Chain43 そして昔と変わらない甘えん坊な君
君の両親の渡米で、また俺の中で何かが歪み始めていたんだね……
「それじゃあ、久しぶりの再会にかんぱ〜い!」
暁生さんと真琴さんがアメリカに行ってしまうという話を終えてから、両親たちやリカルドと兄貴は再会を記念しての軽いパーティーを始めてしまった。
それからの皆は次から次へと酒を飲んでいくから(リカルドに至っては未成年なのに!)もうだいぶ酔いも回り始めている。
そんな両親たちから離れて一人でタバコを吸っていると、いつの間にか君の姿が無い事に気付いた。酒に酔っているみんなは気付いていないだろうけれど、君の姿はリビングだけではなく手洗いにも二階の部屋にもいなかった。
“まさか……”
そう思ってタバコを灰皿にすりつぶすと、賑やかな彼らを置いて外へと出る。そして、少し歩いたところにある君の家の前に来たが、窓には灯りは点っていなかった。
気のせいか? そう一瞬だけ思ったけれど、念の為にと合鍵を使って家の中へと入る。灯りの無い家の中は、真っ暗で二階を見ても電気一つ点いていなかった。
とりあえず、そばにあった電気を点けてから階段を昇っていき君の部屋の前に立つ。そしてノックをしようとした俺の耳に入ってきたのは、微かに聞こえる君のすすり泣く声だった。
「夏海?」
ガチャッとゆっくりドアを開けて電気を点けると、中にいたのはベッドに顔を伏せている君の姿だった。君はそんな俺に反応する事無く、ずっと泣いたまま。
そんな君の傍まで行きすぐ傍に座ると、君の頭をゆっくりと撫でる。
昔から変わっていない、君のその甘えん坊なところ。昔は自分のベッドか両親たちのぬくもりが無ければ眠る事が出来ないくらいの甘えん坊の君は、両親が出張で俺の家で過ごす時もとても寂しげな表情を見せていた。
たかが一週間や二週間、それくらいの短期間でも君はそんな表情を見せては昔から俺を悩ませていた。それが今度は期間がわからないというから、尚更それも酷くなる。
もう小学生や中学生でもない、高校生なのにまだその性格は健在だったか。それとも、それが普通なのか? 俺や兄貴があっさりとしすぎていたのだろうか。
「暁生さんたちと離れてしまうから、寂しいの?」
ふと漏らした質問に、君は顔を伏せたまま頷いている。
「アメリカに一緒に行こうとは思わなかったの?」
そう尋ねるが、今度はなかなか反応を見せない君。それは今でも悩んでいるという事なのだろうか?
「そんなに寂しいなら、君も暁生さんたちと一緒に行った方がいいんじゃないか?」
我ながら冷たいと思うよ。もう少し言い方って物があるんじゃないかって思う。けれど、この思いやりの無さは昔からの物だから仕方が無いんだよ。
“三人で協力し合って……”
K2はああ言ったが、俺はこれから常に寂しがる君を見ているのも辛くなる。もう、昔みたいな慰め方は通用しないのだ。兄貴は店を持つから忙しくなるし、必然的に俺が君と一緒に居る時が増えてしまう。
今ならまだ間に合う……君も暁生さんたちと一緒に行けばいいんだ。
……そう思っているのに、どこを探しても俺の心の中はそんな気持ちでいっぱいなのにどうして俺は……
気付くとまた君の事を抱きしめているのだろうか。どうして俺は君を抱き締めては、優しく頭を撫でて慰めているのか。
「琉依……?」
ベッドから頭をゆっくりと上げて俺の方を見る君の顔は、布団に押し付けていたせいもあってかメイクが擦れて少し酷いものとなっていた。
「っく……夏海、顔がピカソの作品になってますよ?」
笑いながら傍にあった鏡を見せると、君は慌てて手直し始める。そのピカソ的作品のお陰で、俺たちの間の雰囲気も柔らかくなる。
「一緒に……頑張る?」
ほら、また俺の口からは勝手にこんな言葉が出てくる。あれだけ君をアメリカへ行かせようとしていたのに、矛盾した言葉が後から出てくるんだ。
俺の言葉に、メイクを直していた君の手が止まりこちらを見る。その瞳からはまだ迷いが感じられ、両親と行くのか俺達とここに残るのかを悩んでいるようだった。
それでも、俺の手は君の方へと差し出される。
「俺や兄貴と、一緒に……」
言葉っていうのは本当に不思議な物で、強く思っていなくてもそれが簡単に外へと出る物だ。そんな俺の手に君の手が重なり合おうとしている。
そんなゆっくりとは待てない。俺はすぐにその手を掴むと、君を自分の元へ引き寄せ再び抱き締めた。
「大丈夫。寂しさなんてすぐに忘れてしまうよ」
今日の俺はどこかおかしいのだ……そう思うことにしよう。こんな事は今日だけで十分だ。
そのまま君の顎を軽く上げると、そのままキスを降らせる。寂しいのか、君は抵抗する事無くそれを受け入れる。
俺たち以外誰もいないこの家の中で、これからは君の寂しさを紛らわせていこう……
果たして、この時の俺の選択は……正しかった?
リカルド、未成年で飲酒! 琉依、未成年で喫煙! 本当にすいません。良い子は決してマネをしないで下さい。