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Chain36 抑えきれないこの気持ちたち



 キスをして抱き締めて……もっと貴女の事を知りたいよ






 “それでも俺は、今すぐにでも貴女にキスしたいしこの手で抱きたい。壊れてしまうくらい、貴女を抱き締めたいよ”


 沖縄で貴女にぶつけた俺の気持ちを込めたこの言葉を、貴女は覚えている?


 もう二度と出会えないと思っていた貴女を、この学校の壇上で見た時から俺の気持ちはもう歯止めがきかなくなっていた。ただ、壇上に駆け上がってしまいそうな思いを抑えるのに必死だった。

 そして今、俺はこの腕でしっかりと貴女を抱き締めている。そして、あの時果たせなかった俺の欲望を満たす。

 キスして、抱き締めて……この腕で壊れるくらい貴女を抱く。

 場所は俺の手によって作られた密室。その中にあるカーテンに囲われたベッドで、俺は貴女を壊れるくらい抱き締めた。



 「白衣の天使って、こう言う事だったんだね」

 一人用の狭苦しいベッドの中で、必然的に密着しては日が暮れる今まで話をしていた。灯りを点けていないこの部屋は、もう薄暗くて俺と綾子サンの姿も隠してくれる。

 暗い暗いこの部屋の中で、俺たちは再び会ってはお互いのぬくもりを確かめ合った。

 「そうよ。もしかして、看護士さんとか思っちゃった?」

 それなら悪いことしたわね〜と以前のように明るく笑って話す綾子サンを見て、俺はやっと安心できた。

 「やっと……笑顔が見れた」

 向き合って笑みを見せながらそう言う俺に、貴女は薄暗い部屋の中でも分かるくらい顔を赤らめていた。年上をからかうなと言いたげな表情で、貴女は俺の顔を軽く叩く。

 「でも良かった〜。もし、俺の事を忘れてたらどうしようかと思ったもん」

 綾子サンの手を握り締めてため息をついてからそう言う俺の頭を、空いていたもう片方の手で優しく撫でながら綾子サンは笑っている。

 「忘れる訳無いじゃない。あんなにも熱烈な告白をしてもらったのだから」

 熱烈ね……。今思うと、あの時はホント感情に任せて全てを吐き出しただけだから、ガキの告白みたいで本当に恥ずかしいだけなんだけど。


 「そういえば、綾子サンって幾つだっけ?」

 「……女性に年齢を聞くなんて、琉依クンもまだまだ子供なのね」

 お互いベッドから出て散乱していた服を拾って着ている時、ふと思いついた事を聞いてみたが綾子サンはその手を止めてこちらを睨んでいた。

 「違うよ。もちろんこんな事は他の女性には聞かないけどさ、綾子サンの事は何でも知りたい訳」

 だって、綾子サンの事は名前くらいしか知らなくて苗字も職業もさっき知ったばかり。年齢もどこに住んでいるかも、好きなことも知らない。まぁ、もの凄い食欲の持ち主って言うのは分かっているけど。

 「わかってよ? 何でも知りたいんだ……」

 まだ眉間にシワを寄せては不機嫌な顔をしている綾子サンの髪に触れてキスをしては、今一度綾子サンの顔を見る。偶然にも上目遣いになった俺から見た綾子サンは、観念したのか少しだけ顔を赤らめて顔を逸らしている。

 「……ッ二十三よ」

 俺にも聞こえるか聞こえないかって位の小さな声で言う綾子サンは、そのまま着替えを再開して背中を向ける。

 「二十三かぁ……」

 これでまた綾子サンの情報を一つ手に入れることが出来た。もう焦る事は無い、これからはゆっくりと綾子サンの事を知っていけばいいのだから……。


 しかし、突然の再会で浮かれていた俺はまだ重要な事に気付いていなかった……。


 「ただいま〜っと、あれ?」

 始業式だというのに、真っ暗になってから帰ってきた俺を待っていたのは、部屋で雑誌を広げている君だった。

 「お帰り〜。ご飯、冷蔵庫に入れてるよ〜」

 こちらを見ずに君はそう言うと、再び雑誌を見る事に集中する。そんな君に構う事無く俺はカバンをベッドに放り投げて、制服を脱ぎ始める。

 「それだけで、わざわざ待っていたの?」

 冷たく言う俺の言葉にも答えず、君はお菓子を食べてはページを捲っていく。そんな君に少し苛立ちを覚えた俺は、君から雑誌を取り上げると俺の方を向かせた。

 「何? 言いたい事でもあったら、言ってくれなきゃ分かんないよ」

 掴んでいた腕を放すと、君は顔を逸らして深く息を吐く。そして、一時置いてから笑顔を作ってこちらを見ると

 「あの保健の先生って、この間の人でしょ? また会えて良かったじゃない」

 あぁ、それか。夕飯を持って来る事ではなくて、それがメインの用事だったわけだ。それで、わざわざずっと俺の帰りを待っていたんだ。

 「あの人と、付き合うんでしょ?」

 食べていたお菓子を片付けて雑誌もきれいに揃えながら君は言う。

 なぜ、君にそこまで言われなきゃいけないんだ? 俺と君とはただの幼馴染みで、快楽を求め合うだけの関係に過ぎない。とても浅い関係なのに、どうして君はそこまで深く入り込もうとしてくる?

 「夏海には関係ないでしょ? 俺が誰と付き合おうが」

 「関係なくないよ。だって、アンタが誰かと付き合えば、もう私は必要ないから」

 吐き捨てるように言った君の一言は、俺を驚かせるのには十分だった。俺に彼女が出来たら自分は用無し……そんな事を考えていたのか?

 君の表情は、どこかスッキリとしないものだった。

 「ヤキモチ?」

 「どうして私がヤキモチなんか妬かないといけないの?」

 冗談半分で言った俺の言葉を嘲笑いながら君は答える。別に本気で言った訳じゃないのに、そんな風に返されるとかえってこっちが馬鹿馬鹿しく思える。

 「オメデトウ! これも運命なんだから、大事にしてあげ……」

 「うるさい」

 君が言い終わる前に再び腕を掴んで引き寄せると、そう言ってそのまま唇を重ねた。思いがけない行動に、君は目を大きく開いている。

 「さっきからホント煩い。俺の心配するより、自分の心配でもしなよ」

 掴んでいた腕に更に力を込めると、君は痛みで眉間にシワをよせる。

 「心配しなくても、俺はお前との関係も続けるから」

 そう言って俺はそのまま君を抱き締める。君はそんな俺の中で


 「……最低っ」


 そう何回も呟いていたが、それでも君は俺の事を分かっているのかそれ以上は何も抵抗することは無かった。

 一度はまってしまったこの快楽は、たとえ俺に運命の再会を果たさせても弱まる事は無かった。

 


 一夜限りでも確かに自分の心を捕えた綾子と、これまで自分に快楽を与え続けていた夏海。その両方とも自分の手の中に置きたかった琉依は、天性の女好きです(汗)

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