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Chain49 後悔の念を生み出す結果となる



 俺があげた初めてのプレゼント……貴女はまだ持っている?






 「それじゃあ、またね」


 昼すぎになって俺は綾子サンと食事を済ませて彼女の家を後にした。手を振って見送る綾子サンの指には、俺のモノという証の指輪が輝いていた。これからは学校で会う度に、その所有印を見ることが出来ると思うと、何だか照れてしまう。


 ――――


 「あぁ、そうだ……」


 自宅に近付いた頃、昨夜の無言電話による君からの何件かの留守電を思い出した俺は、そのまま君の家へと足を向けた。そして、インターホンを押して君が出てくるのを待つが昨日の朝と同じでその気配は無かった。

 まだ、寝込んでいるのか……? そんな疑問を抱きながら俺は再び合鍵で君の家の中へと入るが、それもまた家中は静かだった。とりあえず部屋には居るのだろうと、階段を昇って君の部屋のドアを開けるが……

 「あれ?」

 昨日はベッドで横になっていた君の姿が、今日は見当たらなかった。元気になってどこかへ行ったのかとも思ったが、目の前に映る乱れたベッドに少し散らかっているクローゼットや箪笥を見るとそれはやがて不審さを覚える。

 「……泥棒?」

 綺麗好きの君がこんなにも散らかしてどこかへ行く訳など無い。それでも泥棒なんかに巻き込まれる訳も無い……とりあえず俺はそのまま自宅に帰る事にした。

 もしかしたら、俺の帰りを待って家に来ているかも知れない。あの留守電や、散らかった部屋はそんな俺を驚かせようとする君のイタズラだ……そう思った俺は急いで家へと向かった。


 「夏海!」

 少し苛立ちながら玄関を開けたが、自宅もまた君の家同様静まり返っている。今日は休日だし、兄貴が絶対家に居るはずなのに……。

 「二人で遊びにでも行っているのか?」

 一人呟きながら階段を昇ろうとしたが、その前に乾いた喉を潤すために何かを飲もうとキッチンへと足を進めた。

 「ん?」

 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した俺は、ダイニングテーブルの上に置かれた紙に気付いてそれを手に取る。走り書きで書かれていたその内容は……


 「なっ……!」


 気が付くと俺は持っていたミネラルウォーターのボトルを落としていて、急いで家を飛び出していた。そして、そのまま大通りに出てタクシーを捕まえる。

 手紙には……


 『なっちゃんが倒れたので、春日病院に連れて行く』


 急いでいたのか、そんな簡単な事しか書かれていなかった。でも、それはいつの事? 昨日? 今日?

 「あっ……」

 昨夜の留守電を思い出す。あの電話の最後の時間は九時過ぎだったか……もしかしてその時に? そして、あれは無言電話じゃなくて……話せなかった?

 それでも、何とか気付いて欲しくてそれで何度もかけて来ていたのか?


 タクシーが春日病院の前で停まり、俺は料金を支払うとそのまま受付へと行って君の病室へと急ぐ。

 階段を駆け上り廊下を少し走ったところにあった、受付で聞いた君の部屋。それを表すかのようにドアの傍には“槻岡夏海 様”の文字が書かれていた。

 ドアの前で荒くなっていた息を整えると、ゆっくりとドアを開ける。すると、中にはベッドで眠っている君とそんな君の傍で座っていた兄貴の姿があった。

 「琉依……」

 いつもよりも少し低めの声で呼ぶ兄貴。その目は決して穏やかな物では無く、明らかに俺を睨んでいた。そして、兄貴は眠っている君に気付かれないよう静かに立ち上がるとそのまま俺を連れて階段の方へと歩いて行く。


 「携帯……」

 非常階段の踊り場で兄貴はそれだけ言っては、手を差し出す。そんな兄貴に、俺はポケットに入れていた携帯を取り出して兄貴の手に乗せた。

 携帯を受け取った兄貴が無造作に携帯を見ると、まずそこで表情を固めて……そして俺の方を見る。

 「これじゃあ、駆けつけるのも遅くなるって訳だ」

 苦笑いを見せてから携帯を俺に見せる兄貴。その携帯は、あれから全く触れていなかったから電源が入っていなかった。

 そして、兄貴は電源を入れてから何かを確認している。その間、俺は何をしていいか分からずただ立ち尽くしていた。


 「なるほど……」

 何かを確認したのか、兄貴は小さく呟くと携帯を俺に返す。そして、それを受け取った瞬間……


 ガツッ ガシャンッ


 「……!」

 携帯に目をやった隙に喰らった兄貴からの拳の勢いで、俺は階段の手すりにその体を強くぶつけていた。

 地面に座り込む形になった俺は兄貴を見上げると、すぐに兄貴は俺の襟を掴んで自分の方に引き寄せる。

 「お前、なっちゃんの具合が悪いって知っていて掛かっていた電話を無視したのか!?」

 その言葉から、兄貴は俺の携帯の着信履歴と留守電を確認したのであろう……その表情は怒りに満ちていた。

 「何度も、何度も掛かっていてどうして気付かなかったんだ!」

 こんなにも兄貴に怒りをぶつけられるのは、生まれて初めてではないだろうか。歳の離れた兄弟だから、俺たちは幼い頃から滅多にケンカらしい事などした事が無かった。

 「お前に掛けても出ないから、なっちゃんは俺に電話を掛けてきたんだよ。無言だったから、おかしいと思って店を友人に任せて帰ってみたら……」

 そこまで言って兄貴は掴んでいた襟を強く掴んで俺を壁に打ち付けると、


 「なっちゃんは、意識を失くして部屋で倒れていたよ……」


 ―――!

 兄貴の言葉を聞いて、俺は頭の中が真っ白になった。昨夜、あの留守電に気付いた時に俺が戻っていたら……そんな後悔が頭を過ぎっていた。

 「なっちゃんが、数回の電話に無言の留守電をしてイタズラとでも思っていたのか?」

 兄貴の容赦ない言葉に、俺はもう何も言い返すことが出来なかった。そんな俺の襟を兄貴は放すと、俺の前に座り込んで

 「暁生さんや真琴さんと約束したよな? 俺たち三人で協力してやっていくから大丈夫だって……」

 そんな兄貴の問いかけに、俺は何も言わずに頷く。暁生さんたちに対してだけではない、俺は君と二人でいた時もそんな約束をした……。それなのに、俺は早速その約束を破っては自分の目の前に居た大切な人とのひと時を選んだのだ。

 君の異変に気付きながらも、俺はそれでも綾子サンに不安な思いをさせたくなかったから。


 ――――


 君の家に行ってちゃんとした荷物を持ってくると言った兄貴と別れてから、俺は君の病室へと戻る。

 少し離れていても、君はまだ目を覚まさず深い眠りに入っていた。そんな君の傍らに座って布団の中に入っていた手を取って握る。

 「ごめん……」

 俺の選択が間違っていた事で、君にこんな仕打ちをしてしまった俺。決して許される訳ではないがそれでも俺の口から出るのは、そんな謝罪の意を込めた言葉だけだった。



 ここら辺でも、琉依の心は少しですが変化が生じています。綾子と夏海……どちらも大切な琉依がこれからどうするか……

 この作品を読んで頂き、本当に有難うございます。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

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