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Chain46 運命の分かれ道の前で

 ――― 十一月



 「とうとう行ってしまったね」

 「うん」


 空港からの帰り、俺の家で兄貴と三人でコーヒーを飲みながら話をしていた。

 さっき、暁生さんと真琴さんがアメリカへと旅立った。そんな二人を見送ってからここへ帰ってきたが、ふと君の顔を見てもまだそこから寂しさは感じられなかった。

 「まぁ、これからは俺たち三人だからな。何かあった時は三人で協力していこう」

 兄貴の言葉に、俺と君は頷く。とは言っても、君はここで過ごすのではなく今まで通り自分の家で暮らす訳だが。


 “ここで三人で暮らしたら?”


 K2はそう提案したが、君はまだ両親のぬくもりが残るあの家で過ごしたいのだろう。その提案を断っていた。

 それでも、兄貴は君の事を気遣って合鍵を渡してはいつでも来るよう念を押していた。女の子一人では心細いだろうから、夜中でも寂しい時は連絡するようにとも言っていた。

 「琉依も、なっちゃんの家にも行ってやれよ?」

 そんな兄貴の言葉に、俺は適当に頷く。


 ――――


 「ねぇ、琉依クン。明日、家に来ない?」

 あれから数日後の放課後、当たり前のように保健室に来ていた俺に綾子サンがそう話しかける。その内容が余りにも珍しい事だったので、思わず俺は驚いて綾子サンの方を見ていた。

 「嘘。綾子サンが俺を誘っているなんて!」

 新学期初日から出会って二ヶ月が過ぎようとしていたが、今まで綾子サンの家に行った事が無かった俺はその誘いを素直に喜ぶ。

 「うん。あのね、実は明日は私の誕生日なんだ……」

 「二十四歳の!?」


 バシッ!


 照れながら話す綾子サンにそう尋ねた瞬間に飛んできた数冊のファイルが見事に命中。

 「嘘嘘、冗談です。それじゃあ、折角だから明日はお祝いしないとね!」

 「うんっ」

 俺の言葉に短く答える綾子サンだったけど、その表情はとても可愛らしかった。そんな綾子サンを見ていると、思わず抱き締めたくなってしまう。

 「こ、こら! まだ、生徒も残っているのに……」

 そう思っていた瞬間には、俺の腕は綾子サンを包んでいた。その中で、綾子サンはそう言いながらも体はその意志には逆らう事無く俺の背に手を回す。

 高校一年生になって初めて俺は大切な人の家に行って、大切な人の誕生日を祝ってあげる事になった。いつの日か火遊びのように付き合っていた桜の時とは全く違う、一日一日をいい日にして行きたいと思っていた。



 「じゃあ、明日の八時に行くね」

 綾子サンから貰ったマンションの地図が書かれた紙を持って、俺は保健室を後にした。そこから家に帰るまで、ずっとずっと頭の中で考え事をしていた。

 「プレゼント……何にしようかな」

 人にプレゼントをあげるのも初めてだったし、一体何をあげたら喜んでもらえるのか、どういった店に行けばいいのかも知らない完全な“初心者マーク”がべったりと貼り付いていた。

 女性とは何回も肌を重ねてはきたけれど、こんな事をした事が無かった俺はただ悩み続けるしかなかった。

 「……あれ?」

 そう思いつめていた時、ふとある事に気がつく。部屋で考え事をしていた俺は頭を少し掻きながら、階下へと降りていく。そしてリビングやダイニング、キッチンまで見渡すがそこには普段当たり前のように居るはずの君の姿が無かった。

 いつもなら、二人分の夕飯を作って持ってきては雑誌を広げて寛いでいるのに、今日はその姿がどこにも確認出来ない。何故なのか? そう思ってはいたが、そういつも来る事も無いかとそのまま再び部屋へと戻っていく。


 翌朝、君の家に迎えに行ったがインターホンを何度押しても出てくる気配が無かったので、持っていた合鍵を使って中へと入るが家中はとても静かで人の気配も感じられなかった。

 「夏海〜? もう行ったの?」

 そう独り言を言いながら階段を昇って行き君の部屋のドアを開けると、そこにはベッドの中で咳をして寝ている君の姿があった。

 「夏海? 具合悪いの?」

 「……ゴホッ……琉依?」

 君の顔が見えるところまで行きそう聞くと、君は小さい咳をしながら俺の名前を呼んでいる。そんな君の額に手を当てたが、そんなに熱は無いようだ。

 「風邪の様だね。今日はゆっくり休んでおきなよ、先生には俺から言っておくから」

 そう言って立ち上がると、君は咳をしながら頷いてそのまま目を閉じる。それで昨日は家に来なかった訳だ……そう一人で納得しながら俺は階下へと降りてそのまま君の家を後にした。

 兄貴はまだ家に居る。何かあれば兄貴に連絡するだろう……そう思いながら俺はそのまま学校へと足を進めた。今日は特別な日だから、こういった事にはあまり構っていられる程余裕は無かった。


 学校へ着いた時に偶然会った綾子サンと目が合う。周りにはたくさんの生徒がいるから、ばれないように俺は彼女に近付いては

 「今夜が楽しみだね」

 そう小さく囁くと、綾子サンは顔を赤くして微笑んでいる。そんな彼女を見ると、俺の中ではさっきの苦しそうに眠っていた君の事などすっかり忘れてしまっていた。

 大丈夫……俺が気にする事ではないのだから……


 ――――


 「琉依〜! 帰ろうぜ!」

 放課後、渉がいつものように声を掛けてくるが俺はそんな渉に手を合わせると

 「今日はとても特別な日なので帰れません! 君は部活にでも行ってきなさい!」

 少しサボりがちの渉の肩を叩くと、俺は走って教室を後にした。今は三時半……約束の八時まで時間は十分あるが、初心者マークの俺がプレゼントを選ぶのにかなりの時間が必要となるに違いない。そのまま俺は学校を後にして、いろいろな店へと走り回った。



 こんにちは、山口です。

 この作品を読んで頂き、本当に有難うございます! これからもどうぞよろしくお願い致します。

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