に、俺は後ろに隠し持っていた包みを君に差し出した。突然の事に驚く君だったけれど、それを手にすると

 「ありがとう」

 丁寧に包みを開ける君だったが、中身を見ると大きく目を開かせていた。

 「えっ……」

 君が驚くのも無理は無い。俺はそれを手に取ると、君がしたように俺もそれを君につけてあげた。

 君が買ったのと同じ……シルバーペンダントを。

 「嘘……偶然?」

 「そう。偶然だよ」

 自分の首元に光るペンダントを手にしながら、君は信じられないといった顔をしていたから俺は自分の首元に光るペンダントを見せてそう囁いた。

 それぞれシルバーのプレートに輝いているのは、俺はブルートルマリンで君はピンクトルマリン。石まで同じものとは思わなかったので、俺も君も驚いては顔を見合って笑っていた。

 「嬉しい。実はね、私も欲しいって思ってたから……」

 ホント……信じられないくらい偶然だね。俺はペンダントを見ては笑みを浮かべる君に、そう思いながら笑みを見せた。そして……


 「メリークリスマス、夏海」

 「メリークリスマス、琉依」


 聖なる夜の雰囲気に任せて、俺と君はお互い唇を重ねた。

 遠い日本で一人で過ごしているであろう綾子サンの事は、この時は少しも脳裏に浮かんでは来なかった。

 かつては、綾子サンがいるのに君を求めた事を軽蔑の眼差しで見ていた君も、ムードに流されてしまっているのかちっとも制しようとする気配が無かった。

 そう……それでいいんだ。何かが歪みかけているこの感情に、君も一緒に流されていればいい。大丈夫……それでも俺たちの間には余計な感情など生じる事は無いのだから。


 お互いが求めたい時にだけ求め合えばいい。俺の感触を君は忘れられないだろうし、俺もまた君がくれる快楽とぬくもりに抗う事は出来ないのだから……


 だから、俺たちは今日もこうして本能に任せて一夜を過ごすのだ……

 それが例え、常識の枠からはずれていようと……


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