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Chain54 異国の地で待ち受ける何か



 綾子サンとの関係を、煩い渉にまでばれてしまうなんて本当にあの時は油断していた。






 ―――十二月も中頃になり



 「はいっ、ついにやって来ましたよ!」

 「あぁ、ホントだね」


 ヒースロー国際空港に足を踏み入れた俺はその場で叫ぶが、隣りではそんな俺とは正反対にテンションもだだ下がりの君が呟いた。

 「どうした? まさか飛行機で酔ったのか?」

 少し顔色を悪くしている君の顔を覗き込んで尋ねた俺に、君は一気に表情を変えると


 「アンタのせいでしょうが!」


 周りにはイギリス人やその他の外国人が居るのにも関わらず、君はそう叫んでは俺の顔を遠慮なく殴りかかってきた。

 「相変わらずのいいパンチ……じゃなくて、どうして俺のせいなの!」

 君の一撃に思わず感心しながらも、俺はまだ拳を握って立っている君を見上げる。そんな俺に対して君は目の前に座ると

 「日本を発ってからここに来るまで、アンタは機内で何をしていた?」

 「何って……」

 そりゃ座席に備え付けているゲームで遊んだり、機内食を食べたり雑誌を読んだり……あっ。

 「CAのお姉さんに話しかけた事!?」

 そう言った途端、君は俺の襟を掴むと

 「アレは話しかけるの範囲外でしょ!」

 君がむきになって怒るのは、俺が睡眠なんか忘れるくらいずっとCAと話をしていたからかな。でもアレは俺からじゃなくて、彼女たちから話し掛けてきたんだけどな……

 「だって、それなら無視する訳にもいかないでしょ?」

 「だからってね〜、アンタには……」


 『あの、お客様? 他のお客様にもご迷惑が掛かりますから……』

 二人でギャーギャー叫んでいたところに、空港職員がやって来ては割り込んで話しかけてきた。そんな彼女の手を取ると

 『すいません。彼女には俺から……』


 ガツンッ


 『ごめんなさい。彼には私から言っておきますね』

 またしても君は俺の言葉を遮るように殴っては、空港職員のお姉さんに謝ってそのまま俺を引きずっていった。

 「まったく……川島先生が居るっていうのに」

 ブツブツと君は文句を呟いていた。君は綾子サンの為に監視役をしているつもりなのか、俺の行動を厳しく見てはそれを制していた。


 『おーい! ルイ! ナツミ! こっちだ〜』

 空港を出た所で、リカルドが俺達に声を掛けてきた。その声に気付いた君はすぐにリカルドの方へ行くと、ハグして挨拶を交わす。

 『久しぶり〜。この間はありがとうね』

 『どう致しまして。ナツミのキモノ姿かなり綺麗だったよ!』

 散々二人で会話をした後になって、ようやくリカルドが俺の方を見る。そして、ツカツカと歩み寄ってくると

 『久しぶりだね! 元気していたかい?』

 君にしたものと同じ様に俺にもハグをしてくるリカルドを懸命に押しのける。そしてこれ以上自分の方に近寄って来ないよう、リカルドの肩を両手で掴むと

 『久しぶり! そっちも元気そうで何より!』

 肩を掴んでいた手に力を込めていきながら笑顔で話す。そんな俺に対してリカルドは顔を引きつらせながら、俺の手から逃げるとそのまま車の方へと案内する。そこには……


 「母さん!」


 車の傍で立っていた母さんの姿を確認してすぐ俺は呼びかけると、後ろを見ていた母さんは振り返って笑みを見せながらこちらへやって来た。

 目の前までやって来た母さんを俺は軽く抱き締めると

 「元気そうだね、母さん」

 「琉依も。ホント、楽しみにしていたのよ」

 だいぶ身長差がある俺に、母さんは背伸びしながら俺の頭を撫でていた。そんな事するから、未だに子供っぽく見えるんだよね……


 「アリサちゃん!」

 「なっちゃん!」


 背後から聞こえた君の声で、母さんは俺を突き飛ばして君の方へと行ってしまう。突き飛ばされて呆然とする俺を、リカルドは指をさして笑っていた。


 それから俺たちは母さんが運転する車で、K2が待つ家に向かっていた。

 『琉依、ナオトは元気?』

 『元気だよ。店の方も順調だし、来れなかった事母さんたちに謝っておいてって言われた』

 母さんの後ろで俺は姿勢を楽にしながら母さんと話していた。君はというと初めてのロンドンに舞い上がっているのか、さっきからずっと窓の外を眺めていた。そして、リカルドはと言うと……

 『ルイ! ほら、今も俺の看板があっただろう!』

 車で走りすぎてゆく度に、ビルや店に飾られている自分の看板やポスターを見つけては俺に自慢をしてきた。煩いと思うけれど、さすがにその半端ではない数に俺も心の中ではライバル心に火が付き始めていた。

 日本よりもレベルの高い海外でこんなにも活躍しているという事は、やはりリカルドは一流のモデルなんだと此処に来てさらに痛感した。自分も頑張っているから少しはその差も縮まっているんじゃないかと思った俺が何だかバカみたいに思える。


 でもお陰で、最初は乗り気では無かったこの仕事にもの凄くやる気が湧いてきた。


 「ルーイー! いらっしゃい!」

 ロンドンにある宇佐美家に着いた俺たちを出迎えたのは、満面の笑みを見せるK2だった。そしてそのまま俺にハグしてくるから、さっきのやる気が一気に減ってしまった。そんな俺をよそに、K2は既に君の方へ移って俺にしたようにハグをしている。

 『なっちゃん、琉依が仕事の時は俺と一緒にデートしようね』

 『あら。ダメよ、響! なっちゃんは私と一緒にデートするの!』

 『二人ともダメだよ! ナツミは俺とデートす……』


 ガツッ!


 『お前も仕事だろうが……』

 三人の中でもみくちゃにされていた君を引き寄せてリカルドを殴る。まったく……これから年明けまでちゃんとやっていけるのだろうか。




 こんばんは、山口です。この作品を読んで頂き本当に有難うございます。久しぶりにK2&リック登場でバカな雰囲気の話を書く事が出来ました。これからも“毎日更新”をめざしていきますので、どうぞよろしくお願い致します。

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