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Chain4 始めたモデル活動、そして……


 僅かな……隙間  


 徐々に広がっていく……




 


 “琉依、あなたモデルをやってみる気無い?”


 真琴さんの言葉に、俺はまだ無言で目を見開いていた。そんな俺に誰一人何も言わないから、俺の中では混乱が更に大きくなるだけだった。と言うか、モデルって何? 何をどうしたらそんな話が飛び込んでくるんだ?

 「実はさぁ、今度からウチでもキッズ関連のアイテムを展開していく事になってね。それでやっぱりイメージが可愛い息子だからさ、モデルでも君を使いたいと思ってるんだよ」

 自分のブランドのイメージモデルに我が息子を使うっていうのは、聞いたことないぞ。どこまで我が子ラブを貫き通せば気が済むのか……。

 「ナオトはもう中学生だから、イメージから離れているしルイがピッタリなんだけどなぁ」

 「だから、やってみないか?」

 暁生さんまで……。あぁ、それで真琴さんもこうして同席している訳だ。モデル事務所を経営している真琴さんの元で働けって訳だ。まったく、こうして三人揃うとろくな話が無い。

 「どう? 悪い話じゃないと思うわよ! 何たって、琉依はこんなにも恵まれたスタイルしてるんだから」

 八歳の割には高めの身長だけれど、別にこんな仕事するための物じゃないんだけどね。

 「別に……いいよ。やっても」

 この三人の気迫に負けたのもあるけれど、何よりも退屈しのぎにはなるかなと思ってこの時の俺は簡単に返事した。俺の返事にK2と暁生さんは手を叩きあっていて、真琴さんは俺に抱きついてきた。


 「ん〜、うるさくて眠れないよ……」

 「なっちゃん!」

 「……パパ?」


 大人三人の大騒ぎで起きてしまった君がリビングに現れた途端、暁生さんがソファから立ち上がって君の元へと駆け寄るとそのまま抱き上げる。そんな暁生さんに対して、君は久しぶりに会った父親に満面の笑みを見せて抱きついていた。

 「女の子っていいなぁ〜」

 そんな光景を羨ましそうに見ているK2は、そのまま俺に対して何かを訴えるような目で見つめてくる。それがまたウザイって事に気付かないのかな。

 「それじゃあ、話もまとまった事だし後はマコとK2で進めておいてね。俺は今からなっちゃんとねんねしてくるから〜」

 そう言うと、暁生さんは君を抱っこしたまま二階へと上がって行った。そして俺はそれからはビジネスの時の顔になったK2と真琴さんから詳しい話を延々と聞かされていた。

 退屈しのぎにはいいかもしれないけど、こういう面倒な事には関わりたくないんだよね……。



 それから俺は真琴さんの事務所に入ってモデルとしての活動を始めていった。とは言っても、初っ端から撮影とか出来る訳ではなくてウォーキングやらレッスンを受けるばかりだけど。いくら真琴さん直々の推薦で入ったからと言って甘い待遇が待っているわけでは無い。他のモデルと同じ様に真琴さんスタイルのスパルタが待っていた。

 直接真琴さんが指導する訳じゃないけれど、どこに行っても真琴さんの息がかかっているのか厳しい指導ばかり待ち受けている。そんなレッスンに、初めはうんざりしていたけれど退屈しのぎにはこれくらいの刺激がないとって事でだんだんそれらも受け入れるようになっていた。

 K2もそんな俺がモデルとして成長していくのを見守りながら、自分もまたキッズのアイテムの製作を進めていった。俺は、K2のキッズ部門の発表の場までに間に合うようにと厳しいレッスンを続けていた。

 今思えば、それまで退屈だった俺にとってそれは本当に新鮮で楽しい事だった。こんな仕事のきっかけを提供してくれたK2や真琴さん、暁生さんには本当に感謝している。

 けれど、退屈しのぎで始めたこの仕事は楽しいことばかりではなかった。俺が事務所の社長である真琴さんの推薦で入った事や、俺の親がK2である事がどこからか漏れ始めた事で周りの人間からの扱われ方が嫌な方へと傾き始めていた。

 「お前、K2の息子だからって調子に乗ってんじゃねぇよ」

 他のモデルからの中傷とも取れる文句は別に大して気にはしていなかった。むしろ、そんな事くらい覚悟もしていた。俺が幼いながらも嫌だと思っていたのは、大人たちの俺の扱い方だった。

 一人の子供“宇佐美琉依”としては見てくれず、誰もが“K2の息子宇佐美琉依”として見ていた。


 “K2の子供だから出来て当たり前”

 “子供のご機嫌をとって、父親と付き合いを……”


 そんなばればれの態度で接してくる大人に、俺は自分自身を認めてくれる大人がいないのかとたった八歳の頃から悩んでいた。そんな大人たちを見返してやろうと、学校が終わればレッスンに通って必死で学んでいるのにそれでも一度ついてしまったレッテルは簡単にははがれる事は無かった。

 そんな大人たちに対して悔しくてたまらなかった俺を癒してくれたのは、一番傍にいて見ていた君だけだったね。君はレッスン場へやって来ては、真琴さんと一緒に俺の姿を見ていた。それは真琴さんがいない時でも同じで、ずっと椅子に座って眺めていた。

 「すごいね、琉依。昨日とはまた違って姿勢もだんだん良くなってきているよ! 歩き方が綺麗に見えるし」

 レッスンが終わると、君はそう言ってタオルを渡しながら話しかけてきてくれる。もちろん君は褒めるばかりではなくて、悪いところも指摘したりと気付いた事は何でも遠慮する事無く教えてくれた。

 まともに見てもいないくせにとりあえずお世辞を並べて褒め倒してくるオッサン共とは違い、君のそんな一言が俺の心を癒してくれてはやる気を起こさせてくれていた。


 そうだね、だからこそ俺はこうしてモデルの仕事を続ける事が出来たかも知れないね。K2や真琴さん、暁生さんよりももっと感謝しなきゃいけない相手はなっちゃん……君だったのかもしれない。



 こんにちは、山口です。

 琉依編は物語の流れがゆっくりですので、なかなか第4弾までの設定にまで行きません。それでも、その間にはドロドロとした内容もありますので、ドロドロがお好みの方は楽しみにして頂けると嬉しいです!

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