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Chain37 時を超えた年中発情期男



 綾子サンの色香と、君のぬくもり……同じくらい大切だった





 「お願い! 宇佐美クン!」


 教室に入るなり俺を待っていたのは、そう叫ぶ……数多の女の子!

 「お願い? 何でも言って、言って」

 ニコニコと笑顔で席に座ると、その周りを彼女たちが囲んできて身動きが取れない状態になってしまった。

 「あのね、私たち演劇部なんだけど宇佐美クンに協力して欲しいの!」

 よく見ると、この人たちは同じ一年じゃなく二年や三年の先輩方ばかり。んで、演劇部への協力と言ったらやっぱり……。

 「それは、劇に出るって事ですか?」

 笑顔を崩さずとりあえず尋ねると、彼女たちは激しいくらい頷いてみせる。しかもそこにいる人全員が同じ動作をするから、かえって気味が悪いのですが……

 「そうなのよ! 来月の末にある学園祭の劇なんだけど、どうも主役にピッタリの男子部員がいなくて困ってたの」

 「そしたら宇佐美クンがピッタリって思って〜!」

 それならその男子部員にピッタリあう作品に変えた方がよっぽどいいんじゃ……。そう思いながらも、俺はとりあえずは彼女達の話を聞き続ける。


 「急な話で悪いんだけど、でもあたし達どうしても宇佐美クンの演技が見たいの!」

 モデルの俺はまったく演技についてはド素人なのですが、それをどこに期待しているのか。それに、俺には仕事もあるからそんなに練習にも参加できないし……。これはもう断った方がいいかも。

 「あ、あの。せっかくだけど、この話は……」

 「これが台本なの!」

 人が断ろうとしているのを無理矢理入り込んできては、強引に台本を押し付けてくる。もうこれは依頼じゃなくて、完全に決定しているようなものじゃないか。

 悪いがそれでも俺は断る……

 「これが台本?」

 「そう! もう他の配役も決まってしまってるのよ!」

 ふと目を下ろした時に見えたタイトルで俺は台本を手に取る。いや、それでも俺は……

 「この作品の主人公を、俺がするって話なんだよね?」

 「そうなの! もう学校中を探しても、このイメージにピッタリ合うのは宇佐美クンしかいないのよ!」

 お願い! と訴えてくる彼女たち。それでも、俺はこの話を……


 ――――


 「引き受けた訳ですか……」

 「おう!」

 屋上で渉は呆れたような顔をして俺の方を見ている。俺は受け取った台本に早速、目を通しては台詞を確認する。

 「お前はホントにバカですね」

 「何言ってるんだよ! こんなベストキャスティングはなかなか無いですよ?」

 いや、ホント。さすがは演劇部! 人を見る目をしっかりと養われている。そりゃ、これは演劇部の男子部員では到底出来る物ではないですよ。

 これはまさしく俺にしか出来ない……いや、俺だからこそやってもいい作品だわ!

 「まぁ、そうだよな。こんな男を演じられるのはお前しかいないよ」

 渉は俺から台本を取り上げてペラペラと捲っている。

 「いや、演じるよりもただの素のお前を見せればいいだけのものか……」

 渉は嫌味を込めて言っているが、それでも俺はやる気満々でいるこの作品は……


 「なぁ、光の君!」


 渉の呼びかけに、俺は艶っぽく振り返っては笑みを見せる。

 そう、彼女たちが依頼してきた劇の作品名は『源氏物語 若紫の章』で、俺はその光源氏の役で出演して欲しいとオファーを受けたわけだ。

 「光の君といえば、年がら年中発情期男で正妻だけではなくそこら中の女性たち手当たり次第ヤッた奴だろ?」

 年がら年中の発情期男って……見目麗しい男性とは言えないのかな。

 「うん、お前にピッタリだわ」

 そうかい。俺にピッタリってか……。そこまで断言してくれると、俺もまたやる気が出てきますよ。

 でもまぁ、確かに俺も彼と同じかもな。

 綾子サンとせっかく再会できたと言うのに、それでも俺は家に帰ってはその日のうちに君を求めてしまった。それが君からの挑発とはいえ、俺はそれでも君の事を放す事が出来なかった。

 それから数日たった今でも俺は学校では綾子サンと密かに会って、そして自宅に帰ると君と肌を重ねる。ホント、年がら年中の発情期男と同じにされても何も言えないや。


 「それで? ヒロインの紫の上は誰なんだ?」

 それなんだよね……。


 ―数時間前―


 「何? 夏海にも声をかけているって?」

 「そうなのよ〜! だって、宇佐美クンと並べても釣り合いが取れるのって、槻岡サンくらいじゃない?」

 いや、それこそおかしくなるでしょ? これは演劇部の催し物なのに、俺だけではなくて夏海まで出てしまったら演劇部いらないよ?

 「あたしたちだって宇佐美クンの相手役したいけれど、無理だもん〜!」

 無理じゃない! いや、かえって夏海とする方が無理です! そんな可愛い子なら夏海だけじゃなくても……

 「いた……」

 夏海じゃなくて、いや夏海よりも紫の上にピッタリな人物がいる!


 ―――


 「……と、言う訳で演劇部員に頼んで、その子の所に行って頼んできてもらっているのです!」

 そう言った後、渉の方を見たが呆れた顔してこちらを見ていた。そしてため息をつくと

 「お前が邪魔しているように思えるのですが……」


 そう言って渉はそのまま横になって寝始めた。そんな渉に俺はただ苦笑いをする。

 だって、夏海に紫の上なんかさせられないよ……


 


 琉依のイメージは“光源氏”でした。ですので、どこかで、それを取り入れてみたいなと思いこうして演劇で使う事にしました。紫の上候補の夏海そしてもう一人は……ご想像付きますよね?

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