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Chain47 幸せの中に潜む胸騒ぎ



 愛する人の誕生日のお祝いをしてあげるなんて、初めてのことで本当に何をしてあげればいいのか悩んだ。この時の俺は、恋愛に関しては“初心者マーク”が付いているくらいだったんだ。




 「よし、これで後は綾子サンの家に行くだけだ」


 プレゼントを買った俺は、一旦自宅に帰ると着替えて再び自宅を後にした。制服姿だと流石に周りの目も気になってしまうし、それに何だか格好つかないから。

 綾子サンの家に向かう途中で、君の家の前を通ったが二階の君の部屋の方を一度だけ見てそのまま過ぎてしまう。

 ただの風邪だし、そんなに構う必要も無いだろう。俺はこのまま綾子サンの家に行けばいいのだから……。

 時計を見るともう既に七時を回っていた。いろいろな店をまわっていたらそれだけ時間も過ぎるわな。そして、俺はそのまま地図を頼りに綾子サンのマンションへと向かっていった。


 俺の自宅から歩く事三十分で着いた綾子サンのマンションは、一人暮らしのものにしてはなかなかの高級感が漂っていた。うん、やはり制服のまま来なくて正解だった。そして、オートロックのドアの前に立ち綾子サンの部屋番を押す。

 『はい』

 「綾子サン? 俺、琉依です」

 『はいはーい。今開けるね』

 そう言った綾子サンの声がした後、ドアのロックが解除されて中へと進んだ。そしてエレベーターに乗って十階のボタンを押す。


 〜♪


 ふと携帯の着メロが鳴ったので、携帯を取り出すとディスプレイには兄貴からの呼び出しを知らせていた。

 「琉依ですよ」

 『分かっている! お前の携帯にかけたのだから!』

 当たり前の答えを言う兄貴に少し笑いながらも、その用件を尋ねるとやはり君の事だった。

 『夕方、なっちゃんの様子を見に行ったんだがまだ熱がひいていなかったよ。俺、店があるからお前悪いけどまた様子を見に行ってやってくれないかな?』

 ……そう言われても、俺も今は外出中なのですが。まぁ、兄貴はそんな事に気付いていないかもしれないけれど。

 「あぁ、わかったよ。後で見に行ってみる」

 どうせ大した事は無い……そう思いながら兄貴に適当な返事をすると、そのまま電話を切る。そして、十階に着いたのでエレベーターから降りると綾子サンの部屋まで足を進めた。


 “1005 川島”


 そのプレートを確認すると、傍にあるインターホンに手を伸ばす。


 バンッ!


 「わっ!」

 チャイムが鳴り終わらないうちに、中から綾子サンが出てくるとそのまま綾子サンは俺に抱きついてきた。あまりにも突然の事だったので、俺は持っていたプレゼントを落としそうになった。

 「いらっしゃい! 琉依クン」

 綾子サンは俺から離れると、そのまま俺を中へと通してくれた。そんな綾子サンの家の中は想像していたよりも広くて、とても綺麗だった。

 余計なものは置いていないが、いろいろな観葉植物が並んでいて大人の女性の部屋を感じさせるものだった。

 そして、リビングにあるテーブルには綾子サンが作ったのか様々な手料理が所狭しと並べられていた。そんな中、俺に座るよう勧める綾子サンに俺は大きな箱を手渡す。

 「な〜に?」

 「ん〜、プレゼント第一弾ってところかな?」

 子供のように目を輝かせながらその包みを開くと、中には誕生日には欠かせないバースデーケーキが入っており、“HAPPY BIRTHDAY AYAKO”と書かれたプレートも中央で綺麗に主張していた。

 「二十四って入らなかったみたいで……」


 ボスッ


 「余計な気遣いは要らないのよ?」

 言い終わる前に空いた箱で俺の頭を殴る綾子サン。そんな俺たちは笑いながら椅子に座って向かい合う。

 シャンパンが入ったグラスを持って上げると

 「誕生日おめでとう、綾子サン」


 カチンッ


 「ありがとう琉依クン」

 お互いのグラスを少しだけ当てるとそのままシャンパンを飲み干す。それからは綾子サンの手作りの料理を口にしながら、色々な話を始めた。

 「これ、美味しいね。料理得意なんだ〜」

 「一人暮らしをしていたらね、嫌でも上達はしていくものよ?」

 そんな他愛の無い話をしているこの雰囲気は本当に居心地が良くて、人を好きになるというのがこんなにもいい事なのだと改めて実感した。


 〜♪


 「あら? 琉依クン電話よ」

 そんな空気を壊すように流れた俺の携帯の着メロに気付いた綾子サンは、携帯が置かれているソファを指している。それに対して俺は軽く舌打ちをして携帯を手にすると、ディスプレイには“夏海”の文字。

 「どうしたの? 出ないの?」

 俺の手の中でしつこく鳴り続ける携帯に、綾子サンは不思議そうな表情を見せては俺に出るよう促す。しかし、出てしまえばこの雰囲気がダメになってしまいそうな気がした俺は……


 ピッ


 「えっ? いいの?」

 「うん。友達からだったから、後で電話するよ」

 そう言って俺は綾子サンの方を向くと、電源を切ってしまった携帯をソファに投げ捨てて再び戻る。

 そんな俺に対して、綾子サンが少し表情を暗くさせていた事に俺は気付かなかった。


 ――――


 「あ〜、食った食った! 凄く美味しかったデス」

 「はい、お粗末さまでした。それじゃあ、片付けるからテレビでも見ていて」

 「あっ、俺がするよ」

 立ち上がって皿に手を付けると、綾子サンはそれを制してソファに行くように指示する。

 「だ〜め。これは私の仕事! それにモデルなんだから手が荒れたりしたらダメでしょ?」

 そんな事まで気遣う綾子サンに、俺は観念してソファに座った。これから渡そうと思っているプレゼントを手にしたその時、傍にあった電源の切れた携帯に気付きとりあえず再び電源をつけてみる。

 すると、すぐにメール受信の文字が点灯したかと思うと、何と一時間くらいの間に留守電がかなり入っていた。

 しかし、留守電を確認してもどれも無言電話ばかりで何だか気分が悪い。しかも、それは全て君から……

 「えっ?」

 その時、何となく嫌な予感がしていた。君がそんな嫌がらせなどする筈が無いのはよく分かっていた。こんな事をするって事は……

 「お待たせ!」

 そう言って俺の背後から抱きついてくる綾子サンによって、その考えは中断された。そして、隣りに座ってくる綾子サンにぎこちない笑みを見せながらプレゼントを差し出そうとしたその時

 「ねぇ、今夜は泊まっていってくれる?」

 「えっ?」

 今夜は本当に不思議だ。今夜の綾子サンは、自分の家に居るせいなのか学校に居る時よりも幼く感じてしまう。普段なら絶対言わない事をこうして言うのだから、俺は驚いてばかりいた。

 「今日は大切な日だから、こうして琉依クンと一緒に居たい」

 さりげなく俺の手を握る綾子サンは俺の方を見上げては、その瞳を大きく開かせていた。今までは決して言う事が無かった彼女の初めてのわがまま……と言うよりはお願いは普段の俺ならあっさりと承諾しているはず。

 けれど? 胸の奥で何かかが引っかかっている物によって、それを躊躇させていた。そんな俺に何かを察したのか、綾子サンは俺の腕に自分の腕を絡ませると


 「一緒に……居て」


 こうしている間、君は何を思っていたの……?



 綾子の言葉に、琉依はどちらを選ぶのか。目の前に居る愛する人か、それとも胸騒ぎがする幼馴染み……。彼の運命の分かれ道です。

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