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Chain55 そのライバル、バカでもプロにつき



 ロンドンに着いた俺、何かが起こりそうな予感がする……





 『ルイです。よろしくお願いします』

 『リカルドです。よろしく』


 ロンドンに来て翌日から俺の仕事は始まった。のんびりと観光をしに来た訳じゃない、俺には長期の撮影が待っている。

 そして、撮影初日にリカルドと一緒にスタジオに来てスタッフと挨拶を交わす。

 『リカルドは何度か会っているけれど、ルイは初めてだね。でも、活躍はこちらにも届いているよ』

 “べライラル・デ・コワ”の担当のジョンが握手を交わした後に話しかけてきた言葉に、俺は笑みを浮かべて軽く頭を下げた。


 ――――


 『それじゃあ、まずはリカルドから入って』


 撮影が始まり、まずはリカルド個人の撮影が入る。俺はカメラマンの傍でその様子を見ていたのだが、次々と自分のポーズを披露していくリカルドは俺が知っているバカさなど一切感じさせない“プロ”を見せ付けていた。

 織り成すスタイル一つ一つが完璧なのか、カメラマンを始めスタッフからは一切の文句も出なかった。

 自分が着用している“べライラル・デ・コワ”の良さを引き立てるようなスタイルに、周りの誰もが圧倒されていた。

 『OK! それじゃあ、チェックするから五分後にルイ入って』

 『ハイっ』

 一切のダメ出しも無いから、リカルドの撮影は異常に早く終了してしまい予定よりも早く自分の出番が回ってきた。

 そんな俺の元に、撮影を終えたリカルドがやって来る。

 『お疲れ……』

 『おう! どうだ、久しぶりに見た俺の撮影シーンは』

 そう言ってミネラルウォーターを豪快に飲むリカルドを見て、俺は何回か頷きながら

 『うん、流石はプロだわ。アンタの凄さを思い知らされましたよ』

 『エッ……?』


 あまりにもあっさりと彼の力を認めたからなのか、リカルドは意外な俺の言葉に固まっていた。そして、熱でもあるのかと俺の額に手を当ててくる。その仕草って、ロンドンでもしているの?

 『どうした? いつもなら“大した事無い”とか言ってくるくせに……』

 いやいや、俺だって凄いと思ったらちゃんと正直に言いますよ。そんないつまでもガキじゃないんだから……。

 『それじゃあ、ルイ!』

 『ハイ!』

 しばらくしてからカメラマンが声を掛けてきたので、半端な終わり方ではあるが俺はその場から去っていった。


 初めてカメラの前に立った時のように、俺は緊張していた。日本では結構撮影はしてきたが、海外で全く知らないスタッフに囲まれていると自然と握っていた拳からも汗がにじんできてしまう。

 一度深呼吸をして再びレンズを見つめる。


 「……っ。……っ」


 スタッフにも傍で見ているリカルドにも聞こえないくらいの極細声で俺は呟くと、集中力を高めて撮影に取り組んだ。

 『うん、いいねぇ』

 カメラマンの言葉に気を取られる事無く、次々とポーズを変えてはカメラに視線を移す。個人の撮影はそんなに無いのだが、この数分が俺にとってはもの凄く長く感じた。


 『はい、OK! それじゃあ、ペア撮影までしばらく休憩!』

 カメラマンのOKサインが出て、俺はやっと解放感からどっと力が抜けた。そんな俺の元に軽く手を叩きながらリカルドが近付いてきた。

 『お疲れ。どうでしたか?』

 『別に……』

 素っ気無く返事をする俺に、リカルドは少し笑みを見せるとすぐに再び俺に声を掛ける。

 『そういえば、さっき小声で何て呟いてたの? 何か日本語ぽかったから解らなくて』

 ……どうして聞こえているんだよ。かなりの極細声で呟いたのに、もの凄い聴力だな……。リカルドにそう感心しながらも、俺は自分の口に指を当てると

 『秘密!』

 あぁ? と言うリカルドをよそに、俺は笑みを見せながらスタジオを後にした。


 “俺は世界一……俺は世界一……”


 「なんて事、言えるわけねぇじゃん……」

 空を見上げて呟く俺は、絶対顔を真っ赤にしていた筈だ。


 ――――


 「お帰り〜!」


 撮影を終えて、自宅に帰った俺とリカルドを君が笑顔で出迎えた。そんな君にリカルドは頬にキスしている。

 『K2とアリサは?』

 『K2がオフだからね、二人でクリスマスの買い物に行ってるの』

 ソファで寛いでいるリカルドに君はそう答えると、俺達にコーヒーを持ってきては渡して向かいに座る。

 『リックはクリスマスは彼女と過ごすの?』

 『もちろん! 朝まで一緒に過ごすのさ!』

 朝までって……そんな事までいちいち言わなくてもいいのに。君も聞いたばかりに、微妙な笑みを見せていた。

 『そ、そう。残念だわ、みんなで過ごせるかなって思ってたけど』

 『K2がもの凄く楽しみにしていたんだっけ。せっかくだから家族だけで楽しみなよ』

 その“家族”の中に君も含まれているのか、リカルドは怪しげな笑みを見せながら話している。まったく……バカな事ばかり言いやがって。

 『それじゃあ、俺は疲れたから寝るよ』

 そう言って立ち上がると、二人を残して部屋へと戻った。

 部屋に入ってデスクにあるパソコンに目をやると、椅子に座ってメールを打ち始める。相手はもちろん綾子サンで、内容はこっちに来てからの出来事……と言っても仕事くらいしかまだしていないけれど。

 周りがうるさくて電話しにくいから、こうして時間が出来ればメールを送って少しでも綾子サンの不安を軽減させようと思っていた。


 “一緒に来る?”


 それが言えなかった彼女への罪滅ぼしとして……



 今回のサブタイトルで、リカルドにバカキャラが定着いたしました……

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