Chain45 そして二人は噂の絶えない関係になる
仕事をしている時は、余計な事を全て忘れる事が出来る……
学園祭が終わって数日。うるさかったK2とリカルド、そして母さんは再びロンドンへと帰っていった。リカルドはK2のショーでロンドンに滞在中らしい。二人とも忙しい身なのに、よくもまぁこうして日本に来れたものだ。
そして、無事に成功を収めたらしい学園祭も終わったのに、今でも俺の周囲では色々ざわついていた。それは、俺の事ではなくて……
「ねえねえ。槻岡さんと高月先輩の劇って凄く良かったよね〜!」
「アタシ、思わず泣いちゃったよ〜!」
……といった内容の会話が、どこへ行っても聞こえて来た。学園祭の成功というよりも、君の演劇が大きく成功したようで今でも君たちの話題は尽きる事無く囁かれていた。
しかも、そこに便乗している話題は
「それで〜、あの二人って付き合っているの?」
たかが一度恋人の役を演じただけで、実際にも付き合っているのでは? という風に結びつけるのは無理があるような気がするが、それでも彼女たちはそう言った話をする事が大好きならしい。
「ホント、お前も観たらよかったんだよ」
屋上で昼飯を食っている時に、渉がパンを口にしながら話していた。まったく……教室や廊下でも君と高月の話で煩いからこうして屋上に来たのに、ここでも渉がその話をするものだからいい加減うんざりしてくる。
「渉〜、その話するなら俺帰るよ?」
少し睨みながら渉に言うと、渉は続きを話すのを止めてパンを食べ始める。まだ何かを言いたげな渉だったが、それに気付かないフリをして俺はパックのジュースを飲む。
バンッ
「あ〜、やっぱり居た。私も混ぜて〜」
扉が開く音と共に、君が俺たちの姿を確認するとうんざりしたような表情をしながら近付いてくる。
「どうした、夏海。いつもなら梓と一緒に昼メシ食ってるのに」
最後の一口を飲み込んだ渉は、疲れたように座る君に話しかける。その傍には、いつも一緒に居る筈の梓の姿は無かった。
「梓と食べてたらさ〜、知らない人達がやって来て煩いのよ」
何が? そんな愚問は俺も渉もする気は無かった。その知らない人達が君に何を聞きに来たのかというくらい、簡単に想像できる。おそらくそれは、君と高月の事だろう。
「まったく、たかが一緒に劇に出ただけで付き合うわけ無いのに!」
少し苛立ちを見せながら、食べかけの弁当を広げて食べ始める君。そんな君と渉は話し続けるが、俺は興味ないという顔をしては雑誌を見ていた。そんな俺を見て、君は話していた口を止めてポケットから何かを出してきた。
「そうだ! ねぇ琉依、これ母さんから貰ったんだ!」
「何〜って、うおぁっ!」
四角い紙のようなものを差し出してきた君に、渉がそれを覗き込むと驚きの表情を見せては叫んでいる。そしてしかめ面を見せながら俺を見る渉を怪訝に思いながらそれを受け取って見ると……
「あぁ、これか。よく撮れてるよね」
「よく撮れてる? あぁ、そりゃもうバッチリ! お前って奴は、ホント年中発情しているのな!」
何も驚く事無い俺に、渉が声を荒げてまで説教する程の物でもないのだけれど……。君が差し出してきた物は、先日俺が提案して採用された“レベッタ”の新作のポスターに使用されるポラだった。
つまり、俺がセリナにキスして己の唇に残ったルージュをつけてセリナを抱き締めている物という訳だが、渉はそれを見ては“発情期!”と叫んでいる。
「でも、結構色気が感じられるから買ってしまいたくなるよね」
俺から写真を取ると、じーっと見ながら君は呟いた。そんな君に対して渉は首を傾げている。
「これがもうすぐしたら全国の店に貼られたら、琉依の人気も更に上がるんじゃない?」
「はぁ、そんな物かねぇ。男の俺にはよく分からないけど」
珍しく褒めてばかりいる君に、渉は不思議そうな顔をしては写真を見ている。
「でも、この相手の女の子も琉依にキスされてかなり舞い上がっているんじゃないのか?」
少し意地悪そうな顔を見せながら、渉が俺の腕を自分の肘で突付いてくる。けれど、その予想は正解していた。
――――
「琉依〜、アンタまたセリナからラブコールが来ているわよ」
学校帰りに事務所に寄った俺を待っていたのは、真琴さんのその一言だった。これでもう何度目か……少しうんざりしながら天井を見る。
あの撮影を終えてから、セリナからのラブコールが何度も襲ってきている。
“もう一度一緒に仕事がしたい”
“今度、食事に行かないか”
そんな話を事務所にしてくる訳だ。まぁ、そんな原因になったのはあのキスなんだろうけれど……。
こんにちは、山口です。
この作品を読んで頂き、本当に有難うございます! これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。