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Chain44 一途な君を忘れるための仕事



 今思うと、あの時の俺の選択は……間違っていたよ






 「それじゃあ、ルイとセリナ入って」


 とあるスタジオでカメラマンに呼ばれた俺は、女性モデル“セリナ”とカメラの前に立ち始める。

 レベッタの新作ルージュの撮影の今日は、一宮高校の学園祭当日でもある。その中で俺はK2やリカルドからの嫌味から逃げるため、朝早くから家を抜け出して此処へやって来た。

 ふと壁に掛けてある時計に目をやると、既にその針は十一時を示している。予定表どおりで進んでいるならば、もうすぐしたら君の演劇も始まる頃だろう。


 「初めまして、よろしくね!」

 時計を見ていた俺に、セリナが手を差し出して挨拶をしてくる。そんな彼女に笑みを見せると、握手をしては挨拶を返す。

 「こちらこそ、よろしく」

 「アタシ、ルイのファンだから一緒に仕事が出来て嬉しい〜!」

 はいはい。セリナは一人ではしゃぎながら人の腕に自分の腕を絡ませると、べったりとくっついてくる。

 「ねぇねぇ、高岡サン! 今回のテーマに“恋人”も入っているんでしょ? こんなのどう?」

 そう言っては、勝手にポーズを決めてはカメラマンの高岡サンに提案する。必要以上にくっついてきたり、手を繋いだり……アンタが一人で舞い上がっているだけ。

 「う〜ん、そうだなぁ……」

 さすがはプロ。どんなにセリナがポーズを提案しても、なかなかそれを採用しようとはしない。もともと決めていたポーズを指示しようとする彼に、セリナは不満顔を見せている。


 あぁ、レベッタには悪いけれど、これじゃあ真琴さんが簡単に仕事を断るのも無理は無いな。相手がこんなわがまま女なら俺もやる気がなくなるよ。

 俺は高岡サンが決めていた通りにポーズをとっては撮影を終わらせていく。それは隣りで写るセリナもそうだが、彼女からはまだ不満さは消えていない。


 ――――


 「それじゃあ、一旦休憩に入ります〜」

 スタッフの声で俺はスタジオから出て携帯を見ると、着信が三件も入っている。確認すると、それは全てK2からであった。せっかく逃げたのに、わざわざ電話まで掛けてくるのか?

 「一体、何の用事……」

 〜♪

 俺が言い終わる前にタイミング良く流れる着メロ。確認すると、やはりK2からであった。

 「はい、何の用?」

 『ルイ? 俺だよん! やっと出た〜』

 リカルド? さっきの電話も全てK2から電話を借りてコイツが掛けてきたのか?

 『何? 何か用?』

 『何か用? じゃないよ! 本当に来ないつもりなの? もう、劇も始まっちゃってるよ!』

 ……それだけ? まさか、それだけの用でわざわざ電話をしてきたの? そんなリカルドに思わず呆れてしまい、俺は絶句してしまった。

 『ちょっと、ルイ! いいのか……』


 ピッ


 リカルドが言い終わる前に俺はその通話を無理矢理終了させると、そのまま電源も切ってしまう。これで余計な邪魔が入る事無く、仕事に打ち込める事が出来る。

 片腕を回しながらスタジオの中に入ると、メイクを直しているセリナを確認して高岡サンの元へと足を向ける。

 「高岡サン。次の撮影だけど、ちょっとやってみたい事あるから自由にさせてもらえる?」

 俺の言葉に、イスに座って書類に目を通していた高岡サンは俺の方に目を向けた。

 「ん〜? やってみたい事? そうだね、やってみてよ」

 高岡サンの許可を得た俺は、笑みを浮かべるとメイクさんの元に行って少し乱れたメイクを直してもらう。


 ――――


 「じゃあ、ルイ。とりあえず、やって見せて〜」

 再び撮影を再開した時に、高岡サンは俺に声を掛ける。そんな俺たちのやり取りを、セリナは訳が分からないといった表情で見ていたので俺は彼女の方を見ると

 「とりあえずさ、俺のやる事について来てくれる?」

 「……? う、うん」

 何の説明も無くそれだけしか言わない俺に対して更に顔をしかめるが、セリナはすぐにモデルとしての表情に戻って返事をする。

 「じゃあ、ルイ!」

 高岡サンが声を掛けて間もなく、俺はセリナの腕を引っ張って自分の方に引き寄せる。あまりにも強引だったので、セリナは驚きの表情を一瞬だけ見せていた。しかし……


 「……!」


 そのまま間を空ける事無く、俺はセリナの唇に自分の唇を重ねるとしばらくそのままの状態でいる。そして、ゆっくり離れた俺は彼女を抱き締めてカメラへとその唇を主張させる。そして、今度はセリナをカメラに向けさせてその唇を見せるようにした。

 高岡サンを始めとするスタッフ全員が息を飲む中、俺はゆっくりとセリナから離れると笑みを見せる。

 「こんな感じなんですけど、どうだった?」

 俺の言葉に、ようやくスタッフが我に返ったような感じで俺の方を見始める。隣に居るセリナはというと、突然の出来事に困惑しているのか呆然としていた。

 「い、いいね! 思わず見とれてしまったよ!」

 高岡サンはそう言うと、俺の方へやって来ては肩を思い切り叩いた。少し痛い肩を抑えながら俺は笑みを見せると

 「ルージュのポスター取りだからね。キスして俺についたルージュと、セリナに残ったルージュを見せるのもいいかなって思ったんだ」

 キスをして彼氏に付ける“自分の証”と、自分にも残る“色あせない彼への愛情”。そんな意味も込めて、撮影に臨んだのだが……


 「セリナ〜っ!」


 彼女のマネージャーさんの声で振り返った俺が見たのは、顔を真っ赤にして笑みを見せたまま失神しているセリナの姿だった。

 「……“失神するほどのキス”もいいねぇ」

 高岡サンはそんな俺の顔を笑みを浮かべながら、からかうように言った。


 君が舞台の上で一途な女性を演じている事など消し去ろうと、咄嗟に思いついた俺の提案はセリナを失神させる事で終わってしまった。



 仕事の為なら苦手なタイプの子とでもキスくらいは出来ます! 琉依という男はそんな奴です……


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