Chain53 そして、バレてしまった関係
自分が良かれと思ってした事は、相手にとって最良とは限らない……
「そう。それじゃあ、クリスマスもお正月も一緒に過ごせないのね……」
「うん。まさか俺もそんな時期に仕事が入るなんて思わなかったからさ。しかもロンドンだし……」
翌日、俺は早速綾子サンの元に行って事情を説明した。すると、やはり想像していた通り綾子サンは俯いては残念そうに話していた。
「じゃあ、会えるのはもう新学期になるかしらね」
本当は六日には帰国するから会おうと思えば会えるのに、綾子サンは俺の体調の事まで気を遣ってくれいているのかそんな事は言わなかった。俺の仕事の事も理解してくれる……そんな綾子サンの頬に俺は躊躇う事無くキスをする。
「……! だから、まだ生徒が残っているのに!」
「大丈夫だって。俺はそんなヘマはしませんよ」
頬に手を当てて顔を赤らめる綾子サンに、俺は笑いながら舌を出す。ただ、可愛いと思ったからキスしただけだし? 周りの事なんか気にしていられないよ。
「とーこーろーがー、俺は見てしまったのですが?」
ガタンッ!
その日、珍しく渉が俺の家に泊まりに来たと思えば突然高笑いをしながら言ったその言葉に、俺は思わず座っていた椅子から落ちかけてしまった。
「な、何だって?」
「だから〜、俺は見ていましたよって言ったの!」
周囲の事なんか気にしていられない……誰だ、こんな事言ったのは! 何でまた渉に見られてしまうんだ。こいつ、普段は怪我とか病気とは無縁といってもいいくらいなのに何で今日に限って保健室に来るんだよ。
「いや〜。ちょっと指を切ってしまったからさ、絆創膏を貰おうかなと思って」
それくらい男なら舐めておけよ……。今さらながら、ドアを閉めておかなかった事を後悔してしまう。しかし、そんな俺に渉は容赦なく質問攻めにする。
「そ・れ・で? 川島センセイとは、いつからのイイ仲なのでしょうかね?」
「……っ」
目を細めて近付いてはそう尋ねてくる渉を殴りたいという気持ちを抑えながら、俺は観念して答える事にした。
仕事で沖縄に行った時に、休憩でビーチに居た俺を助けてくれた時に出会って……再びホテルで再会して夕食を一緒にして……
「それでヤッたのか! お前、その性欲はどこに行っても健在だな!」
話の途中で割り込むように突っかかってくる渉だが、結局はその通りなので何も言い返す事は出来なかった。
それで、一度はそこで俺がこっちに戻ってくると共に関係は終わったのだけれど……運命か偶然で始業式で俺たちは再会を果たした訳で……
「偶然じゃなくて、それはもう運命だろ? それにしても、お前が一人の女性に執着するなんて俺はビックリしたぞ」
それは俺もビックリしてる。渉は俺が話す一つ一つの話に、全て驚きの反応を見せていた。
中学生の時からの付き合いのせいで、俺は渉に何もかも知られていた。特に女性関係については……もう何でも。
「付き合ったのって、桜センパイの時以来だろ? あの人の時と全然違うのな」
……出た、桜の名前。確かに桜と付き合っていた時もあったけれど、あれは別に俺は彼女に対して恋愛の情なんか一切抱いていなかったし、桜が一方的に舞い上がっては冷めてしまうという恋愛経験の内にカウントしてはいけない出来事に過ぎない。
全く……結構忘れかけていたのに、コイツは嫌味のつもりなのかこうして言ってくるなんて根性が腐ってるぞ。
「まぁ、相手がセンセイでも琉依が初めて好きになった相手だからな! 俺は黙っててやる!」
「偉そうに……」
仁王立ちして宣言する渉に俺はそう言うと、すぐに渉からの一撃を喰らわされた。さらに渉は俺の前に座りなおすと
「それじゃあ、もっと詳しく聞いちゃおうかなぁ……」
「さっき話しただろ?」
そんな俺の言葉などお構い無しに、渉は俺に向けて再び質問攻めを始めた。もう彼女の家に行ったのか……先生との禁断の恋はいかがとか……
様々な質問に答えさせられていた時、階下から玄関のドアが開く音が聞こえて来た。
「渉! 兄貴が帰ってきたのかもしれない! だから、ちょっと黙ってくれる?」
俺の制止に少し不満顔を見せながら、渉はその場で少し黙っていたが俺の部屋のドアを開けた人物を見てすぐにその態度は一変させた。
「な、何で渉がいるの?」
「お〜夏海か! ちょっと琉依に尋問をしていたのですよ!」
兄貴だと思っていたのに、入ってきたのは君だったから俺は思わずため息をついてしまう。そして、それからは渉に加わって君からも俺は綾子サンについて朝まで尋問される羽目になってしまった。