表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/185

Chain3 覗かせた誘惑によって


 埋める事無く広がった隙間は、俺を別の事に対して夢中にさせるには十分すぎた。

 もしもあの時、俺と君の間が離れていなかったらまた別の道を歩んでいたのかもしれないね……





 「ただいま〜」

 俺と兄貴がお祖父様の家から帰ってくると、玄関には久しく見ていなかった靴があるのに気付く。それを見た兄貴が一歩後ずさりしたまさにその瞬間だった。


 「おっかえり〜! 息子たちよ!」


 リビングから大きな声を上げながらこちらへ走ってくるのは、久しぶりに見る俺たちの父親=宇佐美響一、通称K2。長期の出張から帰ってきたのか、バタバタと走ってきては俺の顔を見るなり飛びついてくる。

 「ルイ〜! 大きくなったなぁ!」

 「いってぇ! 大きくなったって、たったの三週間ぶりだろ!?」

 K2によって潰されてしまった俺の代わりに、同じくとばっちりを受けた兄貴が冷たく言い返した。すると、それを聞いたK2は兄貴の方を見ると俺から離れて

 「ナオト! お前も立派になったなぁ。いくつになったんだ?」

 「だから、三週間前と同じだっつの!」

 抱き締めてくるK2に抵抗しながら、兄貴は冷たく言うとそのまま二階へと上がってしまった。そんな兄貴を見送ったK2が次に狙いを定めるのは……

 「ルーイー! パパのパリでのお仕事のお話を聞かせてあげようか〜?」

 じわりじわりと近付いてくるK2に対して、俺はその距離を縮めまいと後ずさりする。出張等でしばらく会わないといつもこうだからなぁ……。

 K2は、ブランド“K2”のデザイナーとして世界的に有名で年がら年中海外や国内を飛び回っている、こう見えても一応はカリスマ的な存在なんだけれどこうして仕事から離れると、ただの馬鹿親父って訳。

 「いらない。あっ俺、真琴さんに言う事があったの忘れてた〜」

 「えっ、ちょっと……」

 K2が捕まえようとしてくる前に、俺は咄嗟に思いついた嘘を言うとそのままドアを開けて一目散に逃げ出した。

 「ちょっと〜! まだ言う事あるのに〜!」

 そんなK2の言う事など無視して、俺は君の家へと急ぐ。そしてインターホンを押す事無くドアを開けて入ると、そこには真琴さんがちょうど通りかかっていた。

 「あら、琉依じゃない。どうしたの、そんなにも慌てて」

 真琴さんはとりあえず俺を中へ通してくれると、ソファに座らせてジュースを持ってきてくれた。咄嗟についた嘘で、本当は特に用も無かった俺はこれからどうしたものかと、とりあえずジュースを飲みながら考えていた。

 「おっ? 琉依じゃないか」

 「暁生さん!」

 自分を呼ぶ声のする方を見ると、そこには暁生さんがタバコを吸いながら立っていた。暁生さんはカメラマンをしていて、K2とよく仕事を組んでやっている為よく二人揃って海外へも行ったりしていた。

 「そっか〜、K2も帰ってるってことは暁生さんも帰って来てるんだよな。お帰り〜」

 自分の向かいに座る暁生さんにそう言うと、暁生さんはタバコを置いて片手を挙げて応える。そんな暁生さんの横には、普段なら必ずと言っていい程くっついている筈の君の姿が無いのに気付く。

 「暁生さん、なっちゃんは?」

 「夏海? じーさん家に行って疲れたのか、上で寝てるよ」

 せっかく俺が帰ってきたのに……と寂しそうに呟く暁生さんは、K2と同じでかなりの我が子ラブだった。しかし、ウチと大きな違いはそんな暁生さんに対して君もまた暁生さんが大好きで必ず傍にいるということ。それに比べて俺や兄貴はK2から離れたいくらいウザイと思っている。


 「そうだ、琉依が来たって事はあの話を受けてくれたって事かな?」

 「はっ?」

 暁生さんの言葉にただ訳が分からない俺は、眉をひそめて暁生さんの顔を見る。暁生さんはそんな俺を見ては〜っとため息をつくと

 「K2の奴……あれだけ言っておけって言ったのに、すっかり忘れているのか」

 「違うよ〜! 俺が言おうと思ったら、ルイが出て行ったんだよ〜!」

 背後から声がしたと思ったら、いつの間に入ってきていたのかK2が俺を捕まえていた。突然の事に、驚きながらも必死にもがいている俺をK2はがっしりと俺の体を離そうとはしなかった。

 「ルイ、せっかく大事な話があるのに、逃げちゃあダメじゃないか!」

 メッと軽くデコピンしてくるK2を気持ち悪いと思いながらも、やっと解放された俺はその大事な話とやらを聞く為に逃げる事無くその場で座っていた。そんな俺を見て安心したのか、K2は暁生さんの隣りに座る。すると、さっきまで別の場所に居た真琴さんも俺の隣りに座ってきた。

 大人三人に囲まれる子供、まるで何か悪いことして怒られている気分だなと思いながら俺は何の話が始まるのかと内心ソワソワしていた。そんな俺に、真琴さんが口を開き始めた。


 「琉依、あなたモデルをやってみる気無い?」


 はっ? モデル!?

 突然の真琴さんの言葉は、意外すぎて俺を驚かせるには十分すぎるほどだった。




 バカの親はバカ。

 今回のお話を見てそう思った方は結構いらっしゃるのではないでしょうか……。

 宇佐美響一=K2の初登場です。デザイナーとして世界的に有名なのですが、普段の彼はホントにふざけているとしか思えないほどのバカです。そして、夏海の父親=暁生も初登場ですが、二人ともどうしようもないくらいの我が子ラブです……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ