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Chain40 君は俺の……紫



 あの時、俺が断らなかったら……アイツは現れることが無かったのだろうか……






 「二年の高月君? あぁ、女の子たちが騒いでいるのを聞いた事があるわね」


 昼休みに保健室に行って話をすると、綾子サンは弁当を食べながら話していた。今日は彼女が俺の分も作ってきてくれると言っていたから、こうして俺も一緒に食べていた。

 「綾子サン、生徒とそんな話もしているの?」

 綾子サン特製の玉子焼きを口に頬張りながら俺が尋ねると、綾子サンはお茶を渡してきては空いた手を横に振ると

 「違うわよ。この間、高月君が怪我をしてここに来た時に知らせを聞いた女の子たちが飛んできたのよ」

 はぁ、そんなに有名人なんだ。女の子にしか興味が無いから、そんなオトコマエが居ても全然気にしなかったなぁ。

 「それで、彼が琉依クンの代わりになったんだ」

 綾子サンの言葉に俺は弁当を食べながら首を縦に振っていた。少しは興味があったことだったから惜しいなとは思うけれど、それでもこれであのしつこい彼女たちから解放されると思えば楽になった訳だし。まぁ、いいか。


 「あの〜、宇佐美クン……」

 そう呼ばれてふと出入り口のほうを見ると、そこには数人の女生徒が塞ぐように立ってこちらを覗いていた。俺は綾子サンを一度見てから、軽く返事をしながら彼女達の方へと近付いていく。

 「えっと、何かな〜?」

 綾子サンとのひと時を邪魔された感じがして、少し不機嫌になりつつもそれを抑えて彼女達に笑みを見せる。

 すると、彼女たちは一斉に持っていた物を俺に押し付けてくると

 「あの! 昨日が誕生日と聞いていたので、遅れたけど……これ受け取って下さい!」

 あぁ、誕生日プレゼントか。どこで聞いたか知らないけれど(恐らく情報源は渉か?)それでもこうしてわざわざ探してまで持ってきてくれた彼女達から一つ一つ受け取ると

 「ありがとう」

 お礼を言うと、彼女たちは何か分からない歓声を上げながらかなりの速さでその場を去っていった。その後姿を見送ってから俺は再び綾子サンの元に戻ると、綾子サンはそのプレゼントの山を見つめて

 「琉依クン、昨日が誕生日だったの?」

 「うん、昨日で十六になりました〜」

 驚いた顔を見せながら綾子サンが聞いてくるので、俺はピースサインを見せながら答える。


 「そう。ごめんなさいね、知らなかったからお祝いも用意できなくて」

 「えっ?」

 ふと視線を綾子サンに向けると、綾子サンは少し表情を暗くさせて苦笑いを見せる。そんな彼女の視線の先には、俺が手にしている数多のプレゼント……。

 俺はそんな綾子サンの寂しげな笑みに気付くと、手にしていたプレゼントを乱暴に床に落として綾子サンを抱きしめる。

 「琉依クン?」

 突然の事に驚いている綾子サンは俺から少し離れて俺の顔を見つめてくる。そんな綾子サンを俺は構わず抱き締めたまま。

 さっき綾子サンが見せた寂しげな表情をもうさせたくないから。

 「来年は、一緒に過ごそうね……」

 綾子サンの耳元で囁くと、綾子サンは俺の胸に顔を埋めてコクンと頷いていた。

 せっかく手の届く存在になった彼女なのに、寂しい思いだけはさせたくは無かった。


 ――――


 放課後、体育館に行くと舞台の上では君と高月が劇の台詞合わせをしていた。まだ衣装が無いから制服のままだけど、それでも台本を片手に演じる君はもう紫の上になりきっていた。

 愛する人が他の女性のもとへ行ってしまうのを、我がままを言う事無く笑みを見せて送るその切なさを表現している君の表情を俺はただ複雑な心境で見ていた。

 「あれ? 琉依も見に来てたの?」

 声がする方を振り返ると、そこにはバスケットボールを持って立っていたユニフォーム姿の渉がいた。

 「ちょっとね。渉は、今日はアウトだろ?」

 「そう! 舞台を演劇部が使っているから、俺たちバスケ部やバレー部はアウトなのです」

 そんな渉も、部活が退屈だからという訳で少し覗きに来たと言う。渉は、そんな俺の前に来て中を覗いては小さく歓声を上げる。

 「ふ〜ん。あいつもあんな演技が出来るんだね。ちょっと意外かも」

 床に置いたボールの上に上手く座りながら見る渉は、君の演技に感心しながら手を叩いている。君とは中学から一緒である渉は、初めて君の演技を見ている訳だから意外とも思えるのだろう。


 でも、俺は君が演技上手だと言う事くらいは十分分かっていた。

 演技と言うよりも、嘘に近いかもしれない……。君は周りの人間に俺との関係をばれないように、上手く演技しているよ。綾子サンにも、渉や梓に対しても……。そんな優しい君は、俺から見ると本当に切なく思えてしまうよ。

 俺を気遣ってもそれを表に出そうとしないそのいじらしさは、今君がそこで演じている“紫の上”と同じ様に思えてしまう。

 自分の気持ちを決して言わない……バカな女に。


 だから、俺は君と演技をする事なんて出来なかったんだ……

 これ以上、その健気な君を見せられるのは嫌だったから。




 初の40話越えです……(汗)ここまで読んで下さり、本当に有難うございます! ここら辺でも、琉依の中では感情が歪みつつあります。

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